盗人
徐々にコンテストの時間が近づいてきて、広場に人が集まり始めていた。
参加者も順々に会場入りしているようで、大きな布袋を担いだ職人たちがステージ近くへと集まっている。
俺はその中でカチャノフの姿を見つける。
参加者の中で唯一のドワーフ族らしく、小さいながらも一番目立っていた。
向こうも俺達に気づいたようで、布袋片手に小走りで近づいてくる。
「兄貴、見に来てくださったんですかい!」
「ああ、約束したからね」
「ありがとうございやす。兄貴に恥じない物が出来上がりやした」
「それか?」
俺はカチャノフの持つ布袋を指さす。
形状的には片手剣だろうか、そこそこ長い物に見える。
「まだコンテスト始まってないんで、あんまり人目にさらしたくないんですけど、兄貴には世話になったんで先にお見せしやす」
カチャノフは俺達を物陰に誘うと、そこで布袋を取り払った。
中から美しい蒼海色の光を放つ剣が現れ、息を飲んだ。
「こりゃすごい」
「このカチャノフ会心のデキでやす。凄いのは見た目だけじゃありやせん、クラーケンの宝玉を触媒に使っているので特殊なスキルも付与されてやす」
「クラーケンの特殊スキルって、もしかして次元圧潰じゃ……」
「しっ、あっしも自分で結構やばいもん作ったなと自覚してるんで、特殊スキルは内緒でやす」
「お、おぉ」
「コンテストが終わったらドワーフの里に封印するか、博物館にでも送ろうかなと思ってるんで」
「そうなのか、でもなんか勿体ないな。カチャノフが仕えている王に献上したら喜ばれるんじゃないか?」
「はは、あんなクソ野郎にくれてやるくらいなら、あっしはこの剣を肥溜にでもぶちこみやすぜ」
HAHAHAと外人みたいにカチャノフは笑っているが、相当今の主が嫌いなようだ。
「それとモデルの話なんだけど、悪いんだがディーは用事で出てしまってるんだよ」
「いや、いいんです。姉さんは見事な剣を既にお持ちでしたので、あっしの剣を持ってもらうのは蛇足でしょう」
「そうか? こんな見事な剣なのに」
「と言ってもモデルがいないと失格なんでやすがね」
「ダメじゃないか。武器だけでも見てもらわないと」
「困りやした」
「ウチの連中、誰か近くにいたら出してもいいんだけど。でも、こんな凄い剣に似合う奴なんていないぞ」
「あのロヴェルタ嬢は来てないんでやしょうか?」
「ロヴェルタさんは今日留守なんだよな?」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってて!」
百目鬼が慌ててどこかに走り去ると、数分してロヴェルタさんを連れて戻って来た。
「あれ、来てたの?」
「う、うん。丁度来てたみたいで」
ロヴェルタさんはいきなり連れてこられたというのに、特に表情もなく百目鬼の方を見据えている。
「連れて来たよ」
「こいつはありがてぇ。すみやせんが、モデルを頼めやせんか?」
「い、いいよねロヴェルタ」
「はい、我が主よ」
モデルも決まって良かったなと話していると、カチャノフが何か言いたそうにこちらを見ている。
百目鬼はロヴェルタと時間つぶしに出店を見て回っている為、二人っきりだ。
「どうかしたのか?」
「兄貴……あっしには伝えなきゃならないことがあるんでやす」
「どうしたんだ、改まって?」
「あっしは……実は……いえ、なんでもありやせん」
「ん?」
「兄貴、コンテストが終わったらお時間くだせぇ。兄貴には話しておかないといけやせん。あっしが何者なのか」
カチャノフは深く頭を下げてから、準備のためにステージの裏へバタバタと走り去っていった。
コンテストの時間となり、広場は大勢の人でごった返していた。
俺と百目鬼は幸いにも最前列を確保することができた為、後ろからの圧力に負けないようにしながらステージを見やっていた。
「もう始まるね」
「多分カチャノフの優勝で決まりだな。あれだけ凄いもの高級武具店でも見たことがない」
「そんなに凄いんやね」
「最初にカチャノフの武器を見ちゃったのはちょっと失敗だったかも、優勝者わかってたら面白くないかもしれない」
