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白銀揚羽

「ダーリンこそなにしてんのさ、こんなとこで」

「ホテルから出てくるカップルの出口調査」

「最低なことやってるじゃん」

「嘘だ。わけあって川島をつけてたらここに入って行った」

「あぁ、相手桜井? 矢代?」

「いんにゃ、相手のプライバシーの為に言わん」

「あぁ、じゃあ刑部」

「……お前知ってたのか?」

「うん、確かミサミサ去年単位も日数も足りなくて留年しそうだったんだけど、なぜか数学だけ奇跡のV字回復したから、まぁ抱かれたんだろうなって」

「ドライだな」

「別にそんな珍しいことでもないし。黒川は元から頭いいからやんないけど結城も良い大学進む為に教師とやったって言ってたし」

「うわ、聞きたくねぇ」


 揚羽は俺の隣に腰を下ろす。2人で目の前のラブホを眺めるシュールな姿だ。

 見る人が見たら、もしかしたらラブホに入るのを迷っている高校生カップルに見えなくもない。いや無理か。こんだけ派手な揚羽と俺じゃあな。

 揚羽はそっと俺の手を握る。


「つめた。いつからここにいるの?」

「一時間前くらいだが、それまでずっとつけてたから、かれこれ4,5時間くらい外回りだ」

「ダーリン暇なの?」

「俺だってやりたくてクラスメイトの男関係あさってるわけじゃねーよ」


 刑部とクラスメイトとの情事なんか知りたくもねぇ。


「もしかして山田も男関係酷かった?」

「えっ、多分。あの子も揚羽と同じでバカだったけど、数学だけ異常に良かったから」

「分かりやすい奴だな」


 約束は守る分刑部は良い奴なのかも。いやそんなことはねーな、何にしたって教え子喰う教師が良いわけがない。

 てことは結構あの二人男関係グズグズってことだな。

 それだけわかりゃ十分か。

 ビューっと木枯らしが吹く。冬の寒さだなと強く意識させられる。


「よし、じゃあ俺帰るわ」


 これ以上この場にいると、揚羽の話に移ってしまう。

 俺は聞かざるをえなくなってしまうだろう、彼女がここで誰を待っていたのかを。

 立ち上がると、揚羽はなぜかグイッと袖を引っ張り再び座らせる。


「やめろよ、寒いんだから」

「うん、寒い、だからあっためろ」


 そう言って揚羽は俺の膝の上にまたがる。

 このクソ寒い中裸みたいな格好して。揚羽のコートの中に腕を差し入れ細く冷たい腰を緩く抱いた。


「ダーリン手つめた」

「お前の腹も冷たい」

「じゃあ一緒だね」


 傍から見れば女の子を膝の上に乗せ、一つのコートで暖をとっている姿は正真正銘のバカップルにしか見えないだろう。


「あぁ、暖かい……」


 俺は何も考えずに揚羽の胸に顔を埋める。柔らかくて、甘い匂いがしてとても心地が良い。

 そりゃ鼻や前歯も頑張って貢いじゃうかなって思ってしまう。


「そんな寒いなら中入る?」

「中ってどこに」

「あそこ」


 揚羽が指さす先は煌々と光り輝く夜の城である。


「あんなとこ一人で入れるか」

「なんで、揚羽いるじゃん」

「ケロッと言うな。さっき散財したせいで金がない」

「おごるよ?」

「人をヒモ男みたいに甘やかすのはやめろ」


 ギューっと揚羽の腰を抱きしめる。さすが人肌、段々温くなってきた。

 揚羽は小さな声で耳打ちする。


「なんでさ、揚羽のことは聞かないの?」

「聞いてほしくなさそうだったから」


 違う、なんでここにいたのか聞く勇気がなかっただけだ。


「そういうそっとしとくのが優しさと思ったら大間違いだよ」

「悪いなそういう経験少なくてよくわかんないんだ」

「…………」


 揚羽は黙ったまま俯いてしまった。

 なので少しだけこちらから話すことにした。


「俺このホテル見ててさ、なんかお前出てきそうだなって思ったんだよ。失礼ながらな」

「…………」

「それで、ここでお前とは出会いたくないなって思ったんだ。そんで案の定お前とここで会ったら凹んだ、凹みまくった。それがなんでかは自分でもよくわかんねー」

「…………」

「今日川島のこと見て強く思った。みんなどこで何してるかわかんねぇなって」

「ダーリンはさ、揚羽が他の男と一緒なの嫌なわけ?」

「俺が気にするのはお門違いだろ」


 ああ、なんて俺ってば聞き分けがいい、良い子なんだろ。

 最高に虫唾走るな。己自身に。


「…………」

「でも、個人的な意見を言わせてもらえば」


 その時突然揚羽の携帯が鳴り響く。

 揚羽は即座に電話を切った。


「いいのか?」

「いいから、続き言って」

「……個人的には……嫌だと思った」

「…………えへー」


 揚羽はにやけ顔で、首に抱き付いてきた。


「あくまで個人的な意見だからな、あんま勘違いするなよ」

「ツンデレだね」

「俺はお前がその単語を知ってることに驚きだ」

「ダーリンはさ、今揚羽が他の男と何人くらい関係があると思う?」


 関係というのはつまり彼氏か、あるいは刑部と川島のようなただれた関係か。どっちにしろ男の話だ。

 揚羽の男の噂というのは嫌でも耳にする。天地が本命の彼氏だが他にも二股三股してるって、いく筋からも聞いたことがある。しかし実際は天地が義兄弟だったわけで、余計に縛られるものはなく男関係は自由なものだろう。


