メタルビーストⅡ
ランドバイソンのコクピット筐体でプレイヤーである一条黒乃は苛立っていた。
乱入した戦場を完全に蹂躙し、勝利は目前だというのに最後の一機がなかなか倒れないのである。
ランドバイソンの二連ガドリング砲が火を吹き、目の前のビルを倒壊させる。
やったか? いややってない。この程度でやれるくらいならとうの昔に倒しているはず。
目の前を白き虎、レイジタイガーが高速で過ぎ去る。
「落ちろぉっ!!」
一条の声は普段の状態を知っているものなら、驚いて二度見してしまうくらい雄々しい。
武装を高速で切り替え網膜ロックシステムを使い、目で見ただけで機体をターゲットしミサイルを撃ち放つ。
矢のようなミサイルが上空から降り注ぎ、レイジタイガーのいたハイウェイを倒壊させる。
巻き上がった土煙の中、壊れた車が飛んでくる。
「子供だまし!」
ランドバイソンはガドリング砲で車体を粉々に粉砕すると、目の前で爆炎が巻き起こる。
その隙をついてレイジタイガーはブースターを轟かせながら、肉食獣のように飛びかかったのだった。
「無駄!」
装甲値を限界まで強化しているランドバイソンに、無強化状態の攻撃は通らない。
逆にレイジタイガーを隠し腕で捕まえ、そのまま崩れかけたビルに叩きつける。
押さえつけられたレイジタイガーの装甲がバチバチと火花を上げる。
「これで!」
勝ちを確信し、とどめのミサイルポッドを選択した瞬間、それより先にレイジタイガーの胸部タイガーヘッドから炎が吐き出され、思わず隠し腕が拘束していた機体を離してしまう。
直後レイジタイガーは離脱すると同時に隠し腕の一本をブレードで切り裂いてから逃げる。
ランドバイソンの情報に背面右腕損傷、使用不能と表記され簡易ステータスの背面が赤く染まる。
「くっ、相当なダメージを与えてるはずなのに……」
このしぶとさは一体何なのか。
敵の詳細情報を検索してもゲストとしか表示されておらず、これは記録媒体を使用せずに、行き当たりばったりでゲームセンターでプレイしていることになる。
ゲスト機として参戦すれば、機体は無強化状態であり、最大まで強化されているこのランドバイソンに単機で勝てるわけがないのだ。
どこかのランカーがメダルを忘れて直でプレイしているのか? そう思わなければやってられないような動きだった。
「ブースターも装甲も初期値のくせに……強い」
今まで出会ってきたどのプレイヤーよりも。
だからこそ落とす意味がある。
「遊びは……終わり」
一条はコクピット中央にあるくぼみに雄牛が刻まれたビーストメダルをはめ込む。
すると機械的な音声が響き渡る。
[BEAST MEDAL SETUP]
予めセットしていたスマートフォンにテンキーが表示される。一条は即座にコードを入力する。
「コード9999ランドバイソン、ファイナルアタック」
[FINAL ATTACK STANDBY]
ランドバイソンの目が赤く光り輝き、ミサイルハッチが全て開きガドリング砲がうなりを上げる。
「ファイヤ」
一条の呟きと共に凄まじい火力の全弾発射が行われ、目に見える施設を全て破壊していく。
爆音が轟き、排出された薬莢と土煙が舞う。凄まじいマズルフラッシュが暗くなったマップを真昼の如く照らす。たった一機でマップのほぼ半分を焼け野原にした機体は対象がいないことを確認するとガドリング砲を下げる。
「いない?」
バカな今の今まで近くにいたはずである。
レイジタイガーがいくら高速機であっても、一瞬でマップを半分移動できるほどの機動力を有してはいない。
その時突如ランドバイソンの足首が何者かに捕まれる。
「なっ!? まさか!?」
それは予想通りレイジタイガーであり、奴は崩れた瓦礫の下を潜ってランドバイソンの真下まで接近してきたのだった。
「好都合!」
