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その少女凶暴につき

「モウモウ!」

「あーわかったわかった。並べ並べ」


  菱華村の件で城を何日か留守にしていた為、ホルスタウロスの牛舎に入った時の歓迎のされようは凄まじいものだった。

 もみくちゃにされて体半分引き裂かれるんじゃいかと思うほどの引っ張りだこ。

 元の世界でこんなにモテたかった。


 ただしホルスタウロスは……モンスターだ。


 もうモンスターでもいっかと何かを捨て、もしかしたらモンスターだらけのハーレム作れるんじゃないかと思ったが、触手にからめとられたりスライムに溶解されてる光景が頭に浮かんで、やっぱ無理と即諦める。


 しばらく遊んでからホルスタウロスを城近くに放牧し、増えたノルマの為城の地下へと降りる。

 明かりのない薄暗い地下室には菱華村から運び込んだ棺が並んでいる。

 言うまでもなく黒龍隊のキョンシーたちだ。

 地下には火結晶が置かれ、暑く感じるほどの気温になっている。

 それは全て彼女達が起床したときに早く体温を上げる為だ。

 彼女達アンデッドには自分で体温を上げる機能がなく、体温が一番下がる朝は体が硬直し、思考能力もゾンビ並になってしまう。

 地下を暖かくして、早めに思考を覚醒させてほしいと言われた為にこのように暑くしているのだった。

 黒龍隊員の眠る棺を抜けて、ガチャの間すぐ隣にある部屋に入ると、そこには真っ黒い石の棺が部屋の中央に安置されている。

 悪魔召喚や吸血鬼などを彷彿とさせる部屋の内装は不気味だ。

 棺の中で手を組んで眠っている少女の血色は悪く、青白い顔をしている。

 死んでるんじゃないかと思うが、実際彼女の体は死体と同じだ。

 漆黒の髪にメリハリのあるボディライン。貴族までもが求婚してきたというのは嘘ではないだろう。

 ウチのチャリオットは間違いなく美人ぞろいで、誰かに自慢したくなるのだが、嫉妬にかられた他の王が攻め込んでくるかもしれない。

 実は結構くだらない理由で攻められることが多いので笑いごとでもない。

 死んだように眠る……実際死んでるんだが。

 レイランの頬をペチペチと叩いてみるが全く反応はない。


「おーい、生きろー」


 何この斬新な起こし方。

 こいつこのまま死んだままなんじゃね? と思うが、この時間になったら起こせと言ったのは死んでいる本人である。


「ほんとに大丈夫なんだろうな?」


 確かに昨日「朝になったらワタシのこと起こすよろし。王になら特別にワタシの体触る許可あげるネ」と言っていたことを思いだす。

 体を触る許可っておっぱい触ってもいいってことだよなぁと解釈し、俺はいろんな意味でドキドキしながら死んでいるレイランの胸に手を伸ばす。

 待って、これじゃ死体に悪戯するクソ野郎じゃない?