「そんなの聞きたくない」

「何人?」


 一瞬茂木の言っていた100人という数字が浮かぶ。

 目をそらしたのに回り込まれた。どうやら答えるまで質問は続くようだ。


「……5人……ぐらい」

「大分控えめに言ったね」

「わかんねぇからな」

「女の子の体重予想したら見た目よりずっと控えめに言うタイプっしょ」

「軽かったら失礼だからな」

「今揚羽の男の人との交友関係は1。ダーリン含めると2」

「そっか……」

「怒らないの?」

「なんで怒るんだよ」

「揚羽としてはなんで俺以外に男がいるんだよってひっぱたいてくれても良かったのに」

「できるかそんなこと」

「今日ここに来たのはね、その人と会う予定だったんだ」

「デートか?」

「超ムカつく」

「なんで!?」

「その人すっごい年上でさ、会社の社長さんなんだって。超お金持ちやばくない?」

「ああやばいな」

「しかも結構ダンディでさ、大人の男って感じで」


 なんでだろうか、自然と揚羽を抱きしめる力が強くなっていた。

 正直男の話を聞くのは不愉快だ。楽しそうに話すのをやめてほしい。

 いや、……これはエゴだな。彼女がこの話を遠慮する理由は何一つとしてない。

 気づけば腕にこめられた力は強くなり。揚羽は苦し気にうめいた。

 俺はすぐさま腕の力を緩めた。


「ごめん、つい力入れ過ぎた」

「ううん、今揚羽めっちゃ愛感じてるから超嬉しい」

「変な奴」

「女の子って妬いてもらえるとめっちゃ嬉しいんだよ」

「妬いてないから」

「ツンデレだね」

「いいから続き言えよ」

「あ、うんその人めっちゃ優しくてさ、会うだけでお金くれるの」

「援交ですね、わかります」

「違うよ。パパ活とかデート援ってやつ?」

「お金貰っておじさんと遊んでたら援助交際成立なの」

「違うってば」

「違わない」

「違うって」

「違わな……いや、悪い何ムキになってんだろうな」


 ちょっとした自己嫌悪。よくない癖だ、わかんないけど嫉妬してんのかな? だとしたら余計意味がわからん。なんで嫉妬なんてするんだ。


「そんな資格ないくせに」


 揚羽が俺の思っていたことを言い当てる。


「なんで……」

「嫉妬なんてして当たり前っしょ、恋愛に限らず成績や家庭の境遇なんかで人は嫉妬する生き物だよ」

「揚羽のくせに深いな」

「揚羽のくせにとか言うな。そのおじさんとね、今日話があってね……」

「そっか、行かなくていいのか?」

「ダーリンが離してくれないから」

「あっ、悪い」


 抱きしめていた揚羽の腰を解放する。


「あっ、嘘嘘離しちゃダメ」


 揚羽は再び俺の腕をとって腰を抱かせる。


「約束が」

「いいの」

「でも」

「いいから!」


 少しだけ語気を荒げて、揚羽はくてっと俺の胸により掛かる。


「ダーリンさ、揚羽が今まで何人くらいの男とやったか知ってる?」

「いいって」

「4択問題ね。1番0人、2番10人、3番30人、4番100人以上、さて正解はどれでしょう」

「もういいって」

「チッチッチッチッチッチ、ブー、正解は」

「もうやめとけって!」

「10人でした」

「…………なんでそんなこと言うんだ」


 そんな話聞きたくもないのに。

 そんな痛みをこらえるような声で告白されたら茶化すことも、聞き流すこともできないじゃないか。


「0人って期待した? 甘いよ」

「もういいから、なっ」

「揚羽が周りからどう言われてるの知ってるし、揚羽がやってきたところだから否定のしようもないから。ダーリンにこれ言って嫌われるんだったらしょうがないよ」


 揚羽が息を吐くと白いもやができあがる。


「生きるのって辛いなー。結局やってきたことは最後全部自分にかえってくるんだもん。昔黒川から言われたけど、男で遊んでたらいつか誰か好きになった時、やった数の男の分だけ背中を刺される気持ちになるよって言われたんだ、今がまさにそれ。過去の揚羽が後ろから刺しにきてる」


