パステルブルー
昨日メタルビーストでランカープレイヤーに勝った後に、なぜか観客にイケメンって言われたんだよねと茂木に話すと、それ単に煽られてるだけじゃね? と言われて若干凹んだ体育の授業終了間際。
俺は授業が終わる前に抜け出し、そろりそろりと女子更衣室へと入って行く。
下着ドロの爺への警戒は教師含めて強かったが、同じ生徒に対する警戒は甘かったのが幸いした。
「まさかこんなことをするハメになるとは……」
梶勇咲17歳、天国の父よ、息子が親不孝に育ってしまったことをお許しください。
そう心で懺悔しながら、ロッカーをあけていく。
中には色とりどりのパンツが並び、それを一つ一つ回収していく。
あぁ死にたい
興奮より遙かに罪悪感が勝り、心臓はバクバクとうるさく鳴って飛び出そうなほどだ。
このことはできることなら墓までもっていきたい。
スネに変な傷をつくりながら、下着を回収する。
出来る限り誰の持ち物か見ないようにしていたのだが、あまりにもドギツイヒョウ柄のTバックがでてきた為二度見してしまう。
「お前これは俺らの年ではいていいものじゃないだろ……」
ロッカーの中に白銀と書かれた生徒手帳を見つけてしまう。
「大丈夫かこれ、エロ過ぎて逮捕されるんじゃないのか」
逮捕されるのは自分である。
白銀のロッカーを物色していると、ペットボトルのジュースが落ち、床に中身をまき散らす。
そのとき俺の着ていた体操服にもかかり、オレンジのしみが出来上がる。
「うわ、やっべぇ。一発でバレる!」
完全犯罪中にしょうもないところでミスが発覚し、ミスをみつけた人物を殺すしかねぇとなった犯罪者の気持ちが今ならわかる。
そんな意味不明なことを考えながら体操服の上を脱ぎ、床にこぼれたジュースを拭いてペットボトルを元の位置に戻す。
上半身裸で下着ドロって、見つかったとき何を言い訳にしても無駄だろうな。
「さっさと終わらそう」
白銀の隣のロッカーを開けると、3DDSとPSVINTAのはいった鞄が見つかる。
「隣一条か、わかりやすすぎる……」
我が愛しのエンジェル一条のパンツをさすがにあの爺に献上することはできないから、ここは無視して次に……。
この前の頭を踏みながらパンツを履いていた一条のことを思い出す。
「まぁ一応、一応な」
一体何に言い訳しているのか一条のスカートを持ち上げながら、下着を探す。
レースの入った高級感のある下着が見つかり、意外と見えないところしっかりしてるんだなと思う。
「はっ、いかんいかん女子のパンツ広げて、あいつ意外なのはいてるんだなとか考えてたら完全に変態ではないか」
上半身裸で下着を拝借してる時点で十分変態である。
ここはいいから次に……そう思いながらも更にまさぐると、中からカッターシャツが出てくる。
「あぁさすがマイエンジェル、フローラルの匂いがただよって……」
俺もエロ爺や、茂木のこと言えないなと思いつつ、やはり人は好意をもった女性の物に対しては正常でいられなくなってしまうのだ。
気分が高揚する。最高にハイってやつだ。
しかしシャツを広げてみて、「うわっ」と嫌な声がもれた。そこにはキモオタ、死ねと雑に殴り書きされており、シャツはカッターで切り裂かれていた。
明らかないじめの証拠品が出てきたのだった。
「うわぁ、嫌なもん見つけちまった……」
ウチのクラス、いじめなんていいとこ鼻や前歯のうざい絡みくらいのものだと思っていたが、女子のいじめってのはなかなかに陰湿で見つけることができないのだなと実感する。
「…………」
俺はそっとカッターシャツを折りたたんで、回収した下着が入った袋の中にカッターシャツを入れる。
他にも嫌な思いをしそうなものを探すが、悪戯されているのはカッターシャツくらいだった。
「教師に言うか……」
教師に言って、一条へのいじめが激化するのは避けたいが。
お前は何でそのことを知ってるんだって聞かれた時に女子更衣室で偶然こんなものを見つけましてねとは言えない。