「ほんまやね」
百目鬼がクスリと笑うと、ステージに身なりの良い司会役らしき男性が上がる。
「お集まりの皆さま、歴史あるフェルマーダブラックスミス女神杯、記念すべき第50回目を開催させていただきます。皆様には後ほど投票用紙を配らせていただきますので、全ての参加者が出そろった後一番良かったものに投票をお願いします! それでは早速エントリーナンバー1番ジャクソン村からやってきた若き鍛冶師が作り上げた槍の登場です!」
コンテストが始まり、順々に素晴らしいデキの武器が披露されていく。
「凄いな、レベルが高い」
「うん、みんなカッコイイの多いね」
だが、全て武器はいいのだが、セットで出てくる女性がちょっと残念系の人が多い。
大体鍛冶屋に美しい女性を連れてこいってのが無理があるだろう。人によっちゃ最高の武器より難易度が高い。
こりゃますますカチャノフの優勝は揺るがなくなったな。
「ん……」
「どうした?」
二人でコンテストを眺めていると、唐突に百目鬼の足がおぼつかなくなり、俺は体を支える。
「人に押されるし最前列辛いか?」
「そういうわけちゃうねんけど……ちょっと立ちくらみしただけ」
立ちくらみというよりは、脚が麻痺してるんじゃないかってくらいプルプルと震えている。
「大丈夫か、辛そうだけど?」
「う、うん、大丈夫やから」
「辛かったら言ってくれ。人多いし、酔ってしまってるのかもしれない」
「うん、ありがとぉ」
大丈夫というわりには脚にはあまり力が入っていないようで、俺はずっと百目鬼の腰を持ちながらコンテストを見続けた。
なんとなく腰に手を回すのはベテランカップルのようで少し気恥ずかしい。
童貞かと思うが、隣の百目鬼も顔が赤い。
お互い経験値の低さは同じくらいだろうか。
1時間くらいコンテストを見続けて、百目鬼の脚の震えもしっかりしてきているが一向にカチャノフが出てくる様子がない。
「あれ? カチャノフ出てこないな」
「そうやね? もう結構経つのにね」
「おかしいな」
「それでは最後の参加者をご紹介します。若き王は鍛冶の才能にも秀でた天才でもあった! この近くに住まう人で彼の名前を知らない人はいないでしょう。本大会の出資者でもあるオンディーヌ・ナルシスの登場です! 武器名はクラーの剣です!」
ステージにボインスキーとうり二つの青年、それと剣を携えた美しい女性が上がる。
女性は腰に挿した、美しい剣を抜き放つ。
会場内に碧い光が煌めき、艶のある剣が天高く掲げられる。
「んっ!?」
「えっ?」
俺と百目鬼は女性が持っている剣を見て驚いた。
それはさっきカチャノフが大事そうに抱えていた剣であり、見間違うはずもなかった。
「あれ、さっきカチャノフさんが持ってたやつと違うん?」
「いや、そっくりの武器って可能性も……」
そう思ったが、俺達が見ているすぐ近くでなにかが聞こえる。
「キュイー!」
「ああエリザベス、ダメでしょ!」
同じく最前列で観覧していたらしい、ソフィーの腕の中にいるエリザベスが激しく暴れているのだ。
ステージで掲げられている剣に興奮しているようだ。
「間違いないな、ありゃカチャノフの剣だ」
クラーケンの宝玉はエリザベスの父親の形見、強く反応しているのは父親の魔力を感じ取ったからだろう。
「ロヴェルタ……どうしたん? 何があったん?」
百目鬼は片耳を押さえながら何かつぶやいている。ロヴェルタさんと遠くにいても話す術をもっているのかもしれない。
「これは素晴らしい剣だ! こんなワザモノ見たことがないぞ! 他の武器も素晴らしかったですが、これは一歩、いや二歩くらい秀でているのではないでしょうか!」
司会がテンション高めで声を上げるが、確かにその通りだろう。明らかに観客の反応が違う。
司会はナルシスに話を聞くが、正直俺達には壇上のキザ男よりカチャノフとロヴェルタさんの方が気になる。
「カチャノフとロヴェルタさんを探そう」
「うん」
俺達はコンテストの結果を聞かずに広場を離れ、周辺を捜索する。