 揚羽はしょうがないと言いつつも視線は怯え、体は小さく震えている。


「後ろめたいことがあっても前むいて生きてくしかないんだ……。そんなこと気にせず胸張って生きろよ。別に何人男好きになっててもおかしなことじゃねーよ。俺だって実りはしないがたくさん女の人好きになってる」

「…………ダーリン優しい、でも今はその優しさの分だけかきむしられてるかな」

「男の人が好きなのか?」

「そりゃイケメンは誰だって好物っしょ」

「そりゃそうだわな」

「凹むなよー」

「凹んでないし」

「あんまつまんない昔話するね」

「……ああ」

「揚羽の家超成金企業でさ、3年前まですんごい貧乏だったんだけど、おじいちゃんが外国で一発当てて帰って来たんだ。それで超大金持ちになったんだよね。でもさ、それまでめっちゃ生活苦しくて、遊ぶお金なんか一切なくて。なのにママお金ないのにいつも生活費盗んで服とかバックとか買っててさ。それ全部の揚羽のせいにしてたんだよね。パパもめっちゃ怒って、ばんばん揚羽のこと殴り倒すし。生きるの嫌になっちゃってさ……そんな時ローラースケートやってたんだけど、それだけが楽しみで生きてたんだ。でも、スケート壊れちゃってさ直すお金もなくて死にたいなって思ってる時に男の人と」

「もういい!! やめとけ!!」

「……なんでダーリンが泣いてんの?」

「もういいから、もういいから」


 俺は折れるくらい強く揚羽の腰を抱きしめた。


「話が重いんだよお前……」

「ダーリン泣き虫。今日会う予定だったおじさんはその時の人でね、他の男とかは揚羽が飽きたり飽きられたして切れちゃうんだけど、そのおじさんだけは切れなくてさ」

「すまん、見境なく嫉妬して」

「じゃあさ揚羽のこと慰めてよ」


 揚羽は目の前のホテルを顎で指す。


「揚羽、お前は良い奴だ。誰が何と言おうがお前は良い奴だ。周りがどんだけ否定しても俺だけはお前を肯定してやる」

「何突然?」

「甘えたいならいつでも甘やかしてやる、寂しいならいつだって傍にいてやる」

「それ告白?」

「…………」

「もぉそんな顔されちゃ告白ってことにできないじゃん……ガード硬いなぁ……」


 間違いなく悪いのはこいつじゃなくて辛いときに何の手も差し出さなかった親が悪い。


 俺はギュッと揚羽を抱きしめた。


「俺はラブコメみたいな恋愛がしたいんだ。できることならToloveルみたいなんがいいんだ。ヤンジャンやレディコミみたいなすれた恋愛する歳じゃないんだよ」

「揚羽もジャソプみたいな恋愛が良かったな」

「何終わったみたいに言ってんだよ高校生のくせに」

「ヒロインが処女じゃないとか炎上するよ? 揚羽完全に青年誌の登場人物だもん」

「うるせー処女厨の潔癖症どもなんか知った事か。処女しか愛せねーんだったらその程度ってことだ」

「ごめんねダーリン、中古で」

「今度中古とか言ったら怒るからな」

「うん……優しいよね……もっと早くに揚羽の物語に登場してよ」

「登場はしてた。ただ俺はお前を別の漫画の登場人物だと思ってたし、お前は俺のことをモブだと思ってただけだ」

「そっか……揚羽に見る目がなかっただけだね。じゃあ少年誌のダーリンを青年誌に連れてきたら揚羽の勝ちってことだね」

「少年誌の主人公は最終回まで落ちないことで有名だぞ」

「揚羽超頑張る。マイナスステータス消せるくらい頑張るから…………いっしょにいよーよ……」

「それを止める権利は俺にないって」

「そっか……大好き……」

「うん、ありがと」

「ありがとじゃなくて好きって言わせたいなぁ」

「一巻で好きって言ったらもうそのマンガ終わりだ」


 二人自然と立ち上がる。

 俺はさっき買った警帽を揚羽の頭に被せる。


「やる、意外と似合ってる」

「コスプレ好きなの? 警察の制服は持ってないから今度買っとく」

「いや、そういう意味じゃなかったんだけどな」

「でもダーリンから貰ったプレゼント超嬉しい」

「……飯食って帰るか」

「駅前のサイゼ行こ」

「あぁピザか、それもいいか」

「揚羽パフェがいい」

「お前、こんな寒いのによくパフェとかいけるな……」

「パフェ美味しいよ?」

「美味いのと寒いのは関係ないだろ」

「全部食べさせたげる」

「よせやめろ、あそこはウチの学校の生徒がよく来るんだ」

「いいじゃん威嚇威嚇」

「何を威嚇してるんだ」

「これ揚羽のだって」

「そんな大事に守るようなもんじゃないって」


 二人自然と手をつなぐと、揚羽は突然立ち止まった。

 目の前に黒塗りの高級車がとまったからだ。


「……おじ……さん」

過激表現の修正をおこなっています。

前後の文がおかしくなっている可能性があります。


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