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アマゾネスと死者の村エピローグ

「これからどうするカ……」


 黒龍隊とレイランは崩壊した菱華村を見て、深くため息をつく。

 自分たちの魂が体に定着したからと言ってアンデッドという事実はなくならない。

 恐らく体の硬直はなくならないだろうし、この青白い顔を見て化け物だと指さす人間もいるだろう。

 前の自分ならアンデッドというだけで、迷惑だから討伐に乗り出していたかもしれない。

 それは他の黒龍隊達も同じであり、自分たちの属性が人からモンスターにかわってしまい絶望というより、これからどうしていいかわからないというものがほとんどだった。

 元の国境警備隊に戻れるわけもなく、レイラン一人ならアンデッドという事実を隠して公務に復帰できるかもしれないが、この青白い顔の仲間を三十人近くも復帰させてくれるわけがない。

 レイラン自身も仲間を見捨てるつもりはないので困り果てるしかない。

 手にした青龍刀に自身の顔が映る。


「困ったネ」


 腹などはすかないが、この体だと魔力が必要になる。

 そうなると他のモンスターか、人間を襲う必要がある。

 そうなるとますますアンデッドと同じだと自嘲気味の笑みがこぼれた。

 レイランは自身の手に握られた闇色の結晶石を見つめる。

 この結晶石があれば自分だけでなく、仲間の分まで魔力が供給される為、誰かを襲う必要はない。

 だが、これはあくまであの王から借り受けたものであって、自分のものではない。

 このままいただいてしまおうなんて考えは彼女の頭にはなく、返すことが当然だと思っていた。


「隊長……」

「どうしたネ?」


 老婆の死後、束縛から解放された隊員の一人が体調が悪そうに体を引きずりつつレイランの元に来る。


「具合悪いカ?」

「いえ、そういうわけではありませんが」


 見るとどの隊員も同じように頬を紅潮させ、脚をすり合わせている。


「その……あの王を見ていると、なんだか体が熱くなって……」

「発情してるカ?」


 全く歯に衣を着せぬレイランのもの言いに、隊員はコクリと頷く。

 そしてその原因はすぐにわかった。


「お前たちその札とるよろし。愛とか書いてるネ」

「しかしそれではアンデッドに……」

「大丈夫ネ」


 レイランは自身に貼られた正義と書かれた札をはがす。

 凶暴化するようなことはなく、闇の結晶がうっすらと光るだけだった。

 これを返したら、札をとれなくなるのかとレイランは気づく。

 レイランにならい隊員はおそるおそる札を外す。


「だ、ダメです。かわりません。その……札をとると不安になるのでつけてもいいでしょうか?」

「す、好きにするネ」

「はい……」


 隊員たちは皆また愛と書かれた札を自身に貼りつけ直した。

 愛の札が貼られていないレイランにはよくわからない心境だった。


「おぉ、寝てる間に全部片付いてんな」


 俺はクロエに体を支えてもらいながらレイランの前に立った。


「起きて大丈夫カ?」

「エーリカの麻酔がきいてるから今はなんとか大丈夫」

「そうカ」

「浮かない顔だな」

「そうネ。姥姥は倒したけど、ワタシたちに残ったのは死肉ネ。元の生活に戻るのは到底不可能ネ」


