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あたしの意地を見せてやる

「ちぃっ!」


 甲冑の女騎士と真凛は激しい戦いを繰り広げていた。


「ウォーターショット」


 真凛の掌から、水のバルカン砲が発射されていく。


「ダークウォール!」


 女騎士の前に暗黒の壁が現れ、水の砲弾を弾く。

 弾かれた水の弾丸が、周囲の壁や床を穿ち、穴だらけにしていく。

 真凛の攻撃がやんだ瞬間壁から飛び出すと、女騎士は真凛に向かって斬撃を放つ。

 黒い刃が次々に飛来するが、真凛はそれを直進しながら全てかわしていく。


「なっ!? どういう戦闘センスをしている」

「センスなんかじゃないよ。相手の飛び道具抜けて接近するのは格ゲーの基本」

「何を言って……」

「ウォーターインパクト」


 真凛は女騎士に触れると、その瞬間女騎士の体はパンっと音を立て、壁を突き破りながら吹き飛んだ。


「こいつEXか!?」

「オーシャンブロー連撃!」


 即座に反撃を与えない拳の連打を浴びせる。


「うっとおしぃ!」


 女騎士は掌に暗黒のエネルギーをためると、真凛に向かって投げつける。

 闇色の爆発が巻き起こるが、煙の中から水のレーザーが発射される。


「ハイドロキャノン!?」


 女騎士は直撃を受け、肩鎧が吹き飛ぶ。

 即座に影に向かって反撃の斬撃を放つ。しかし人の形をしていた影はパシャンと音をたてて水たまりへと変わる。


「厄介な奴だよ!」


 女騎士の苛立ちはもっともであり、格好はふざけているとしか言いようがないが、その強さは本物だ。


「でも、すぐにまた弱い真凛ちゃんに戻してあげマース! ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!」


 背後から突如現れたモスキートの斬撃をかわし、そのまま真下から顎を蹴り上げる。

 こんなに凄い動きをしているのにパンツは見えない、ヒーローの鑑である。


「ストライクアンカー!」


 真凛は巨大な錨を取り出し、女騎士に投げつける。

 あまりにも重い衝撃に、壁際まで吹き飛ばされる。


「調子に乗るなよ! アンビエント!」


 女騎士が叫ぶと、壁を破壊し一頭のドラゴンが乱入してくる。

 女騎士はドラゴンへと飛び乗った。


「あいつ竜騎士かよ!」


 ドラゴンを駆るドラゴンライダーとも呼ばれる騎士。ドラゴンを従わせるほどの強さと、圧倒的な機動力とブレス攻撃による火力は、さながらファンタジー世界の軍用ヘリとも呼べるだろう。