「やばいと思ったが性欲をおさえられなかった」とかよくわからない斬新な言い訳をする歌い手みたいに警察へ連れて行かれる自分の姿が脳裏に映る。
むぅと深く考えながらも一条の事はあとで考えるとして、今は次へと移る。
次のロッカーには鋭い三角形の眼鏡が綺麗に鎮座しており、ザマス姉さんのロッカーだと気づいて飛ばすことにした。
いや、いっそ嫌がらせでザマス姉さんの下着も突っ込んでおくかと思ったが、下着を探すのが嫌なのでやめた。
「次のは百目鬼か……あいつ胸が大きくなったって話だが、一体どんなブラつけて……」
いかん完全に思考が下着ドロである。
ロッカーの中を探すと淡いパステルブルーのパンツは見つかったが、いくら探してもブラジャーが見つからない。
「あいつ……まさかノーブラなのか」
そんなバカな、なんてハレンチな奴なんだと完全に自分のことを棚上げして思う。
すると鞄の中から青い紐が伸びているのを見つける。
「鞄の中にしまっていたのか」
ついなんとなくブラ紐を引っ張ると、胸ホックが完全に壊れたブラジャーが出てきた。
「……巨乳には巨乳の悩みがあるんだな」
俺がしみじみとしていると
ガタッと音がなり、俺は音速を超える速度で振り返る。
「なっ……えっ……か、梶君?」
そこには学校指定水着姿で、口をパクパクさせた百目鬼がこちらを指さしながら絶叫三秒前で固まっていた。
俺は一瞬で距離を詰めると、すぐさま彼女の口を塞ぎ、右手を即座に後ろに回し百目鬼の体を固める。
「んー! んー! んー!」
なんで俺こんな手慣れてるんだ!?
無駄に動きの良い自分に自分で驚く。まさか失われた記憶が戻ったら実はプロの下着泥棒でしたってオチはないだろうな。
上裸でクラスの女子の関節かためてロッカーに押し付けてる姿はどこに出しても恥ずかしくない犯罪者である。
「違うんだ」
「ふぁにが(何が)!?」
「百目鬼、落ち着いてくれ」
「んー! んー!」
全然落ち着ていくれない。
当たり前である。
裸の男を前に落ち着いてたら、そいつの危機意識のなさはボケ老人以下だろう。
「とりあえず叫ばないと約束してくれ、事情を話したい」
なんとか諭すようにゆっくりと話しかけると、百目鬼は小さく頷いた。
俺は右手は固めたまま、ゆっくりと口をおさえていた手を離す。
「梶君何やってるん!?」
「見ての通りなんだ」
「見ての通りやと完全にただの犯罪者やで!」
全くでもってその通りすぎてぐぅの音もでない。
「これには深いわけがあって、実は」
訳を話そうとした時、廊下側から複数の女子たちの話し声が聞こえてくる。
まずい女子が授業を終えて戻って来た。
この光景を見られたら、窃盗罪だけでなく致傷罪まで成立してしまうのではないだろうか。
「あ、終わった」
ごめんよ父さん、俺高校出られないまま青春を散らし、これからの人生、日陰で霞を食いながら陽の光に怯えるゴミ虫になるしかないみたい。
俺が完全に燃え尽きた毛虫みたいな顔をしていると、眉を寄せた百目鬼が俺の甘くなった拘束から抜け出す。
もうぶん殴るなり蹴るなり、蛆虫と罵るなり好きにしてください。僕はゴミです、救いようのないゴミクソです。
「何完全に無になってるんよ!」
「もう好きにしてください。先行く僕をお許しください」
百目鬼は完全に悟りを開き無と化してる俺の手を無理やり引っ張る。
「どうしてこうなった……」
「黙ってて」
狭いロッカーの中、上半身裸の俺と濡れた水着姿の百目鬼が密着しながら息を殺していた。
しばらくしてクラスの女子が順々に更衣室へとなだれ込んでくる。
「あの爺マジで最悪、あたしのお気に入り盗んでいったし」
「信じらんない、高かったのに」
女子たちは順々に着替えを始める。
密着した百目鬼の吐息が首筋にあたりくすぐったい。
彼女の髪からはプールの消毒に使う塩素のような匂いがする。