 そう言ってレイランは頭に札を貼りなおし、闇の結晶石を俺に返した。


「それのおかげで助かったヨ。王に大感謝ネ」

「なんで返すんだ? いるなら持っとけよ」

「それとても大事なモノ。凄い力ある。ワタシたち死人に使っていいものじゃないネ」

「ああ、その石持ち主勝手に選ぶから。お前が選ばれたらもう他に使い道ねーから」

「な、なんでそんな大事なこと後から言うネ!? どうするカ!? ワタシもう死ぬくらいしか思いつかないネ!」


 レイランは持っていた青龍刀を首筋にあてる。

 こいつ意外と責任感とか強いんだな。


「あぁマテマテ極端な奴だな。三十人そこそこだろ、ウチ来いよ。ボロくて何にもねーけど」

「バカなこと言うな。ワタシたちアンデッドネ。そんなの置いてたら悪い評判すぐ広がるネ!」

「お前ら悪いことすんの?」

「バカなこと言うなよろし!」

「じゃあいいだろ別に、よそから何言われようが」

「お前ほんとにアホなのか!? アンデッド皆怖がる当たり前! この村みたいにアンデッドだらけにされるの怖がるの当然! それが常識ネ!」

「ならお前がその常識をかえろ。今まで自分を認めさせる為に権力や力と戦ってきたんだろ」

「うっ……えっ……」


 全く物怖じしない返答にレイランは逆に言葉を詰まらせるのだった。


「他の奴らが嫌がったら知らないが」


 周囲を見渡すと、黒龍隊たちがさっと物陰に隠れた。

 おーおー嫌われたもんだなと思う。


「そんなのワタシたちにとって都合が良すぎるネ……」

「そんなことないぞ。ウチは金はないし弱小だし、城に領民はほとんどいない。あっ、お前ら全員帰ったら城の拡張工事につき合わすからな。今いる奴らも皆馬車馬のように働かせて、城では鬼畜王として有名だからな」

「ソンナワケ……ナイネ」

「?」

「そんなボロボロになってまで誰かの為に戦ってる王がそんな名前で呼ばれるわけないネ」


 レイランの目は見るに堪えない、俺の右腕に注がれている。

 ボロボロになった腕は、恐らく完治することは不可能だろう。

 俺の腕なんかよりレイランの腕の方がよっぽど綺麗だと思う。


「いやーそんなこともないぞ」


 俺は頬をかきながらも、何か非道なエピソードはないかと探す。


「ワタシの目的はこの大陸を平定することネ。それには強い人間に導かれなくてはならない。王にこの大陸全ての王を倒し、平和にすることができるカ?」

「そんなことわかるわけないだろ。正義や平和なんて人の数だけあるんだ。そんなの今更な話だ。でも俺は仲間を見捨てはしない」

「王にとっての正義は?」

「仲間」

「王にとっての悪は?」

「仲間をおびやかすもの」


 とんだ甘ちゃんだと鼻で笑いたくなるが、ここまで体で実践されると笑い話にならない。

 レイランはそう思いふぅっと息をつき頬を赤くして王を見る。

 なんだか見ているとむず痒くなってくるような、体が熱くなるような気がする。

 勿論気のせいだとわかっているのだが、不思議と嫌じゃない感覚を覚えた。


「だからお前も仲間になれ。守ってやる」


 そう言われてボロボロの右手が差し出される。

 握ったらきっと痛いだろうとレイランはわかりつつも、恐らくその一瞬だけはきっと我慢するのだろう。なんて王の人となりがわかり嬉しくなるのと同時に頬が更に紅潮していくことに気づく。