「ヒヒヒヒヒ、カースドパペット」


 更にモスキートが呪文を唱えると、花嫁衣裳を着た少女達がナイフを持って現れたのだった。


「お、おいモスキート、それはボクのコレクションだぞ!」


 ナルシスが詰め寄るが、モスキートは無視して少女を使い攻撃を行う。


「タスケテ」

「タス……ケテ」


 少女達から悲しみの声が上がる。


「攻撃できない……」


 真凛は後ずさる。操られているだけの少女達を攻撃することができず躊躇いがうまれる。


「ヒヒヒヒヒヒヒ!」


 ナイフを持った少女達は次々に真凛へと襲い掛かる。それを全てかわすだけの防戦を続けるしかない。


「くっ! 威力をおさえて、ウォーターショッ」

「ヒヒヒヒ、また殺すのデスか?」


 モスキートの声が頭に響き、カルロスのことが蘇る。その瞬間攻撃の手が止まり、反応が遅れる。

 少女の持ったナイフが、真凛の首を搔っ切ろうと振り下ろされる。


「つっ!?」


 咄嗟に目をつむってしまったが、いつまでたっても真凛に刃は届かなかった。


「ふん、筋肉がなければ即死だったぜ」


 起き上がったマキシマムが素手でナイフを止めていたのだった。


「マキシマムさん!」

「惑わされるんじゃねぇ、敵はあのピエロ野郎だ。意思を強くもて、幻影に殺されるな。筋肉を鍛えろ」


 最後のは意味不明だが、真凛は大きく頷く。

 直後、二人の前に火球が降り注ぐ。

 ドラゴンに騎乗した龍騎士が上空から火球を吐き出していたのだった。


「あいつは俺達に任せろ」

「今回あたしマジで見せ場ないから、あいつくらい落とすよ」


 真凛の前に、王と少女が立つ。

 歴戦のコンビを思わせる二人の頬を熱い風が撫でる。


「行くぞトカゲ女、あたしを低レアとか言った奴は100回殺す!」

「よっしゃ飛べ低レアオリオン!」

「あんたも後で殺すからね!」


 腰を落とし、両手を組んでオリオンを待ちかまえる。走り込んできたオリオンの足を掴んで、そのまま竜騎士の飛ぶ空へと放り上げる。


「なっ!?」


 オリオンは異常なジャンプ力でドラゴンの元まで飛び上がると、飛び蹴りを浴びせ、そのままドラゴンに飛び乗り揉みあいになる。

 ドラゴンは背中で大暴れされて、バランスを失い、城の下へと急降下していく。


「いいぞ、泥仕合に持ちこんだらウチの狂犬に勝てる奴はいねぇぞ!」


 俺は城から飛び降りると、オリオン達を追う。


「ぐっ、離せ! 貴様も落ちるぞ!」

「うるせー、お前をクッションにしてあたしは助かる!」

「最低だコイツ!」


 オリオンと竜騎士はドラゴンの上で殴り合い、そのままズドンと音をたてて地面へと落下した。

 衝撃でドラゴンは動けなくなったが、土煙の中でつばぜり合いを行う二人の姿が映る。


「貴様ごときに、この私がやれると思うな!」

「ハハ、ようやく人間らしくなってきたじゃねーか。あたしはオリオン、お前をぶっ倒す女の名前だ。刻んどけ!」

「低レアの名前など覚える価値に値しない!」

「言ってろよ! 今からRに負けるEXっていう恥ずかしいレッテル貼ってやるからよ!」


 ギンギンと斬撃が飛び交う。竜騎士はなぜ自分がこの低レアに互角の剣戟を振るわされているのかわからず、苛立っていた。


「おらぁ、仮面なんてすかしたもん被ってんじゃねーよ!」


 オリオンが結晶剣をかちあげると、甲冑のヘルムが吹き飛び、女の素顔が露わになる。

 そこには前髪で片目を隠した、眼光の鋭い少女の顔があった。


「けっ、綺麗な顔しやがって。その顔嫁にいけないくらいズタズタにしてやる」


