消毒だ
「さて、どこから見て回るかな」
そう呟いた瞬間グーと腹の音が鳴る。
「オリオンに朝飯ほとんど食われたせいで腹が減ったな……。先に台所で何か物色するか」
腹の虫に従って俺は城の食堂へと向かう。
相変わらずボロっちぃ食堂だが、奥の厨房ではエプロン姿のクロエがせっせと飯の準備をしていた。
「あれ? クロエ朝飯終わったのに、もう飯の準備してるのか?」
「ええ、パパ。人が増えたので仕込みだけでもと思いまして」
ウチの家事全般をほぼ一手に引き受ける、皆の母クロエ。
順繰り手伝いは行っているのだが、基本は彼女と銀河の二人で炊事洗濯のほとんどを担っている。
負担が大きいので曜日交代にしないか? と提案したのだが、ワンちゃんも手伝ってくれますし、お役目をとらないでくださいと懇願されたのでそのままにしている。
俺は仕込みを進めるクロエの尻を眺めながら、テーブルの上に転がっていた食い残しのパンをモシャモシャと食う。
「お腹空いてるんですか?」
「ちょっとだけ」
「でしたら何かご用意しますよ?」
「ああいいよ、これで」
「そんな食べ残しのものなんて。パパはここで一番偉いんですよ」
「じゃあおっぱいだけ揉んどくわ」
俺はクロエの無防備な乳に触れようと手を伸ばす。
「死ねオラァッ!」
俺は背後に殺気を感じて、すかさず身をかわす。
丁度俺の真横をフレイアのローリングソバットが掠めていく。
「チッ、外した」
「お前躊躇なく俺の首狙って来るよな」
相変わらずのハイキック系魔術師だ。
俺の言葉に「当り前よ」と自慢のツインテールを弾くフレイア。
「目を離したらすぐこれなんだから」
「お前には言ってなかったが、実はほぼ毎朝クロエの乳は揉ませてもらってんだがな」
「!」
予備動作なしのフレイアの鋭い回し蹴りを、上半身をそって躱す。
「赤」
「ぐっ、コイツ避けるだけじゃなくて動体視力もよくなってる」
顔を赤くしてスカートの裾を下ろすフレイア。
「フハハハハ、俺だって伊達にいろんな奴らにボコボコにされてるわけじゃないぞ。ちょっとくらい成長するわ」
いつまでも雑魚王などと呼ばれてたまるものか。
「あんたが死線を潜り抜けてるのは認めるけど、成長した力を使ってパンツ覗こうとすんじゃないわよ」
「俺の成長はこの程度じゃないぞ。つい最近スキルガチャで、ウィンドという魔法を覚えることに成功した」
「はっ? ウィンドってつむじ風レベルの初級風魔法じゃ……」
俺はパチンと指をはじきウィンドを使用すると、フレイアとクロエのスカートがめくれ上がる。
二人は一瞬何が起こったかわからず目を見開いた。
「フハハハハハ! 素晴らしい。この魔法はどんなものより価値が高いぞ、そーれそーれ!」
俺が両手を上げると、地下鉄の通風孔から風が吹き上がるように二人のスカートはめくれ上がり続ける。
いいぞ! いいぞ! 魔法最高! 魔法最高!