ぺったりと密着している為、濡れた百目鬼の肌の冷たさが、徐々に俺の体温で暖められていくのがわかる。
「か、梶君あんま動いたらあかんて」
「すまん。百目鬼……匿ってくれたのは凄く嬉しいんだが、なんでお前まで入って来たんだ」
匿ってくれるなら俺だけロッカーに押し込む方が良かったのでは。
「か、梶君、後からこうしとけばよかったのにって言うだけの口だけの人になったらあかんよ」
「ほんとすみません、感謝してます」
「なんで一緒に入ったかは……ウチにもよくわからへん」
勢いというやつだろう。しかし今更外に出るわけにもいかない。
「梶君近い……」
「ほんとすみません。生きてここを出られたら体小さくします」
「そんなできひんことするより、更衣室に忍び込まん方が良いよ」
正論すぎて世界がやばい。
百目鬼がぺったりと張り付くので嫌が応にも百目鬼の突如マトリクス進化した部位に視線がいってしまう。
「あ、あんま下見たら……目つぶしやで」
百目鬼は顔を赤らめながら両手をチョキにしているが、ダブルピースしているようにしか見えない。
「すまん」
早くこの天国なのか地獄なのかよくわからない場所から離脱したい。
そう思っていると、突如女子たちから悲鳴が上がる。
「うはははは、こいつはいただいていくぞー! ワシの夢成就の為にな!!」
「あのクソ爺また出たわ!」
「今度こそ殺すのよ!」
突如窓から強襲したスケベ爺が、俺が集めていた下着の袋を強奪して更衣室から逃げて行ったのだった。
女子たちはすぐさま爺を追いかけて外へと皆走り去っていく。
女子が全員いなくなったことを確認すると、俺と百目鬼はロッカーから外へ出る。
「た、助かった」
「危なかったね」
「すまない、本当に迷惑かけた」
「いいよとは言われへんけど、なんで下着なんか集めてたん?」
「さっきのスケベ爺と悪魔の取引を交わしてしまってな。俺、なんか昨日から記憶が曖昧なんだよ。思い出してはすぐ忘れるみたいなのを繰り返してて」
そういうと百目鬼は虚をつかれたように、えっ? と小さく声をあげる。
「梶君もなん?」
「もってことはまさか百目鬼も?」
「うん、ウチも急に、その……胸とか大きくなってて、学校行ったら二日休んでたでって……」
「俺と全く同じだ……」
俺はあのスケベ爺がそのことで何か知っているらしく、その情報と交換条件で今回の件に至ったと説明する。
「ウチも……記憶のこと知りたい」
「つってもあのスケベ爺のことだからな、百目鬼みたいな女の子が行ったら何要求されるかわかんないしな」
羽箒でくすぐられたり、水着で縄跳びを強要されたりするかもしれない。
許せん。俺も見たい。
「う、ううん」
「わかったことがあったら俺から百目鬼に伝えるよ」
「うん、ありがとぉね」
なんとなく百目鬼に話して自分だけじゃなかったという安心感から気が楽になった。俺は女子たちが更衣室に戻ってくる前に退散しようとする。
「それじゃ、また」
「う、うん、あの!」
「どうした?」
「こ、これウチのでええのんかわかれへんけど……」
百目鬼は回収してなかったパステルブルーの自分の下着を俺に握らせる。
「ブラの方は……壊れちゃったから……」
「いや……えっ」
「お爺さんに、い、いらん言われたらそのまま捨てて!」
俺はそのまま百目鬼に押し出されるようにして更衣室を出た。
「捨てませんけど……」
握らされたパンツを広げる。
美しいブルーのパンツは触り心地もよく、なにやら甘い香りがする……気がする。
「芸術とはこういうことを言うのかも……しれないな」
いかん完全に思考が変態紳士と化している。
頭を振ってポケットに百目鬼の下着を突っ込むと、何食わぬ顔をして授業へと戻った。
体育終わりの女子が皆スカートの下にジャージをはいている中、百目鬼はジャージを持っていなかったのか恥ずかし気にスカートの裾を気にしながら顔を赤らめていた。
過激表現の修正を行っております。




