トライデントの朝は騒がしい
監獄から帰って来て数日後の朝――
眩い日差しが窓から漏れ、チチチと小鳥がさえずる音と共に俺は目を覚ました。
さして柔らかくないベッドから身を起こそうとすると、全身にのしかかる重みに顔をしかめる。
「重いんじゃお前ら!」
ずっしりとした重みを振り払うと、俺の上に乗っかったまま寝ていたオリオンとソフィーがボタボタと床に転がる。
相変わらずその程度で起きるほど軟ではないらしく、二人はもう食べられないよとシンクロした寝言をほざく。
清めのケツバットで起こしてやろうかと思ったが、起きたら起きたでうるさいので放置することに決める。
朝の澄んだ空気を感じながら城の中庭にある井戸で顔を洗い、寝ぼけた頭を覚醒させると、改めて城に帰って来たんだなと実感がわいてきた。
「青い空に白い雲、小鳥は囀りエーリカは空を飛ぶ……平和っていいな」
キーンシュゴゴゴゴっとジェットエンジンを吹かしながら朝からエーリカが空を飛んでいる。多分何かテストしてんだろ。
ウチの日常って感じだ。でもエンジン音がうるせぇから朝にやるなってクレームだけ出しておこう。
この前日、ヘックス無力化を依頼してきたアルタイルと会って、成果報告をしていた。
聖十字騎士団の主要施設であるヘックスごと木端微塵にしてきたと伝えると、奴は二枚目の顔をほんの少しだけ曇らせ「木端微塵?…………そうか、ご苦労だった」とこちらを労った。
他にも何か言いたげにしていたが、のどの奥に押し込んだ感じで、それ以上は何も言わなかった。
俺は起源聖霊と魔軍、異常増殖する死霊樹のことを話すと、アルタイルは「合わせて調査しておく」と答え、かなりの大金を差し出した。
なんだこれ? と聞くと「わずかだが報酬だ、受け取っておくといい」と言われたので、貰えるものは貰っておくことにした。
今後の動向については追って連絡があるらしく、しばらくは大人しくしていろと釘をさされたので、現在領地で体を休めている。
顔を洗った後、続々と起きてくるトライデントメンバーたちと共に食堂へと入る。
中は既にキャイキャイとやかましく、風呂敷猫が目玉焼きとトーストが乗った皿を持って走り回り、寝ぼけた兎軍団は半裸で徘徊している。
メイド服の銀河と、皆の母クロエが慌ただしく食事を並べていると、頭ボッサボサなオリオンとソフィーが起きて来たので、俺は二人を洗面所に連れて行って歯磨きをさせる。
「ほら顔洗って」
「「ブクブクブク…………」」
こ、こいつら桶の水に顔をつけたまま寝てやがる。
顔を洗って覚醒した二人と食堂に戻ると、全員が席につき俺たちを待っていた。
オリオンとソフィーが俺の両隣に座り、朝食に手を合わせる。
「「「「いただきます!」」」」
テーブルに並んだきつね色のトースト、目玉焼き、キノコのスープ、瑞々しい緑野菜のサラダに手をつける。
随分と食事も豪華になってきたもんだ。
「咲、黄身ちょうだい」
「それはわたしのですよ?」
「やるなんて一言も言ってねぇ。黄身なくなったら白身しかねぇじゃねぇか」
「……食べる?」
対面のサクヤからすっと目玉焼きが回って来たが、オリオンがそれをインターセプトして奪い取った。
「やったー貰いー」
「ズルいです、それわたしのです!」
「なんでもかんでも自分の物にするんじゃねぇ!」
「あっ! あたしの目玉焼きがない!」
「お前のはサクヤに返した」
「ふざけんな、悪魔かよ!?」
「悪魔ならそっちにいらっしゃるだろう」
いい人すぎる白衣の悪魔、ルナリアはコウモリ羽をピクリと反応させる。
「ここ、騒がしいですね……」
「うるさいのが苦手だったら自室でとってもらってもいいですよ。いつもこんな感じですから」
「いえ、別に嫌いじゃないですよ」
「咲はなんかルナルナに甘い気がするよね」
「わたしも甘やかして下さい!」
「お前らはこれ以上ないくらい甘やかしてるだろうが!」
朝の慌ただしい時間がすぎ、皆が食堂を出ていく。
まだ監獄から帰って来て体力が戻ってないので、今日は休日扱いだ。
