48 決戦の火蓋
神様から書いた文字が具現化するルーンマスターの能力を授かった主人公リュウセイは、転生した異世界で宰相の娘エリスを助けた。
しかし裏で彼女を憎んでいた婚約者ナグム=サハムの罠により、政府軍に追われる身となってしまう。
なんとかサハムとの直接対決に持ち込んだリュウセイ。そこにエリスの父バハロフも現れ、物語は佳境へと突入する――
「さ、宰相殿っ!? どうしてここに!?」
「なんだい、俺がどこに居たっていいだろう」
「ひいっ!?」
宰相バハロフは、にこやかな笑みを浮かべている。彼が1歩踏み出すと、サハムは3歩後ずさった。だが、このままではマズイと考えたのか、丁寧な口調でこう聞いた。
「宰相殿、政府軍と戦う乱暴者に襲われ、お命を落としたと伺いましたが……」
「ああ、それは影武者さ」
そう。16人に分裂した俺のうち、ひとりを変身させて影武者にして、同行させたのだ。
「なんだそれは!? じゃあ、いま政府軍を相手に戦っているのは誰なんだ!? 逆賊じゃないのか!?」
「俺の友達だよ。モモタロウって言うんだ」
「モモタロウ!? まさか、いつぞやの赤子が育ったのか!?」
エリスが、すっとんきょうな声を上げる。俺は死んだ分身が、最後に見聞きした光景を思い出していた。
――やあやあ、我こそはグラウカの子『モモタロウ』。この街に鬼の住み家があると聞いて参上した!
――なんだ、こいつ!? ルーン魔法が効かないぞ、神話クラスの加護を得ているとでも言うのか!?
……まあ、こんなこと説明しても理解されないよね。事情を知っているエリスでさえ、ポカンとしているし。
「それより、お父さん。殺しの犯人はキッチリ見たんですよね?」
俺が訊ねると、バハロフは深くうなずいた。
「見た。けど、フードを被っていたから……顔はハッキリ見えなかったなぁ」
「なんすか、それ!? 俺の殺され損じゃないですか!」
「まあまあ、焦るな青年。なあ白虎の、今の話どう思う?」
バハロフが話を振ると、ギルドマスターはびくんっと体をこわばらせた。そして、やにわにその場に膝をつくと、両手を揃えて土下座した。
「頼む、バハロフ。なにも見なかったと言ってくれ! ワシの身内に悪人はおらん。サハムには、よく言って聞かせる。だから……」
「おいおい、土下座なんてされたら俺が困る。顔を上げてくれよ」
「バハロフ! わかってくれた……があッ!?」
次の瞬間、立ち上がったジイさんの顔に、体重の乗ったパンチがめり込んだ。バハロフは歯を食いしばり、全力で右ストレートを叩きこんでいた。
ジイさんの鼻血が、空中に弧を描いた。重そうな筋肉質のダルマ体型が、ゴムボールのように転がっていくのを、俺たちはポカンと眺めていた。
「立てよ、ダチ公」
バハロフは、心底悲しそうに告げる。
「いつかハッキリさせなきゃならないと思っていた。なんで奴隷反対派の俺と付き合っているのに、身内が奴隷を売り買いしているのを止めないのかってな。それでも、いつか正しい決断をしてくれると信じていたのに!」
「おじ上……」
「お父様!」
「止めるな、お前たち!」
割って入ろうとした俺たちを、壮年の男の渋い声が押し留めた。
「これは俺とダチ公の問題だ。青年、悪いが若造の相手はキミがしろ!」
「ひえっ!?」
「立てよ、ダチ公! 徹底的に殴り合おうぜ!」
殺気のこもった視線に射抜かれ、サハムが情けない声を上げた。
一方のギルドマスターも、鼻血を拭って立ち上がり、拳を構えた。
「そうだな、バハロフ。会議と接待で腕が落ちていないことを願うぞ」
「お、おじ上。助けてください……」
「バカ者! 自分のケツは自分で拭け!」
ギルドマスターに一喝され、サハムは亀のように首をすくめた。
ちょうどそのときだ、分裂した俺13号から連絡が届いたのは。
『おーい。あの連中、見つけたぞー。いま、みんなで水攻めにしてる』
「見つかったか。お疲れさん、ゆっくり確実に連行してきてくれ」
「これリュウセイ、ひとりで完結するな。見つかったとは、なんのことじゃ?」
エリスがたたんだ扇で、コツンと俺の頭を打った。
俺が探していたのは、最初にエリスを助けたとき、彼女を襲った連中である。街の外は治安が悪いとは言え、それなりに人の行き来がある街道で、宰相の娘をピンポイントに野盗どもが狙った。
「最初から、サハムが仕組んでいたんだ。そうだろう?」
「そ、そんな連中の言うこと、デタラメに決まっている! 僕はなにもしていない!」
「それは、連中を尋問すれば分かることさ。さて、優男さんよ――」
俺は、初めてこの世界に来たときのことを思い出しながら、ビシッと指を突き付けた。
「辞世の句は準備できたかい?」
「くっ、この……誰か! 誰かいないか!?」
「ご安心ください、ナグム=サハム様。私めがおりますゆえ」
不意に、凄みのある声が聞こえてきた。竜が壊した壁の外に、いつの間にか髪を短く刈り込んだ、三白眼の男が浮かんでいた。
「ファナティカ! 魔法連盟きっての戦士であるお前ならば、逆賊どもを殺せるだろう。やれっ、殺せっ!」
「承知しました。……どぉれ、お手並み拝見といこうか」
つぶやくなり、三白眼の男は剣と杖を構えて、急接近してきた!