いなくなったのはコンテストが始まる直前ぐらいからの数分。そんな遠くにいるとは思えない。
「ロヴェルタの位置やったらわかるよ!」
「よし、行こう!」
俺はずっと後ろに控えているセバスにトラブルが起きたことを伝え、ついて来るように言う。
百目鬼が先行すると、向かったのは広場のすぐ脇にある川にかけられた橋の下だった。
まだ昼過ぎなのに橋下は薄暗く、綺麗な街並みとは裏腹に多くのゴミが捨てられており、浮浪者の影がちらほらと見える。一人ではできれば来たくない場所だ。
百目鬼の進む先に浮浪者が集まっており、俺は怯えている百目鬼の前に出て、人を散らしながら先に進む。
すると横たわる女性の姿が見えた。
「ロヴェルタ!」
急いで抱き起こし身体を確認するが外傷はなく、何か乱暴された様子もない。
セバスがすぐさま脈拍を確認する。
「魔法か何かで眠らされているだけですね」
「良かった」
「何があったんだ」
「ん……」
百目鬼がロヴェルタの手を握ると、すぐに意識が戻って来たようだ。
「大丈夫か?」
「ああ……体が、動……かない」
「麻痺毒も一緒に入れられたのでしょう。恐らく、しばらくは動けないかと」
「何があったんだ?」
「…………」
聞くとしばらく無言だったが、ロヴェルタさんのかわりに百目鬼が答える。
「カチャノフさんと準備しようとしたら、いきなり後ろから襲われたみたい」
「百目鬼、お前もしかして思考共有とかできるのか?」
「う、うん……ロヴェルタのことやったらわかるんよ」
やっぱり百目鬼とロヴェルタさんは特殊能力的なものをもっているのだろう。
「ってことは、カチャノフがどうなったかわからないんだな」
「うん、ごめん」
「百目鬼が謝ることじゃない」
話していると浮浪者が数人近づいてくる。
俺とセバスが警戒してサーベルに手をかけるが、争うつもりはないようだった。
「あんまりワシらのシマ荒らさんでくれ」
「すまない、すぐに引き上げる」
「向こうの死体もあんたらの仲間かい?」
「し……たい?」
「ドワーフの死体だよ。そっちの女は生きてたけど、向こうのドワーフは多分死んでるよ」
嫌な予感が走り、俺は浮浪者が指さす方に駆ける。
そこにはゴミの中に埋もれた血まみれのカチャノフの姿があった。
ロヴェルタさんとは違い、胸に大きな刺し傷がある。剣で後ろから刺され、その後暴行されたのか。
。
すぐさまゴミ山からカチャノフを起こす。
「大丈夫か!? しっかりしろ!」
胸に手を当てて鼓動を確認する。微かながら、まだ心臓は動いている。
しかし事態は一刻を争うだろう。
「セバス!」
セバスはすぐさま止血を行い、カチャノフの体を抱える。
「私はマディソンの病院へと向かいます」
「ソフィが来てるからソフィーに」
「あの人混みの中からソフィー様を見つけるのは難しいでしょう。病院ならすぐ近くにあります」
「わかった、頼む!」
セバスはドワーフ一人を抱えているというのに俺の全力疾走より早いスピードで走り抜けていく。
「確実にあのクソ野郎だな」
女には手をかけず、男には容赦しないところも奴の性格が伺える。
カチャノフはコンテストの出場者のはずなのに、それが何の違和感もなく除外されているところを考えると、ナルシスがカチャノフを襲い、大会の運営にカチャノフは出場を辞退したと伝えたのだろう。
コンテストの出資者である奴なら、何の疑いももたれないだろう。
「あの野郎」
「あかんで、梶君王様なんやから喧嘩したら戦争になるで!」
「くっ……、わかってる。でも話だけでもしよう。ロヴェルタさんも具合が悪そうだし、一度病院に……」
声をかけようとするがロヴェルタさんの姿はどこにもない。
「あれ、ロヴェルタさんは?」
「あっ、ロヴェルタやったら大丈夫、えっと……病院行かせたから!」
「そうなのか? 麻痺があるし、手を貸した方がいいと思うんだが」
「だ、大丈夫気にせんといて!」
俺は何か隠しているような気がする百目鬼に首を傾げながらも、二人で急いでコンテスト会場へと戻った。