一条は素早く武装を変更し、隠し腕で自分の足を掴んでいるレイジタイガーを引っ張り上げる。
だが、捕まえようとした瞬間姿が消える。
「なっ!? くっ!」
すぐさまガドリング砲に切り替え、影に向かって射撃を行う。
しかしレイジタイガーを捉えきれない。
「速い! こっちは空間振動ソナーに、ディレクションジャイロまで使ってるのに!」
一条はようやくレイジタイガーに視線が追い付き、自分が追い付けなかった理由を把握する。
そこにいたのは人型のレイジタイガーではなく、四足で巨大なタワーの上に立つ雄々しい虎の姿だった。
「くっ、変形してる……しかもあのフォーム。レイジタイガーシャドウミラー」
先ほどまでは真っ白だったのに今では夜闇のような色にかわったレイジタイガーが月夜を背景に遠吠えする。
その姿は先ほどの無強化の姿ではなく、明らかにビーストメダルによって強化された機体へと変貌していた。
[データコンバート完了 レイジタイガーをセーブデータに適応、コードをシャドウミラーへと変更しました]
機械音声に小さく息をつく。
「ファイナルアタック来た時は死んだと思った」
目の前に吹っ飛んできたシャトルがなかったら完全に死んでた。
しかしゲーム開始前にメダルを入れてデータのコンバートを行ったというのに、完了したのが今って遅すぎない?
「しかし、展開としては面白い」
データコンバートが終わり、排出されてきたメダルをコクピットの中央にはめ込む。
[BEAST MEDAL SETUP]
メダルがLEDの光でブルーに輝く。
スマホに表示されたテンキーに素早くコードを打ち込む。
「コード009ビーストモードアァクション!」
レイジタイガーの目が光り輝き、月から舞い降りるように巨大なタワーを一気に駆けおりる。
先ほどまでとは比べ物にならないほどの速度に、気分が高揚する。
おまけにランドバイソンのファイナルタックで障害物はないときた。
「疾れ!」
アクセルペダルを思いっきり踏み込むと、加速メーターが面白いように上がっていく。
ランドバイソンの周囲を高速で回り、相手にロックさせない。
疾風の虎は鋼を食い破る牙でランドバイソンに食らいつく。
「なめるなぁ!!」
俺のイヤホンに対戦相手の肉声が聞こえてくる。驚くことに女性だ。
どうやら通信制限をカットしたらしい。これでこちらの声も向こうに聞こえる。
「食らいつけ、タイガー!」
ランドバイソンのガドリング砲に食らいつき、右腕のガドリング砲を引きちぎる。
続けざまに左腕に食らいつく。
だが、すぐさま隠し腕が伸びレイジタイガーの横腹を殴り吹き飛ばす。
宙を舞いながらも空中で態勢を立て直し、地面に爪跡をつけながら衝撃を殺す。
気づけば俺達は飛行場の滑走路に来たようで、周りには炎を上げる飛行機が見える。
「接近すればやれる。このシャドウミラーなら」
俺が再びペダルを踏みこもうとした時だった。ランドバイソンの重装甲が突如爆発する。
自爆? そんなバカなと思ったが、煙が晴れるとそこには装甲と遠距離火器をパージしたランドバイソンの姿があった。
どうやらこちらの高速戦についてこれないとふんで近接格闘に切り替えたようだ。
装甲の下から刃の逆側にブースターのついた巨大な斧が出てくる。
「ギロチンアックス、ギガントブースター付きか。ランドバイソンの必殺兵装だな」
接近してきた機体の首に自動でロックし、超高速で首を斬り落とす自身の機動性の低さを完全に無視しアックスのブースターだけで無理やり敵を倒す。ランドバイソンらしいと言えばらしいごり押しの必殺兵装である。
それをかいくぐって奴の喉笛に食らいつければこちらの勝ち。
ジャリっと地面を踏みしめる音が聞こえ、タイガーはゆっくりとバイソンの周囲を回る。
徐々にアクセルペダルを踏み込むと、速度が加速していく。
最高速に近いぐらいの速さで回ると、もはやランドバイソンはレイジタイガーをロックすることはできない。