 これ誰かに見られたら言い訳できねーな。

 そう思っていると今まで全く反応のなかったレイランの目がカッと見開かれる。

 すげー怖い起き方するな、こいつ……。


「……ぁー」


 ん? 目赤くない? それにゾンビみたいなうめき声あげてるし……。

 違和感を感じながらも見守っているとすぐ近くにいる俺と目があう。


「起きたか? 大丈夫か? なんか調子悪そうだが」


 死体に調子悪そうというのもおかしな話である。


「があああああああっ!」

「えっ、なんで!?」


 レイランは俺の胸ぐらを掴むと無理やり引き倒す。

 あっ、やっばい。丸腰だからサーベルも何も持ってない。

 すげー油断してた! こいつがまた意識失ってキョンシー化する可能性は十分に考えられたはずだ。しかもここは地下室、叫んでも声が地上に届かない。

 棺の中に俺を押し倒すと、そのままレイランは自分の唇を押し付けてくる。


「ん!? んんんんんんん!?」


 気づけば押し倒されながらも両手はカップル繋ぎになっており、ゾンビに襲われているというより欲求不満の彼女に無理やり押し倒されている情けない彼氏みたいになっている。


「ん……ん……」


 不気味なうめき声は段々艶めかしい声にかわり、硬い両腕の関節はピンと張って曲がることがなく体ごと俺にぶつけてくる。

 荒い息遣いをしながら、ようやく顔を離してくれた。


「はぁはぁはぁはぁはぁ」

「だ、大丈夫か?」


 レイランの目はまだ赤く、口元から涎が垂れているし、舌もだらしなく覗いている。

 肉食獣のような瞳はまだ満足したとは言い難く、あっダメかもと思った直後再びレイランは唇をぶつけるようにしてキスをする。

 高飛車なところもあるが意外とキス好きなのかなと思うのと同時に、徐々に手の力が抜けてきたので俺は両手を彼女の腰に回しきゅっと引き寄せた。


 体を密着させ十分くらい経っただろうか? 段々とレイランの関節が柔らかくなっていくのがわかる。

 ピンと突っ張ったままだった腕の関節は曲がり、硬かった腰も柔らかくなりいく。


 わかった、こいつ体が熱くなると硬直がとけるんだ。

 予想通り硬かった脚も柔らかくなり、真っ赤だった目も徐々に元の翡翠色を取り戻し……俺の唇を噛んだ。


「いった!!」


 血は出ていないが、結構思いっきり噛みやがった。

 至近距離に映るレイランの目には怒りが浮かんでいる。


「お前、ワタシ起こせ言ったけど、誰がここまでしろ言ったネ」


 怒りというよりは呆れに近い声をあげる少女。どうやら意識が戻って来たらしい。


「言っておくけど先に襲い掛かって来たのはお前だからな!」

「なんでワタシ、お前に噛みついてアンデットにしなかった不思議ヨ」

「お前がエロいこと考えてるからだろ」


 思ったことを言うと、レイランのグーが俺の顔面にめり込む。


「デリカシーのない男嫌いヨ。まぁ男は全部嫌いネ」

「何もぶん殴ることないだろ~」


 まぁでもコイツプライド高そうだから、キスして体を好き放題触ってぶん殴られるだけならマシなのかもしれない。

 痛む鼻をおさえながら、俺はレイランの下から抜け出し棺からおりる。

 レイランも同じように棺から出ようとするが、棺のヘリにつんのめってこける。

 慌てて抱き留めると、お姫様抱っこみたいになってしまった。

 やばいグーが飛んでくると流れが読めて痛みに備え顔に力をこめる。


「何を不細工な顔してるカ? お前元が元なんだからそんなことしたら見るに堪えないネ」


 言葉きつすぎでは? 心弱かったら泣いてるよ?

 レイランは棺のへりに座ると、まだ硬い自分の脚の関節を触って確かめる。


「一晩寝ただけでこんなにもガチガチになるネ」

「やっぱそれ死後硬直ってやつなのか?」

「多分そうネ。ワタシ別に眠らなくても大丈夫だけど、肉体は人間と同じだからあまり酷使すると壊れるネ。特に痛覚はほとんどないし、硬直による体の重さはあるけど、疲労によるダルさは全くないから、調子のって寝ずに行動するの危険ネ」

「脳は寝なくても大丈夫だけど、体に溜まった疲労は寝て回復しないとダメってことか」

「そういうことネ。でも毎朝これだけ体が固まってるの問題ネ。しかも体温下がってると自分じゃ起きれない」

「あぁそうだ、ウチずっと温泉わいてるから体温めるなら朝風呂入るといい。体硬直してても風呂場くらいならいけるだろ」


 さてレイランも起こし終わったし、今度は新しく入ったアマゾネスたちの様子を……。

 そう思い踵を返そうとすると、服の裾が引っ張られた。


「どこ行くネ。風呂付き合うよろし」

「あれ、俺の話聞いてた? 硬直してても風呂くらいいけるだろって言ったよね?」

「ワタシ石鹸踏んで床に頭ぶつけたら大変。脳漿ぶちまける。風呂場いっきに殺人現場はやがわり」

「死体が殺害されるとはこれいかに」

「グダグダ言うのよくないネ」


 俺はレイランに襟首を掴まれ、ズルズルと浴場へと引きずられていく。


「お前そんだけ動けたら俺いらないだろ!」

「~~♪」


 鼻歌歌ってやがる。

 まぁ問題児がまた一人増えたと思えばいいか……。

 俺のメンタルも強くなったものである。


 ◇


 風呂上がり、脱衣所でレイランはタオルを肩にかけギリギリ胸が見えない男らしいスタイルで冷えた牛乳を一気飲みする。

 俺は男らしくなく、タオルで前を隠しながら一緒に牛乳を飲む。


「美味」

「うまい」

「朝風呂いいネ。気に入った」

「そんじゃ明日から一人で来いよ。あっ、お前の仲間、黒龍隊だっけ? そいつらも連れてきていいから」

「何言ってる。ワタシ最初に起こす人いないと起きられない。明日も来るよろし」

「俺にまたあのホラー体験をしろと言うのか?」

「嫌か?」


 レイランは艶めかしい舌の動きで自分の唇をぺろりと舐める。

 その動作で、さきほどのキスが思い起こされる。


「あのな、俺は動けない女の唇奪うほど落ちぶれちゃいねぇんだよ」


 これでも男だ。いくら相手が良いと言ってもそんなことするのは紳士的ではない。

 そう言った直後、腰に巻いていたタオルがポロリと落ちた。


「…………」

「体は正直ネ」


 レイランは俺の元気な下半身を見てクスリと笑う。


「ちょっと血行がよくなっただけだ」


 さっきのキスを思い出していたとは言えない。

 それから俺は遺憾ながらもレイランの朝起こし係を担当するのだった。

過激表現の修正を行っています。

前後の文がおかしくなっている可能性があります。

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