守護者
高級車から、シルクハットを被った壮年のナイスミドルが降りてくる。彼の視線は揚羽に注がれており、ニコリとほほ笑んだ。
壮年の男性はゆっくりと揚羽に近づいていく。
「良いお友達ができましたな」
「うん……」
「もうわたくしのお役目は終わりですな」
「今までありがとうございました」
揚羽は深く深く頭を下げる。
「いえ、わたくしはこの日が来るのを待っていました」
「えっ?」
「わたくしはあなたのおじい様、白銀源三より遣わされたものです」
「おじい……ちゃんが?」
「ええ、あなたが寂しくないよう。あなたがお金に困らないように、自分が海外に行っている間守ってほしいと」
「だからおじさん揚羽がセックスするよって言っても断ったんだ……」
「あのように怯えた目をしながら自身の体を差し出すことが、源三様の一番の不安でございました。しかし源三様は事業を軌道に乗せるまでは動けませんでした。3年も日本に帰ることができず揚羽お嬢様をお一人にしたことを悔やんでおられました。そして当然父親からの虐待も知っておられます」
「うん……」
「いつか揚羽様が本当に好きな男性を見つけ、わたくしが必要ないとおっしゃられるまでお役目を続けることを源三様よりおおせつかっておりました」
つまりこのナイスミドルは揚羽の爺ちゃんが用意した、揚羽専用のお小遣いをくれたり寂しさを紛らわせる、疑似的な優しいお父さんだったわけなのだ。
そのことに揚羽も気づき、目じりから涙がこぼれる。
「わたくしのお役目は終わりました。揚羽様のことはあなたに任せます。梶勇咲様」
「俺のこと知ってるんですね」
「わたくしこれでも金持ちですので。揚羽様に言いよるものは全て調べ上げております」
ホッホッホッと胡散臭く笑うナイスミドル。
「揚羽様、あなたが今日わたくしを呼び出し別れを告げようとしていたのは知っております。わたくしはそのことを寂しく思うのと同時に嬉しくも思います。わたくしは偽物ではありますが父のつもりで揚羽様に接しておりました。わたくしはその役目果たせていましたか?」
揚羽の目から涙がこぼれ、コクコクと言葉にはならないが強く頷く。
「それは良かった。ではわたくしめはこれにて失礼いたします。揚羽様、これからはわたくしではなく梶様と源三様を直接お頼り下さい」
ナイスミドルは小さく会釈して、最後に俺に耳打ちすると高級車に乗り込み、そのまま夜の街へと消えていった。
その間、揚羽はずっと頭を下げっぱなしだった。
「お前の爺ちゃんはずっと見守っててくれたんだな」
「うん……」
人間には様々な事情がある、家族の愛を全く受けずに過ごしていたと思っていても、その実ずっと家族に守られていたわけだ。
そのことを知っていればもしかしたら揚羽はこんな派手だけど寂しがりな子ではなかったかもしれない。
「そっか……」
「うん……」
「泣くか?」
「……うん……ちょっとだけ胸貸して」
揚羽は俺の胸に顔をくっつけると、そのまま声を漏らさず泣いた。
俺が最後にあのナイスミドルから耳打ちされた言葉は。
「揚羽様はまだ経験がありません。揚羽様の体だけが目当ての男は始まる前にわたくしが全て排除しておりますから」
と恐ろしいことを言った。
つまり揚羽本人はまだ少年誌の登場人物らしい。
あれ、もしかして保健室で自制できなかったら俺も排除されていたのでは? と怖い事実に気づく。
今年最後の更新となります、来年もまたお時間あるときにお付き合いください。
ありんす