二度寝するものもいれば、鍛錬するものや、遊びに出るものもいる。俺もどうしようかと思いながら一度城の外に出ることにした。
「しかし……人が……増えたな……」
久しぶりの我が領地を見て思う。
俺が監獄に囚われている間も着実に領民は増え続け、干からびたジャガイモのような領地には小さな風車や畑などの農業施設や民家がいくつも増えていた。
とは言ってもラインハルト城下町と比べるとまだまだスケールは小さく、城下町というより城下村という感じだ。
もう少しこう起爆剤的な何かがあれば、一気に領民が増えそうなものなのだが。
まぁでも、こんな資源の乏しいところに人が住んでくれてるだけでもありがたいものだ。
そんなことを思っていると、俺の脇を学生服姿の少年少女が通り過ぎる。
「校長先生、たまには授業やってくれよ!」
「そうですよ梶さん、僕らも授業楽しみにしてますから」
「「ジャスティス!!」」
「ジャスティスはやめろジャスティスは。また今度な」
両手をクロスさせて俺の脇を通り過ぎていくヴィクトリアとマルコ。貴族の子息である彼らはウチに出来た冒険者学園へと吸い込まれていく。
「あれ、そういやあいつら馬車通学じゃなくなったのか?」
二人がやって来た先を見ると、学舎の隣に寮らしきものが出来ており、そこからワラワラと制服姿の学生が登校している。
「……あんな寮なかったよな?」
はて? と首をかしげていると、筋肉質なお姉系の男が俺の尻をバンっと叩く。
「あら、王様やっと帰って来たと思ったら冴えない顔してるわね! 今晩ウチのお店に来てちょうだい。パーッとやりましょ! 新しい女の子も入ったわよ。なんならつまみ食いしちゃう?」
「ははっ、見つかったら俺の血でワインを作ることになるんで」
「そう? お酒だけでも飲みに来てちょうだいね、みんな喜ぶわ!」
そう言って腰をくねらせながら酒場フェアリーエンジェルに入っていく青ヒゲのリカール。
あの人もキャラがブレねぇな。ソフィーと二人でバイトしてた時代が懐かしい。
しかしふと気になったのは、酒場の傷み具合である。窓にヒビ割れがはいっていたり、壁が打ち付けた板で補修されていたりとボロさが目立っている。
毎晩繁盛してるように見えるのだが、もしかしたら意外と儲けが出てないのかもしれない。
「人が来ないところに酒場だしてるわけだからな……きっと客は常連ばかりだろう」
リカールが去った後、次にやって来たのは爆乳軍団ではなくホルスタウロス軍団。
ミノタウロス種のメスである彼女達は、牛頭マッチョな雄とは違い見た目は通常女性とほとんど差異はなく、頭に小さなツノが二本と異常なまでに大きな胸をした亜人種である。
カウベルを首につけた爆乳のホルスタウロスが集団で歩いてくるのは圧巻としか言いようがない。
その集団の先頭にソフィーが立って、彼女らのお散歩を行っているようだ。
「モーモー」
「モー」
「はいみなさーん、じゃあ次はこの辺りをぐるっと回って行きましょうか」
「モー?」
ホルスタウロスの体はもう凄いとしか言いようがないが、わりかし知能は低めで性格も比較的温厚である。
本当はリーダーの命令しかきかないのだが、いろいろ世話をしているうちにソフィーやオリオン達のことを食事を持ってきたり掃除したりしてくれる、飼育員的な認識をしているらしく、彼女達の言うことは素直に聞く。
「ソフィーの奴、集団を率いているのが嬉しいのかニコニコ顔だな」
そう思っていると、ホルスタウロスの一体が俺に気づき「モー」と鳴き声を上げる。
するとドタドタと足音をたてて全員が俺の方へと突撃してくる。
「皆待って行かないで! わたしの言うこと聞いてください! 行かないで、お願い!」
ソフィーの必死の制止を無視して、ホルスタウロスはラグビー選手もかくやという鋭いタックルで俺のもとへ駆けてくる。
先頭のホルスタウロスが俺の腰に抱き付き、こちらの体勢を崩すと取り囲んだ残りがむぎゅむぎゅと胸を押し付けてくる。
これが彼女達の求愛行動らしく、長らく留守にしていたせいで、ここ数日は見つかり次第押し倒されている。
