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「どうした、リザードマンになれよ」

「いや、君の相手ならこのままでいいよ」

「舐めてるのか?」


 明確な挑発が返ってきて、成堂がピクリと反応する。ショウイチはニッと口の端を上げた。


「このままじゃ死ぬって思ったら流石に変身するけど、臆病者のパンチじゃ死ぬことはないだろうしね」

「言うじゃねぇか、覚悟しろよ」


 ドスを効かせた声と共に、成堂がショウイチの懐に潜る。体重を乗せた拳がガードの上から襲い掛かってきて、ショウイチの体が吹き飛んだ。

 間髪入れず、踵落としが降ってくる。転がってそれを躱し、立ち上がろうとした所を、鋭い前蹴りが捉えた。

 顎を蹴り上げられてショウイチの体から力が抜ける。再び体が倒れる前に意識を手繰り寄せて、なんとか堪えた。

 ショウイチの口からドボドボと血が流れ出す。中はザクロのようになっているだろう。


「まだ余裕って言えるのか?」

「まぁね。そうやって脅しているうちは殺されないだろうし」


 チッと舌打ちをして、成堂はショウイチに襲いかかった。

 迎え撃つために、ショウイチが右ストレートを放つ。成堂はそれを潜って躱した。

 低いタックルの姿勢。飛び込んでくる顔に、ショウイチは膝を合わせる。成堂が左手でその膝を払い、空いた右手でショウイチの軸足を掴んだ。

 綺麗に決まった体当たりで、ショウイチが地面に倒れる。コンクリートに背中と頭が叩きつけられて、肺から押し出された空気が濁った音を立てた。

 成堂が馬乗りになって、ショウイチに拳を振り下ろす。


「お前がそんなに死にたいなら殺してやるよ! そうしたら、リザードマンになって俺を殺すんだろ!」


 左右のコンビネーションが頭蓋を叩く。骨と骨がぶつかる音がリズミカルに響いた。

 やがて、成堂の拳が止まり、上がった呼吸の音だけが響く。


「ブフッ……殺すんじゃないの?」


 血の泡を吹きながら、ショウイチが笑う。


「なんで、抵抗しないんだ」

「君を殺す理由が僕にはない」

「俺にはあるぞ、お前を殺す理由が」

「だったら早く殺しなよ」


 大の字になって、全てを投げ出しているショウイチに、成堂は拳を振り上げる。

 だが、それはすぐに下ろされなかった。


「何なんだ、お前は」

「それは僕が知りたいよ。僕だって望んでこんな力を手に入れたわけじゃない」

「なんだと?」

「こんな事に巻き込まれるぐらいなら、元の方が良かったよ。こんな力、僕には要らない」

「やめろ、お前がそんなことを言うな」


 振り上げた成堂の拳が、わなわなと震える。


「お前がその力を否定したら、どうなる? それは、俺が望んでも手に入らなかった力なんだぞ」

「いくら望んでも、君にもこんなものは必要ない。現に僕を殺せないだろ、君は」

「やめろ、やめろ! 上から物を言うんじゃねぇ!」


 振り下ろした成堂の拳が、コンクリートの地面を叩いた。

 じわりと血が滲む。

 ショウイチは満身創痍で、その上に成堂が馬乗りになっているにもかかわらず、2人の表情はまるで真逆だった。


「楽しいか?」

「あ?」

「こうやって、君が望む力を持ってる僕を、君が一方的に殴って、楽しいか?」


 ショウイチの言葉に、成堂は歯ぎしりを返すしかなかった。


「俺の感情は関係ないんだよ。ただ俺は、強くなければならない。そのために生まれたんだ」

「人を殺すのが強いなら、が、うっ!?」


 ビクッとショウイチの体が跳ねて、表情が歪んだ。

 脳の後ろにあった重たい違和感が、じわりと形を帯びて脳に警鐘を鳴らす。

 タックルの時頭を叩きつけられたダメージが、今になって命に至った。

 致命傷。

 気づかぬうちに変貌していたショウイチの右腕が、成堂の心臓を貫く。


「ぐっ、がはっ」


 吐き出された血が、驚きに固まるショウイチの顔を濡らした。


「は、やったな。これでお前の勝ちだ」

「なんで、そんなに嬉しそうなんだよ」

「お前に殺されたら、お前の中で生きていけるんだろ? なら十分だ。強くなるには、一番手っ取り早い手段だからな」

「……わかったよ」


 ショウイチが右腕を引き抜く。その手に握られた、未だ動いている心臓を、口の中に押し込んだ。


「はは、ありがとな」


 成堂の体がぐらりと揺れて、倒れる。もう動かないであろうそれを払って、ショウイチは立ち上がった。


「……君は」


 そこまで言いかけて、ショウイチは胸に手を当てる。


「俺は」


 その体が、みるみるうちに鱗に覆われていった。制服が破れ、散り散りになる。


「行くか」


 そう言い残して、リザードマンはその場を去った。

 全ての決着のために。

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