「調子にぃ……のるなぁぁ!!」
スカートを押さえたフレイアが俺と同じくパチンと指をはじくと、ボーボーと燃え盛るちっちゃいヒヨコが俺の足元にやって来る。
「ピヨピヨ……ピヨ?」
あっ、これ爆発するやつ――
ヒヨコは俺の足元でキラッと光ると、食堂から俺を爆風で吹き飛ばした。
「くぅ、フレイアめ……あいつも地味に力のコントロールがうまくなってるな……」
致命傷にならない絶妙な火力だ。
頭をチリチリにされながら、俺は撤退を決める。
お次にやって来たのはカチャノフの野外工房で、カーンカーンとハンマーが金属を打つ音が響いてくる。
真っ赤な火を吹くかまどの周囲には鍛冶道具が並んでおり、その中心で赤熱した金属を叩いているドワーフの姿が見える。
タオルを肩にかけたカチャノフは俺の存在に気づくと、慌てて手と顔を近くの桶の水で洗う。
「兄貴、なにか御用ですかい?」
「いや、新しく施設が出来たもんだから見回りに来たんだ」
「そうでしたか。いや、工房を作っていただきありがとうございます。兄貴には感謝しかありやせん」
「腕の良いドワーフがいるのに工房もないんじゃ宝の持ち腐れだしな」
「そんな、あっしなんて……。そうだ兄貴に感謝をこめて作ったものがあるんです、是非見てくだせぇ」
「おぉ、それは楽しみだな」
カチャノフはいそいそと倉庫に向かうと、台車にバカでかい人型の像を乗せて戻って来た。
その像はキンキラキンに光っており、あまりにもバカっぽい見た目に口がポカンと開いてしまう。
「…………これはなんだ?」
「1/1兄貴像でやす」
「これ余裕で4メートルくらいあるよな? ちなみに俺の身長いくつだと思う?」
「170ってところでしょうか?」
「1/1の意味知ってるか? 実物と同じって意味だぞ」
「いや、もう兄貴なんでこれくらいビッグじゃないと」
そう言って照れるカチャノフ。こいつ前々から脳みそあんこ説があったが、その可能性が濃厚になってきたな。
「この材質金ピカだが、まさか」
「ええ、純金を使用してやす。きっと兄貴も喜んでくれると思いやして。街の中心にシンボルとして飾りたいっすね」
どう考えても悪趣味すぎる。
カチャノフの善意に頭が痛い。
「これは絶対ディーに見せちゃダメだぞ。最悪殺されるぞ。後無駄に顔が良いのもなんとかしてくれ、実物と比べられたら笑われてしまう」
「そうですか? 実物と遜色ないと思いやすが。うーん……もう少し彫りが深いですかね?」
ダメだコイツ。多分勝手に俺が美化する呪いがかかってる。
ディーにバレないうちにこの像は溶かして金に戻そうと思っていると、工房の真横を魔軍兵の乗った小型戦車が通り過ぎていく。
「ごくごく普通に領地内に入ってきてるが、あれは大丈夫なんだろうな……」
フリーパス状態の魔軍が不安になってきたので、次はルナリアの格納庫へと向かうことにした。
格納庫周辺を女性悪魔が当たり前のように往来しており、タンクトップに迷彩ズボンの女性兵達は俺の姿を見ると「ハ~イ」と軽い挨拶と共に投げキッスなんかを寄越してきた。
軽い誘惑は女性悪魔からすると挨拶みたいなものなのだろう。
格納庫の中へと入ると、目の前に堂々と立つ第二世代型アーマーナイツ、メタトロンと小型戦車が視界に飛び込んでくる。
そこいらに整備用機材が並んでおり、いきなりSF世界へやってきたのかと錯覚してしまいそうだ。
ちなみにタナトスは死霊樹の呪いを装甲に受けたせいで、本格的な分解整備が必要らしく、現在魔軍に修理依頼をしているそうだ。
「敵に修理依頼するってのもおかしな話なんだがな……」
そうぼやきながらルナリアはいないのだろうかと彼女の姿を探すが、中に人の姿は見えない。
しかし小型戦車の下からバチバチと火花が飛んでいるのが見える。
戦車の下を覗き込むと、寝板に寝転がったルナリアが鉄のマスクを被り、ガスバーナーみたいな機材で火花を飛び散らせていた。
彼女はこちらに気づいている様子がなく、戦車のメンテナンスに夢中だ。
相変わらずスカートのままM字開脚している為、縞パンがよく見える。
俺が手をあわせてへへっありがてぇなと温かい気持ちになっていると、バチバチ音がやみ寝板が戦車下から飛び出してきた。
