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第23話:推しに希望を…!



 暫く沈黙の時間が続く。




 私はとにかくリアム様の動きを見逃さないように注意した。先程、目を輝かせたように見えた。という事は、反応としては悪い事ではないだろう。そこはひと安心している。


 ただ、推しに見つめられるのは、どうも落ち着かない。




(なんでこんなに見てくるのかしら……)




 私は推しの目から逃れられず、気恥ずかしさと困惑を覚えながら様子を窺っていた。暫くしてリアム様は飲み込むような仕草をすると、再び口をゆっくりと開けてきた。それが、まるで餌を欲しがる鳥の雛のようで、一気に萌えた。




 ーーギュンッ




 心臓が高鳴り出す。




(か、かわいぃいぃぃ……ッ!!!)




 爆発しそうだ。このままでは爆ぜてしまう……! 私は、急いで推しから目を逸らし、お粥のおかわりをスプーンでひとすくいする。そして、ふーふーと息を吹きかける。その息は、心無しか強くなってしまったような気がした。


 再びリアム様を見ると、同じポーズでご飯を待っている。その可愛さの凄まじさと言ったら無い。後光が見え、私はその可愛さの圧の風に吹き飛ばされそうだ。




(ルシアーー!! 落ち着くのよーー!)




 そう……これはあくまで任務……。推しを更生して幸せにする、そして平和な世を作るための任務なのだ。ここで1人天に召されていてはいけない……!


 私は目を瞑り、一気に気持ちを冷却させる。




「……」




 目を開けて、推しを見る。




(『あーん』して、待ってる……ッ)




 無理だった。冷静なんてなれる訳がなかった。


 なんとかキュン死にしないように、前世で祖父を介護を手伝っていた時の事を思い出しながら、ご飯をリアム様の口へと運んだ。


 リアム様は自分から進んでご飯を口に含んでくれる。もぐもぐと口を動かす推し。




(あーダメだわ! 何をやっても好き過ぎる!!)




 私は、隠れオタクスキルで何とか表面上だけは冷静でいるが、内心は何度も爆ぜそうになっていた。


 くっ……っ! 推しのサポートが出来て嬉しいけれど、こんなに近くで生の推しを眺められるのに感情を出せないつらさ……。だけど、伊達に隠れオタクをやっていた訳ではないわ。




 幾度となく試練を乗り越えてきた私。パリピ・リア充で、漫画やアニメとは程遠い世界の友人が多かった前世の頃は、それがバレないように生活していた。


 友人とたまたま入ったファミレスで『いばらのドラゴン』通称:『いばドラ』のフェアがやっていても何食わぬ顔をしていたり(あの後もう一度ファミレスへ行って1人でフェアを満喫)、友人とガチャガチャ通りを歩いていた時『いばドラ』のガチャを発見しても素通りしたり(友人と別れた後、推しのリアムキーホルダーが出るまでガチャをした)……。


 その甲斐あって、周りに私がオタクである事は全くバレずに35歳まで生きてこれたのだ。




(そんな私が、ここでリアムファンだとバレてはいけないわ……)




 私はまたも口を開けてくるリアム様を目にして鼻血が出そうになりながら、今度はカボチャの煮付けを食べさせた。


 すると、今度は目を瞑って堪能するように味わうリアム様。




(この顔も、かんわいいぃぃーー!!)




 私は急いで自分の口を手で押さえた。危ない危ない……声に出そうだったわ。私もリアム様の見た事のない表情を堪能させてもらってます……!


 そんなこんなでご飯を食べさせていると、リアム様はあっという間に、卵粥とかぼちゃの煮付けを完食したのだった。




「お腹は満たされましたか、リアム様?」




 私が声を掛けるが、リアム様は完食した後、顔を俯かせたままで反応をしてくれなかった。




(どうかしたのだろうか?)




 私は気になり、リアム様の顔を覗き込んでみた。すると私の目に映ったのは、涙を目に溜める推しの顔だった。




「リアム様……」


「……美味し、かった……っ」




 言い終えたリアム様の目からは、ポタポタと大粒の涙が流れ落ちた。その歪んだ表情に私の胸がギュッと締め付けられた。苦しそうなリアム様の顔……どんな気持ちなのだろうか。そう思っていると、下を向き涙を流したままリアム様が私に声を掛けてきた。




「君は……僕の事、怖く、ないの?」


「え……?」




 私は質問に目を見張った。




「僕は、呪われてしまって……だから誰も、僕に……近付きもしなかったのに……」




 掠れる声をさらに小さくして素直な気持ちを出してくれたリアム様に、私は思わず涙ぐんでしまう。




(リアム様は、その事をずっと気にしてたのね)




