第二十九話 拝啓、夜空の手紙より
短いし、変則的。
俺こと吉田英斗は悲しいことに異世界転生を果たし、何でも屋ヴァンヴォリックに仕返しを果たし、新たな戦いが始まろうとしていたのだった、まる。
…で、今回は始まらない。
これは未来のお話。
たまたま、吉田英斗が夢見た、未来にあるお話。
「お前、なんで戦っているんだ?」
暴れるイフを抑えながら、エミリー・フリッツに言った。
彼女は苦虫を噛んだような表情を浮かべ、頭を左右に振るう。
「仲間が見せてくれたんだ!お前を生かすと世界が争いに満ちるんだ!だからっ!」
さけぶように彼女は俺に応え、イフを指さし、
「【あなたは強者、主の首を立つ剣】っ!!【絶てよ、あなたの主を】っ!」
命じた。
命じた瞬間、イフの片手は魔剣イフリートの刀身へと変わり、俺の右肩をめがけ、振るわれた。
ブオン!
気味の良い音を立て振りぬかれた斬撃は俺の右腕を肩からバッサリと切り裂かれた。
バアルの硬度を貫通し、切り裂くイフリートの鋭さには感心させられる。
度を通り越した痛覚は脳がショック死をま逃れるためシャットアウトするらしく、痛みはなかった。
ただ重たくどさりと地面に落ちた右腕と体を襲う右腕分の喪失感と軽くなった感覚。
血は落ちた右腕から噴き出てはいるがまだ活きている身体はバアルが発光による熱で止血したらしく、激痛にも似た熱さが体をさらに襲った。
「ぐぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
あまりの痛さに叫んだ。
単純な熱さは痛覚になり得た。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!」
絶叫。
のたうち回った。
声が枯れても、叫んでのたうち回る。
だが、ほんの少しだけどうしてかできた思考の隙間で俺は左手を思いっきり噛んだ。
バアルで守られているため、痛みや傷は左手にはできなかったが、歯が折れた。
何本か俺、何本かが欠けた。
証拠にかんでいる途中、白いものが飛び散り、血がバアル俺の口の隙間から流れているのだ。
俺はそれらを感じても痛みをこらえ、イフを見た。
「すみません…ッ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
涙を流し、今にも押しつぶされそうな声で首うを横に振りながら謝っていた。
だが、その足は俺の元にゆっくりと歩んでいて、イフリートに変わっている、手はそのままで、何時でも俺の身体を切れるように構えをとり続けていた。
そして、俺はようやく激痛を乗り越え、大きく息を吐いて、言った。
「謝んな、イフは悪くない。だから、これからすることを許してくれ」
それだけ口にすると、俺はバアルを全開にし、走り出した。
目標ははイフ。
作戦はあった。
そのためにはイフに近づかなくてはいけない。
走って、走った。
イフは変形させていない手を振り、俺の進路を塞ぐように爆炎を振り撒く。
火炎に巻かれながらも、突き進む。
感覚はもうない。
ただ走るだけだ。
そしてイフの元へ辿り着き…。
腹部に嫌な感覚が走った。
冷たく縦長く、薄いものがあるような感覚。
俺は腹部を見ると、イフの変化している腕が刺さっていた。
口から血があふれ、みるみる視界が暗くなり、真っ暗になった。
体が動かない。
やけに鼓動が強く感じるが少しづつ、一回の拍動ごとに弱くなっている。
そして、速度も、比例するように遅くなって行き、何も聞こえなくなった瞬間。
ぷっつりと何もかもが途切れた。
そして、目を覚ました。
勢いよく体を『ベッド』から起こした。
「…夢?」
あまりのことに小さく呟く。
恐ろしいものを見た。
ただそれしか口に出来なかった。
だが夢なだけあって細かくは思い出せない。
しかし、夢では終われない、そんな気がした。
ベッドで汗をかきながら焦っている吉田英斗を見ていた全能神は言う。
「世界を救う一歩目でとんでもないことになるからねぇ。ここからどうやって、塗り替えるのか楽しみにしてるぜ」
期待に満ちた視線をサングラス越しから送り、不敵な笑みを浮かべていた。
読んでいただきありがとうございます。
次回はしっかりとお話が進みます。
実はちょっとエミリー・フリッツ関連のお話は神様がかかわることが多い気がしなくもない、ですね。
でも、神様はなんだかんだでお気に入りのキャラなので出すだけでウキウキになっているのはここだけのお話です。
では、次回もお楽しみに!