 今まで誰からも言われたことのない守ってやるという言葉に、嬉しさを感じ、素直に守られたいと思ってしまったのだった。

 レイランは優しくゾンビみたいな右手と握手すると、スマホが輝き契約完了のメッセージが表示される。


「王って爸爸パーパみたいね」

「パパ?」

「父ってことね。ワタシあんまりパーパのこと覚えてないけど、きっと王のような人ネ」

「まだそんな年じゃないよ。それよりお前顔赤いけど大丈夫か?」


 無造作にレイランの額に触れると、赤みが更に増す。


「お、王ワタシの札なんて書いてあるネ?」

「えっ、正義だぞ?」

「愛じゃないか?」

「愛? あぁそれならここにまだ残ってるけど」


 俺は特に考えなしに正義の札をはがして、かわりに愛と書かれた札を貼りつける。

 するとレイランの顔が真っ赤に染まり、青い肌が普通の人間と変わらない血色の良い色にかわる。


「これまずいネ! よくないネ!」


 レイランは大慌てで札をはがして、元の正義の札を貼りなおす。


「?」


 俺が小首を傾げると、ボンとトマトのように顔を赤くして顔を背ける。


「だいじょぶか?」

「あんまり見つめるなよろし!」


 そんなに見てはいないのだが。


「これ何ネ。ドキドキ止まらないネ」


 そう言って胸に手をそえると自身の心臓が脈打っているのに気づく。


「えっ?」


 確か生命機能は動いてないはずじゃ、と思い、しばらく待つと心臓の脈動はとまり元の青白い肌へと戻った。

 しかしこっそりと愛の札に戻すと、心臓がバクバクと脈打ちだしたのだった。

 心臓が動き出すと、今まで感じられなかった温度や風の触感が強く感じられ、生を実感することができた。

 それは他の黒龍隊たちも同じだった。


「は、発情したら生き返るなんて、く、屈辱ネ……」


 だがそれが全然嫌ではないのが更にプライドの高いレイランを困惑させるのだった。

 そう思うと王から目が離せなくなっていた。

 とうの王はアマゾネスから傘下にいれてくれと申し出を受けて、何人いるの?と聞き返し、街にいるのを含めると三百と帰ってきて「多っ!」と驚きの声を上げていた。


「た、隊長。どうなされるのでしょうか、これから……」

「決まってるネ。あの冴えない王をこの大陸一の王に押し上げ、成し遂げられなかった平和と秩序を我々が守るネ」

「はっ!」


 黒龍隊の全員が腕を胸に当て敬礼をする。


「我らが王の剣となり、槍となり立ちふさがる障害を振り払う! 失った命を魂を黒龍隊は王に捧げよ!」

「「「はっ!!」」」


 俺は残った黒龍隊の前で熱弁をふるうレイランを見て、なんか盛り上がってんなと半ば他人事のように思った。

 なにはともあれ。菱華村での戦いは終わった。

 結局依頼者が事件の黒幕であり、報酬貰えねーなと思いつつも新たな仲間が加わったことを嬉しく思った。


アギオルジ HR ハイアマゾネス

 筋力B =====

 敏捷C ====

 技量C ====

 体力A ======

 魔力F =

 忠誠S ======

 信仰F =


 スキル 野生の直感 敵意に対し非常に敏感になり、雑踏の中でも敵と味方を的確に見分けることが出来る。

      勇猛 自身よりランクが上の敵に対した時、筋力と敏捷が一段階上昇する。



 酋長の略式称号授与により、アマゾネスからハイアマゾネスへとランクアップした。

 またアマゾネス酋長の座もいただいていたが、それは返上し王についていくことを決める。

 種付けの儀を行わないままハイアマゾネスになったことをコンプレックスに思っており、できれば王に早く種付けを行ってもらいたいと思っている。

 また儀式待ちのアマゾネスの少女が何十人単位でひかえている為、そのことも交渉していきたいと思っている。

 ちなみに種付の儀がなんなのかはイマイチわかっていない。



レイラン EX キョンシー

 筋力B =====

 敏捷S =======

 技量A ======

 体力E ==

 魔力A ======

 忠誠S =======

 信仰Z 


 スキル 神通力 生前よりエーテル能力が高くなり、氷と水を除く精霊能力が使用可能になっている。

      統率力 キョンシー間でテレパシー能力の使用が可能で、近距離ならば言葉をかわさなくても綿密な連携をとることが可能。黒龍隊の連携指示は全てレイランから送られる。

      狂化 自身の理性を代償に攻撃能力を上げる。本能だけで攻撃を行う為、技量能力が三段階低下、かわりに筋力、体力、魔力を二段階上昇させる。自身で狂化をとく方法がない為、止められる人間が止めるか自身の魔力が尽きるまで暴れ狂う。