 神からのお告げを受け、力を手に入れてしまった4歳のリアム様は、この1年でどれだけの苦痛と戦い、葛藤をしてきたのだろうか。本人もその力を呪いだと思い、無意識かもしれないが、近付こうとする者を魔力で寄せ付けないでいた。なんて、素直で優しい子なんだろうか。


 既に激怒レベルで放置されていた状況だが、今の純粋なリアム様には、この待遇や環境の劣悪さがわからなかったのかもしれない。


 そう思うと、あの国王と老け顔嫌味野郎ことヨーゼフ・サドウスキー神職伯の反応を思い出してきて、だんだん腹が立ってきた。




 くぅ……!! アイツらに、この天使の顔を見せてやりたいわっ……! 疑う事も知らない純粋で素直な推しは、自分が悪いと思っているのよ!! いつかアイツらにギャフンと言わせなきゃ……!




 私は固く心に誓い、落ち込むリアム様の手を両手で包み込んだ。驚いた様子でリアム様が顔を上げてくる。そして翡翠色の瞳とぶつかった。




「リアム様。貴方に与えられた力は、悪魔の力でも呪いでもありません。この国の希望の力なんです。私はそれを知っています」


「き、希望……?」




 戸惑うリアム様に私は頷いて見せた。




「そうです。貴方はこの国の唯一の光なのです。私はそれを信じています。だから、絶望しないでください」


「……」




 リアム様は突然の事で、私の言葉を信じてはいないようだった。当然か……周りから散々『悪魔の力』と言われていたのだから……。




「私は光の力だと信じています。だけど、もしそれが違ったとしても、私はリアム様のお側にいますわ」


「……え?」


(ずっと……は、無理だけどね)




 私は心の中で聖女リーシャの事を思い浮かべる。それが推しの幸せの為だ。幸せな推しの姿が見れるなら、本望である。


 私が微笑んで見せると、リアム様はまた瞳に涙を溜め始めた。




「ほ、本当に……側に、いてくれる……?」


「もちろんです」




 私が頷くと同時に、リアム様の瞳から大粒の涙が頬を伝って床へと落ちていった。握り締める手にも力が込められ、涙を堪えるような表情をリアム様は見せる。




「それに、私だけじゃなくて、王妃様もとても心配していらっしゃいます。貴方の事を想っている人は他にもいる事を忘れないでください、リアム様」


「お母様、が……?」


「えぇ!」




 嬉しさと安心からか、リアム様の涙が止まらない。リアム様は恥ずかしそうに私が包み込んでいた自身の手を引き抜き、後ろを向いて涙を必死に拭っていた。


 泣いてはいけない、とでも言われているかのように。


 4歳までの教育で、言われてきたのだろうか。私は、ぐっと胸が苦しくなり、リアム様に向かってそっと両手を広げた。




「我慢せずに、泣いてください」


「!」




 リアム様がクルッと振り返ってくる。そして両手を広げてリアム様が来るのを待つ私に、目を大きく見開いた。




「今は感情を押し殺しちゃダメです。今もこれからも、自分の感情に素直で良いんですよ」


「うっ……うぅ……」




 リアム様の顔がみるみる歪んでいく。やはり中身は5歳の推し。安心感だけでなく、今までの寂しさや苦しさも爆発したように、止めどなく涙を流し始めた。


 そしてゆっくり、恐る恐る、私の腕の中に入ってきた。私は優しくリアム様を両腕で包み込む。


 細過ぎる推し。震える身体をさすると、骨張った背中や肩が手のひらからよく伝わってくる。


 だが、小さな身体から暖かな温もりを感じる。推しはこうやって生きている。血も通っている。




(救い出さなきゃ……この場所からっ)




 私の意識はさらに強くなった。




「リアム様。早く元気になって、この塔から出ましょう。一緒に外でご飯を食べて、もっとこの国の事を勉強して、沢山たくさん遊びましょう」


「!」




 私が驚かないように静かな声で伝えると、堰(せき)を切ったようにリアム様が声を出して泣き出した。私にすがるように泣き続けた。




 推しよ……いつでも、俺の胸を貸してやる。好きなだけ、泣きな……!




 と、どこかの漫画でありそうな台詞(セリフ)を心の中で呟きながら、私は推しが落ち着くまでギュッと抱きしめていたのだった。




 それは、いつ間にか起きていたロージーと、いつ間にか部屋に入ってきたエーヴェルに見られていたみたいで、勝手に『小さな聖母』と私は呼ばれるようになったのだった。




 ……。いや、やめてくれ。




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