「ふぅ……やっぱり機材が足りな……何してんですか?」
「拝んでます」
「見たらわかりますよ。何を拝んでるんですか」
「パン――」
言い切る前に彼女は懐から拳銃を取り出して発砲した。
間一髪弾丸は俺の真上を通り過ぎた。
「嘘でしょ」
「やめてくださいよ、ここ新築なんですから」
「俺が悪いんですか?」
「あなた以外誰か悪い人がいるんですか? ちょうどいいです、機材が全然足りなくてメンテが捗りません。用意してほしいモノがたくさんあります」
「ルナリアさん、ウチ……貧乏なんですよ」
「知ってます。ディーさんからここの総資金を聞いて、よくやってるなと感心してますよ。あなた絶対あの人に逆らっちゃダメですよ」
「知ってます。ディーが白と言えば黒いものも白で塗りつぶす所存です」
「いい心がけです。零細のくせに、なぜか一流の戦士たちが集まってる不思議なチャリオットですよね。普通これだけ待遇悪かったら独立しますよ。ここにいる人達ほとんど自分だけでやっていける人ばかりですから」
確かにオリオンとソフィー、あと銀河辺りを除けばみんなどこいっても通用しそうだ。
「定期給も払ってないみたいですし」
「はい」
「完全に戦士たちに甘えてますよ? 三日もしないうちに辞めますって言われても文句言えません」
「はい」
「対価も支払わず戦士たちを酷使して申し訳ないと思わないんですか?」
「はい、すみません」
まずい、この人ディーやフレイアとは別のベクトルで俺を責める人だ。
「あの、言い訳するわけではないのですが、食事は当然タダですし、裏山から湧き出た温泉も24時間入り放題、武器や防具などは素材さえあれば一流のドワーフが造ってくれます」
「既にドワーフさんに頼ってることに気づいてください。福利はまぁ最低限ってところですかね。ここの空気はなんというか大家族を見ているような気分になります。それくらい仲が良くて、損得勘定で動いてる人の方が少ないです。これはこれで勉強になります」
「そうですか?」
「ええ、非常に稀有なパターンなのでよそで役に立つかはわかりませんが。ぶっちゃけこれだけ強い人たちをコントロールするって至難の技です。よっぽどのカリスマや強権、報酬を用意しない限りは不可能と言ってもいいです。それをいい人しか取り柄がないあなたが……」
「ルナリアさん、さっきから言葉のナイフが凄いです」
「ここにいる人たちは皆あなたに甘そうなので、少しくらい引き締める人がいた方がいいと思います」
【というのは建前で、本当は王と話ができてマスターは喜んでますよ】
機械音声が響くと、ルナリアは持っていたスパナをメタトロンに向けてぶん投げた。
「黙って下さい!」
【実はさっき戦車の下にもぐっていたのも王が来るとわかっていたので】
「黙れぇぇぇ!!」
ルナリアは奇声をあげてメタトロンにドライバーやハンマーをぶん投げた。
「おやおやぁ? もしかして俺に見せるために戦車の下でM字開脚して待ってたわけですかぁ?」
ゲスな笑みを浮かべながらルナリアに近づくと、彼女は顔を赤くしながら拳を震わせる。
「……だって……しょうがない……じゃないですか。私……他の人と比べて魅力……ないし。頑張らないと」
なにこの可愛い生き物。
この人……本気でモテたことないんだな。
いや、絶対ラインハルト城下町の広場で暇そうに立たせておけば、男どもが群がってくるはずだが。
「こんな機械ばっかりいじってる女なんて……」
「俺は良いと思いますよ。自分が好きなものを持ってる人って、魅力的だと思います」
「……そう……ですか。ありがとうございます」
ルナリアのコウモリ羽がパタパタと揺れ、二人の視線が自然と絡みあう。
「スンスン、ねぇソフィーここからラブコメの匂いがするよ」
「それはいけません、ただちに消毒しないと」
「あ、あのお館様にご迷惑が」
まずい、ラブコメ警察に居場所を嗅ぎつけられた。
異世界城主、奮闘中!~ガチャ姫率いて、目指すは最強の軍勢~12月29日に発売予定です。よろしくお願いします。
少し煩わしいかもしれませんが、発売まで一か月を切りましたので、宣伝させてください。




