J 無意識に人を躍らせる概念的意識
「どうかされました?」
突然声が掛かる。その方を向くとサユリが首を傾げるようにしていた。どうやら、部室でボーッとしていたようだ。
「…え」
俺は少し惚けた声を出してしまう。
「いえ、ボーッとしていましたので…」
サユリは笑みを浮かべたまま言う。
「あぁ、悪い…、あと三日で文化祭かって思って」
「…何もしてないのに」
「晃仁さんは何も準備とかしてないですよね」
「いや…、今更だけど、何かしたほうがよかったかなぁって思ったんだよ」
事実、美樹には何もしなくていいと言われてはいるのだが…。
「…ダメ人間」
「他の人が楽しく準備している傍らで呆けてるなんて、まさしくですね」
そこまで言うか。
「でも、無気力人間ですから、あまり本気ではないでしょうね」
「…冷め過ぎてる」
「そうか? そりゃ、美樹ほどハイテンションとかにはならないけど、盛り上がってはいると思うけど…」
「…熱に当てられてない」
「そうですね。仲間はずれになった子みたいです」
今度は二人して哀れむような視線を送ってくる。
「なんだよ、熱って」
「お祭りって聞くと人は無意識に盛り上がりますよね? それが熱です」
「…それで皆が盛り上がる」
活気とか熱気とかみたいなことだろうか。
「うーん。まぁ、間違いではないですけど…」
「…類似語みたいなとこ」
「でも、確かに、俺はあんまそういうのにはならないかもな」
「…人間が熱に当てられると、私たちみたいのも盛り上がる」
「えぇ、とても楽しくなりますね」
「そういうもんなのか」
「力も強まりますし…」
え? 今妙なセリフが聞こえたような。
「いえ、なんでもありません」
サユリはそう言ってにっこりとする。
キーンコーンカーンコーン。
その時、下校を促すチャイムが校舎中に鳴り響く。俺は鞄を持ち、部室の扉から廊下へと出る。
「じゃ、俺帰るから」
「えぇ、また今度」