      死後硬直 寒い場所にいると死後硬直が始まり全ステータスがダウンしていく。


 元黒龍隊隊長であり、真面目で向上心が強く、才能もある為生前はグングンと出世を繰り返していた。

 口が悪く、努力を怠るものに関しては容赦なく罵声を浴びせ、再起不能になるくらいまで追い詰める悪癖がある。

 反面面倒見はよく、努力するものに関してはサポートを惜しまない。

 義理がたく、理知的な性格で几帳面な為、同じ黒龍隊からの信頼は厚く、統率力やカリスマと呼ばれるものが備わっている稀な人物。

 手は出ないが、すぐに口が出る上に理攻めで全く相手の反論を許さない為、嫌われる人間にはとことん嫌われる。

 彼女の方も敵に回ったと判断したら容赦なく叩き潰すので、彼女を見るとおべっかを使う人間が多かった。

 一見完璧に見える彼女だが、メンタル的にはそこまで強くなく、好きな相手に言い負かされたり、嫌われたそぶりを見せられるとすぐに泣く。

 本人は泣いてるつもりはないのだが、怒られると気づけば目が充血し潤んでいく。

 嫌われたと思うといつもの冴えた思考回路が完全に停止し、ネガティブな気持ちがループし何も言い返せなくなってしまう。

 本来なら理攻めで言い負かすところなのだが、そんなことをしたらさらに嫌われるのがわかっているので結局何も言わず涙をためながら声をあげずに泣く。

 根にもつタイプなので、一度怒らせると心のケアにかなりの時間を要する。


 生体メモ

 肉体的成長率がほぼ見込めないが、闇の結晶石ブラックマンデーの力により、アンデッド特有の肉体劣化がなく、ある意味不老不死に一番近い体になっている。

 アンデッドの強靭な肉体により筋力が上がっており、新たに身についた神通力によってアンデッドの最上位種に食い込むほどの身体スペックをもっている。

 だが、アンデッドのデメリットがないわけではなく、自身で熱を発することが不可能で、寒冷地などに行くとものの数分で体の硬直が始まり動けなくなってしまう。

 水が苦手であるが、短時間であれば耐えることは可能。

 ただし、誰かに体温をあげてもらう行為をしてもらわなければいけない。

 それは起床時も同じことであり、気温と体温が一番下がる朝は体が硬直しており満足に動くことができず、更に思考能力もゾンビレベルにまで落ちる。

 起床後、外の気温により体温が上がるまではうめき声をあげてふらつくゾンビと大差ない。

 硬直を簡単に治す方法があり、それは身体的接触により無理やり発情させることで、体の硬直を取ることができる。

 単純に寝ぼけているキョンシーの胸や尻などを触っていると、体が熱くなって寝覚めが早くなるのだ。

 しかし、寝起きの彼女たちはまんまゾンビなので、恐ろしくて胸や尻を触ろうなどと言う気になるものは少ないだろう。

 また、自分の認めた相手以外にそのようなことをされれば彼女達は容赦なく牙をむく。

 思考能力が低下していても誰に体を触られているかくらいは理解できているので、朝に彼女達の体を触っても襲われなければ硬い信頼を得られていると思ってもいい。

 それを試すのは命がけではあるが……。





 真っ暗な闇の中、下半身を失った老婆が体を引きずりながらうごめいていた。


「あの忌々しい王め。必ず復讐してくれる。しかしその前に体を戻さなければ」


 老婆は死体が残っていないか勇咲たちが既に引き上げた菱華村の中を探す。

 だが、ほとんどの死体は王やオリオンたちによって丁重に埋葬された後であり、死体はどこにも見つからなかった。


「どこかに死体は……」


 そう思い徘徊すると、突如自身に影がさす。

 老婆は空を見上げると、そこには若い男のアンデッドが一人と、神官と魔法使いのアンデッドがゆらゆらと揺れながら立っていた。

 黒髪の端整な顔立ちをした青年は青白い顔に涎をこぼし、老婆を見て嬉し気に頬をつり上げる。


「ま、待て! お前達を生き返らせてやる、だから!」


 そんなことを理性のないアンデッドに言ったところで無駄である。

 三人のアンデッドはボロボロの老婆の体に喰らいつくと、残さずその体を貪りつくす。

 やがて老婆の肉を喰らった三体のアンデッドは北の赤月帝国方面へと姿を消したのだった。



アマゾネスと死者の村           了

ここまで7章をお読みいただきありがとうございます

7章は文量的には大体ライトノベル1冊分のボリュームで完結させるつもりで、ちょっと足りないくらいでおさまったと思います。


7章は次の仲間は何にしようかなーと考え、アマゾネスを出したいなとぼんやり考えていたので、アマゾネスにプラスモンスターでゾンビネタにしようかと書き進めていたんですが、ゾンビだとひねりがないかと思いキョンシーで落ち着きました。

レイランの最初のイメージは某路上格闘家の百烈キックの人だったのですが、気づけばエセ中国人ぽい喋り方とツンデレテイストで全く別のものに

8章は短く3章や6章と似た感じになり、話はレイランのショートストーリーとアギの姉たちに会いに行く話になります。


書籍版ガチャ姫発売中です。

よろしくお願いします。

                                        ありんす

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