 オリオンはヒールレスラーみたいなことを言って、力任せに斬りまくる。


「なめるな!」


 オリオンの斬撃をかわした竜騎士は身を捻って真上からオリオンの顔面を狙い剣を叩きつける。

 オリオンは結晶剣でガードするが、力負けし剣を落としてしまう。

 直後竜騎士は返しの刃で、振り下ろした剣を再度顔を狙ってかちあげる。


「なっ!?」


 竜騎士の顔が驚愕にくもる。

 オリオンがガード不可能な剣を歯で受け止めていたからだ。


「今のお前相当間抜けなイイ顔してるぜ」


 オリオンは下に落ちた結晶剣を蹴り上げ拾うと、噛んでいる敵の剣に叩きつけた。

 剣は中ほどから砕け折れる。


「ウェポンブレイクってやつだな」


 ペッと剣の破片を吐き出しながらオリオンが笑うと、竜騎士は掌から暗黒の玉を放ち爆発させる。


「ゲホゴホッ、なんだそれきたねぇ」


 剣を歯で止める奴に言われたくない竜騎士であったが、目の前の少女をレアリティだけで判断するのは危険だと理解した。

 竜騎士はこの異常な強さにおかしいと気づき、前髪に隠された眼帯をあげる。

 眼帯の下から真っ赤な瞳が現れ、その瞳は魔力の流れを検知する。


「なんだこれは……」


 大気中の魔力が、後ろに控えている少年を介し、目の前の低レアに流れ込んでいる。

 この少女の強さはあの少年によってもたらされているものだと気づく。

 更にあるスキルが発動していることに気づく。


「こいつ切り札殺しジョーカーキラー持ちか!?」

「何わけわかんねぇこと言ってんだ!」

「使いたくはなかったが!」


 竜騎士の真紅の瞳が輝くと、オリオンの体は見えない鎖で拘束される。


「なん、だ……動けねぇ」

「拘束の魔眼だ、貴様ごときに使わされることになるとは」

「オリオン!」


 慌てて駆けつけようとする王に向かって竜騎士は叫ぶ。


「アンビエント!!」


 落下のダメージで気を失っていたドラゴンがむくりと立ち上がり、咆哮をあげる。


「その男を殺せ!」

「なっ!? 卑怯だぞ、クソザコな咲を狙うな!」

「黙ってろ!」


 魔眼の拘束が強くなり、オリオンの締め付けがきつくなる。


「こんにゃろう、咲はあたしがいないと何にもできない子なんだぞ!」

「なら好都合だ!」


 アンビエントと呼ばれたドラゴンが、俺に牙をむく。

 身の丈6メートルほどの巨大な翼竜が凶悪な口に炎を溜め、ブレスを放つ。


「あっ、やば死んだ」


 そう思い両腕でガードすると、カチャノフから貰った腕輪が火球を全て受け止める。


「えっ、なんだこれ……」


 普通に考えて小さな腕輪一つでドラゴンの火球を受け止められるわけがない。

 しかし炎を受け止め終わると、腕輪は巨大なガントレットへと変貌していた。

 驚くほど自身の腕にフィットしているが、ずっしりと金属の重量があり、重い。手の甲には六角形の装甲に十字が刻まれ、腕にはIIIの文字が薄緑に光っている。

 これがジオストーンの元の姿なのだろうか。

 俺に考える暇を与えず、ドラゴンは火球を連続で吐き出す。


「ちぃっ!」


 ガントレットで火球を振り払いながらドラゴンへと接近する。

 わかんねぇけど、これが武器だっていうならぶん殴る以外に使い道はないだろ!

 どこぞの大作映画かと言いたくなるくらいボッカンボッカン爆発する地面を走り抜け、俺はガントレットで地面を殴りつけ跳びあがった。


「人間なめんなよ、トカゲが!」


 そのまま落下しドラゴンをハンマーのごとくぶん殴る。

 すると手の甲の部分にあった十字マークが急速で回転し、六角形の装甲板が締まっていく。


[ファーストイグニッション]