「ぐぉぉぉ助けてくれーー!」
肉に塗れすぎてわけがわからん。
いたるところをかじられたり舐められたりした俺は命からがら脱出する。
ソフィーがなんとか近くの牧場まで連れて行ってくれたようで、難を逃れた。
「乳に埋もれて死ぬとか、俺が死ぬときにやってほしい」
「何を言ってるんですかあなたは」
圧死の危機を逃れた俺に、呆れたため息を吐くのは我がブレインのディー。
「王よ、ホルスタウロスの求愛は見た目の刺激が強いですので、牧舎内でして下さい」
「していいのかよ」
「当然です。ホルスタウロスのミルクは一番の売れ筋ですので、ストレスで出が悪くなる方が問題です」
「俺はどうなってもいいのか」
「喜んでいたでしょう?」
「ぐぅの音もでんな。あのさ、気のせいかウチめっちゃ施設増えてない?」
「はい、留守の間セバスやロベルトたちに管理してもらい領地の整地、拡充をしていただいていました」
「ウチに元からあったのって、温泉、酒場、娼館、学舎、あとホルスタウロスの牧舎とイカちゃんのプールくらいじゃなかったか?」
「はい、ファラオから頂いた金塊等を施設拡充費に充て、新たに学園の寮舎、ホルスタウロス野外牧場、カチャノフの鍛冶工房、マツタケのキノコ農園が完成。現在ルナ……ウラヌスの要望によりアーマーナイツを格納する整備ラボを建設中です」
ディーの指さす方を見ると、魔軍の小型戦車が何食わぬ顔でウチの領地に入ってきて、資材の搬入を行っている。
「なんで、魔軍が当たり前みたいにウチに来てるんだよ……。一応あれ敵だぞ」
迷彩柄のミリタリー服を着た女性悪魔が、ごくごく普通に謎の機械を格納庫らしき場所に運び込んでいる。
「じゃああっちに見えるちっさいスフィンクスみたいなのはなんだ?」
「ナハルたちが造った自動防衛設備だそうです」
「ほぉ? そりゃ凄い」
「謎かけをして、謎を解けなかったものを一兆度の炎で焼き払うらしいです」
宇宙怪獣かよ。
「大丈夫なのかそれ? ミスって火吐いたらこのへん焼け野原じゃすまないよ?」
「大丈夫です」
「ほんとに?」
「大丈夫です」
ディーが根拠なく大丈夫という時は大体ダメな奴である。
不審者が謎かけに答えてるところを見ると、頼むから正解してくれと冷や冷やするだろう。
人間が溶解するシーンなんかトラウマすぎる。
「それと王よ、後ほど嫌な話をします」
「なんだ、その恐ろしい前振りは」
「お金の話です」
「聞きとーない!」
「ダメ王みたいなことを言わないで下さい。領民やチャリオットメンバーたちから様々な意見や悩みが上がってますので、それら含めて解決していきましょう」
「あいつらに悩みなんてあるのか?」
「皆年頃の少女ですから。……”私含め”」
「…………」
私含めは、ディーの軽いボケだったようだが、俺が無言でディーを見つめると、彼女は恥ずかしそうに咳払いする。
「い、言ってみただけです。あまりイジメないで下さい……」
攻められると途端に可愛くなるのがディーである。
「と、とにかく王は彼女達の悩みを聞いてあげてください」
悩みかぁと考え、たまにはそう言った個人的な話をしてみるのもいいだろう。
俺は宰相ディーと別れて、増えた施設を見学しながら話でもしようと領地内を見回ることにした。
amazonさんでも、書籍の予約が始まりました。٩( 'ω' )و
なんと350P越えの大ボリューム。
アニメショップさんだと特典SSカード(?)みたいなものがつくかもしれません(まだ決まってない。でも多分つくらしい)
そちらが欲しい方はもう少し様子見をした方がいいかもしれません。
オマケなんぞいらんというストイックな方は、amazonさんをご利用していただければと思います。
特典に関しましては決まり次第アナウンスしたいと思います。
良い話ばかりしたかったのですが、なろうさんで継続して閲覧されている方は最新の近況報告を見ていただければ助かります。
現在ガチャ姫はエッチすぎてダメと運営さんからお叱りを受けていますので、そちらの対応含めて記載していますのでご確認ください。