お互いに必殺の一撃で決める。
「行くぞ!」
「来い!」
俺はスロットルレバーを一気に押し込み、レイジタイガーは超加速したままランドバイソンの頭上へ飛ぶ。
レイジタイガーに反応し、ギロチンアックスがオートでこちらをロックし、すさまじい軌道を描いて白刃が飛ぶ。
「うおおおおおおっ!!」
「はああああああっ!!」
ギロチンアックスの軌道をブースターで無理やり避ける。だが即座に座標を修正し、人間では対応できない超反応でアックスはレイジタイガーの頭に突き刺さる。
しかし突き刺さったはずの刃は空を切る。
「!?」
必殺の一撃を外しランドバイソンはギロチンアックスのブースターに振り回される。
その隙を逃さず後ろから人型に変形したレイジタイガーが獣王剣を突き刺した。
「シルエットミラージュ……」
レイジタイガーシャドウミラーの特殊能力で、ほんの一瞬だけ自身の残像を作り上げセンサー全てを騙す機能だった。
「最後がセコイ技で悪いな」
「いや、あれ当たり判定消えるの一瞬だからギロチンアックスに合わせたのは神がかってるよ。最悪こっちは組み付かれたら自爆してやろうと思ってたから」
「そりゃ恐ろしい」
敵である女性に賞賛された後ランドバイソンは爆発し、ゲームはようやく終了を告げる。
「ふぅ……」
ずれてきたヘッドマウントディスプレイを外し、ほんの少しだけ勝利の余韻にひたる。
これだけリアルなものが作れるとは凄い世の中だ。幻術なんかよりよっぽどすごい。
さっきのランドバイソンのパイロットはどこから乱入してきたのだろうか。このゲームセンターなら面白いのだが。
そう思い俺はゲーム筐体の外へと出た。
しかしこのゲームセンターにあるメタルビースト筐体はどれも使用中になっていた。
どうやら、このゲームセンターからの乱入ではないらしい。
残念と思うが、全国オンラインなんだから当然かとも思う。
先ほどの戦いはなかなか白熱していたようで、筐体のすぐ脇にある巨大スクリーンにプレイ内容が流れており多くの観戦者がいた。
俺が出てくるなりパチパチと拍手がなる。
「すげーな、君ランカーか?」
「かー、どうせキモオタだと思ったら超イケメンじゃん」
「マジかよ、世界って理不尽だな」
「君、携帯の番号教えてよ~」
矢継ぎ早に声をかけられて頭に疑問符が山のように浮かぶ。
なんだか賞賛のされ方がおかしい。イケメンなんて言われたことないのに。
大体勝負に勝って君イケメンだねって何かがおかしい。
よくわからないが、頭をペコリと一度下げて、俺は足早にゲームセンターを出た。
その様子を筐体の中から見ていた一条の姿があった。
彼が走り去るのと同時に、ゲーム筐体から出る。
あのレイジタイガーのパイロットがこのゲームセンターにいたら面白いなと思っていたが、なんとなく負けたのが悔しくて外に出られずにいた。すると隣の筐体が開き、そこから出てきたのは小柄な、美少年と呼ぶにふさわしいプレイヤーだった。
彼が出てきた瞬間観客から巻き起こった拍手から見て、彼がレイジタイガーのパイロットであることは間違いないだろう。
あんな爽やかで人懐っこさそうな笑みを浮かべる少年がゲーム内ではあんなに雄々しい姿になるものなのかと驚き、やがてその驚きは心臓を強く叩きバクバクと心拍音を上げる。
筐体に映る自身の赤い顔が滑稽で、顔を覆いたくなる。
一条はもはやその少年のことしか考えられなくなっていた。
コード9999と009は某銀河な鉄道と、サイボーグ漫画をもじっただけのもので特に深い意味はありません。
一条のプレイヤーコードであるΣ9(シグマナイン)も強そうな名前にしたいという理由で、岩マンエックスのラスボスと、アーマー〇コアのナインボールからきてたりします
以上どうでもいい話
主人公の美少年化はまた後々のお話で明かされます。