 今スマホから何か音声が出た気がする。だが今の俺にはそれを気に留めている余裕はない。

 ドラゴンの頭にヒットした拳は浅い当たりに反して強い衝撃が巻き起こる。

 自身の拳の衝撃に吹き飛ばされ派手に地面を転がった。

 逆にドラゴンはたった一撃で体を大きく揺らし倒れ伏した。


「バカな、アンビエントが一撃だと!?」

「うわ、なんかわかんねーけどすげーつぇぇ」


 俺が小学生並の感想、通称小並感を漏らすと、竜騎士はオリオンを弾き飛ばしドラゴンに駆け寄る。


「アンビエント!」


 俺はガントレットを竜騎士に向ける。よく見ると俺の腕に刻まれたIIIの数字がIIにかわっており。十字マークだった装甲板は星のマークにかわっている。

 あの攻撃はもしかして弾数制なのか? とまだ慣れぬ武器に首を傾げる。


「よくも……」

「よそ見してんじゃねー!」

「!?」


 拘束されていたはずのオリオンが力技で抜け出すと、力任せの結晶剣を振り下ろす。


「なぜ抜け出せる!?」

「お前よりあたしの気合いが強かっただけだ!」

「そんな根性論なんぞに私が負けるか!」


 オリオンの結晶剣にカウンターの拳を合わせる竜騎士。

 激しいインパクト音が響き、結晶剣に大きなヒビがはいる。


「このまま砕いてやる!」

「お前の意地とあたしの意地どっちが強いか勝負だ!」

「ほざけ!!」


 周囲に衝撃波が飛び、俺の体は吹き飛ばされそうになる。

 結晶剣と拳がぶつかりあっているだけだというのに、剣の中にある魔力が漏れ出し、バチバチと光をあげる。


「こんのぉぉぉぉぉぉ!!」

「はあああああああっ!!」


 結晶剣に入ったヒビは徐々に大きくなっていく。

 竜騎士の口元が吊り上がる。

 ミシミシと剣が音を立てて光を零していく。もう剣がもたない。

 

 パリンと音を上げて砕け散る結晶剣。


「貴様では私には勝てない!!」

「見下してんじゃない!!」


 竜騎士のドラゴンを模したクロー付きのガントレットがオリオンの腹を狙う。


「オリオーーーーーーン!!」


 俺の叫びに一瞬竜騎士の視線がそれる。

 その一瞬はあまりにも致命的であり、砕けた結晶剣の下から出てきたモノに気づかなかったのだ。

 それは赤く光をあげる剣。結晶剣に内包されていた魔力の塊。


「あたしの意地を見ろ!」


 まるでビームで出来たような剣を大上段に構えると、剣はナルシス城を超えるほどの巨大な光の剣へとかわる。


「なっ!?」

「くらえよ、最高レア、低レアの一撃を! あたしが名付けたこの剣を!」


 オリオンの意地の塊で出来上がった空を割る剣。

 彼女はこう名付けた。


「断・空・剣ーーーー!!」と


 正しく空を断つ剣は、竜騎士へと振り下ろされる。


「!!?」


 眩い光が竜騎士を飲み込む。

 凄まじい衝撃がナルシス領全域を大きく揺らす。

 低レアに持たされた最後の切り札は、見事最高レアを討ち取ったのだった。


「ハァハァハァハァハァ……どうだ……見たか」


 大きくえぐれた大地には土煙が舞い、視界が悪い。

 だが、その中でゆらりと立ち上がる影があった。


「くっ……この私が……」


 悔し気に口元から血を流しつつも未だ敵意の衰えない瞳でオリオンを睨む竜騎士。


「しつこいんだよ。今のでやられとけよ」


 竜騎士は立ち上がるが、唐突に耳をおさえ、別の誰かと交信しはじめる。


「はっ……かしこまりました…………はい、作戦遂行は難しいでしょう。了解。即時帰還いたします、マイロード」

「なんだよ、ナルシストが帰って来いっていったのか?」

「あんなものは我が主ではない。義理は果たした、我々は本国へ帰還する」

「帰れ帰れ、尻尾まいて。あとでペナルティ楽しみにしてろ聖十字騎士団」

「くっ! 我が名はドラニア・ベルモット! 貴様は私が討ち取る、オリオン!」


 ベルモットは何かを地面に投げつけると眩い閃光が放たれ、光がおさまったころにはドラゴンも竜騎士の姿も消えてなくなっていた。

 同時刻、ディーたちが追いかけていたナルシスと聖十字騎士団の混成軍も、聖十字騎士団の部隊だけが忽然と消え、撤退していったのだった。


「疲れた」


 ぺたりと尻をつくオリオン。


「お疲れさん。さすがだな」

「あたしレアリティをひけらかす奴は嫌いなんだよ」

「知ってる」


 俺は鉄より硬い意地をもった相棒に笑みをこぼす。

 彼女の持っていた光の剣は、再度結晶化が起きており、元の結晶剣に戻っていた。・


「あたし寝るから、後任せた」


 力を使い果たして一瞬で寝入ってしまったオリオン。


「おう、ごくろうさん。後は上だけだな」


 俺は未だモスキートと百目鬼が戦っている別塔を見上げる。

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