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9 第12回神様通信


「カナエ、表に看板を出しておくれ」

「はいっ」

 元気よく返事をしてからオープン看板をドアの外側に引っかける。


「今日もよろしく頼むよ」

「任せて下さい」

 笑みを浮かべて頷くと店内の掃除を再開する。


デボン武具店で働き出して早いもので2か月が経つ。

店番の仕事にも慣れ、当初の目的の冒険者の知り合いも増えて生活は順調だ。


「よう、カナエちゃん」

「いらっしゃい、ラルフさん」

 姿を現したのはこの店で初めて会った冒険者のラルフ君だ。


「アックスの調子はいかがです?」

「おう、ばっちりよ。この前なんかフォレストウルフを一撃で倒したんだぜ」

 得意げに胸を張ってみせるラルフ君に、何を言ってるんだいとドーラさんが混ぜっ返す。


「斧は格好悪いから嫌だと駄々を捏ねていたくせにさ」

「そ、それを言うなよっ」

 顔を赤くしてラルフ君が言い返す。


その姿を見ながらあの時のことを思い返す。



「ナイフ代を払いたいんですが」

 必死になって剣を選んでるラルフ君の横でそう声をかけると慌てた様子でドーラさんが此方を向く。


「ああ、ごめんよ。放っておいて」

 そう言うドーラさんに緩く首を振ってから代金の10エルンをカウンターに置く。


「それとお節介かもしれませんけど…そちらの人が持つなら剣よりアックス系の方が良いんじゃないかと」

「へ?」

 キョトンとするラルフ君のと同じような顔をしたドーラさんだったが、次には確かにと大きく頷く。


「力は強いし振り回すしか能のない子だからね。ピッタリだよ」

「ちょっ、待てよっ」

 焦った様子でラルフ君が口を挟む。


「俺は最強の剣士を目指してんだっ。それにアックスなんて…かっこ悪いじゃないかっ」

「馬鹿野郎っ!」

 ラルフ君の言葉が終わらぬうちにガルドさんから大音響の雷が落ちた。


「恰好付の為に冒険者をやってんならさっさと辞めちまえっ。そんな奴に使われちゃあ剣が哀れだっ」

「まあ、そう怒りなさんな」

 叱られた子供のようにシュンとなるラルフ君と怒りも露わなガルドさんの間にドーラさんが入って行く。


「けどその子の話も尤もだ。試しに手にしてみちゃどうだい?」

 ドーラさんの言葉に渋々といった様子だがラルフ君が頷く。


「試しなら…」

「だっだら、そうさね」

 言いながらドーラさんが店の奥から年季の入った戦闘斧(バトルアックス)を持ってきた。


「この前、下取りに出された奴だが物はいいよ」

 差し出された斧を手にするとラルフ君は軽く振ってみる。


「おおっ!」

 するとすぐに驚いた声を上げて真剣に振り出した。


「何かスゲー手にしっくりくるぜ」

 まるでオモチャを手にした子供のように嬉々として斧を振る姿に、ガンズさんとドーラさんが呆れを含んだ苦笑を向ける。


その後、獲物を剣からアックスに変えたラルフ君の活躍は目覚ましかった。

お荷物とまで言われていたのが噓のように頭角を現し、今ではそこそこ名の知れたパーティーの前衛を任されるまでになった。


こっそりかけた鑑定で彼に『斧術』のスキルがあることが分かった。


そもそもスキルには修練の末に身に付くものと先天的に持っているものがある。

彼の場合は後者だったようで、そういったスキルは覚醒しないとステータスカードにも表れないため本人が知らないままでいることが多いそうだ。


私の鑑定は覚醒前のスキルも読み取ることが出来るので助言したのだが、こんなに早く結果が出たことには驚いている。


彼に助言したことが広まると、武器のことだけでなく私的なことまで私に相談に来る冒険者が増えた。

鑑定結果を元にそれらしいことを言うと感謝されることが多く、知り合いも増えて行った。

おかげでこの世界の調査も着々と進んでいる。


冒険者の人達から最初に教えられたのはダンジョンのこと。


街からそう遠くない場所に東と西と呼ばれる2つのダンジョンがある。


そもそもダンジョンとは巨大な魔物の一つだと考えられている。

自らの内に他者を誘き寄せ、中で死んだ者を栄養にして成長するのだ。

つまり其処の宝箱から出る武器や魔道具が逸品揃いなのは冒険者を誘うための餌だからだ。


しかもダンジョンコアから生まれる魔物は自然発生する魔物と違い、その強さは5割増しで知能も高く油断がならない。

けれどその分ドロップされる品の価値は高く、故に一攫千金を夢見る冒険者はこぞってダンジョンへと向かうのだ。


そしてダンジョン内での揉め事にギルドは一切関知しない。

ドロップ品を横取りされようが、それで殺されてもすべては自己責任というわけだ。


しかし例外として『(なす)り付け』という追ってきた魔物を他の冒険者の下に行かせる行為は厳禁とされ厳罰に処される。


何故ならそうなった魔物に刺激された他の魔物が暴走しスタンピードとなってダンジョンから溢れ出てしまう可能性があるからだ。


獲物の配分もパーティーによって多少異なるが、大抵はリーダー、前衛、後衛の順で貰う金額が多い。

パーティーの方針を決めるリーダーはそれだけ責任が重いのと前衛は常に死の危険があるからだそうだ。


他に興味深かったのは神様に対しての概念だ。

命がけの仕事だからか冒険者はけっこう信心深く、その手の話題も豊富だった。


この世界には12柱の神様が信仰されている。


まず創造神で主神である『源神』

それから『陽光』『闇』『火』『水』『風』『土』といった自然由来の神と『武闘』『魔法』『商売』『工芸』『農業』の神たち。


地球と違い、この世界では神がとても身近な存在として認知されている。

例えば『神託』だ。

神官の中には神の言葉を聞くことが出来る者が多く、それによって国が動くこともある。

逆に稀にだが神殿で祈る民の声を神が聞き届けてくれることもあるという。 


それを聞いてマメにあちこちの神殿に行ってはクソ邪神のことをチクることにした。

12柱の中にそれらしい神は見当たらないが、神と名乗っている以上まったく無関係ではないだろう。


私の祈りが聞き届けられる可能性は途轍もなく低いが、何もしないよりはマシだ。


私が此処でしたいことはただ一つ。

あの邪神が悔しがるくらい幸せになって長生きすることだ。

その為に日々を懸命に生きている。


けれどそれが不可能になる日が来た。


私が…死んだのだ。




「ハーイ、神様通信の時間だよー」

 いつものようにへらへらと笑いながらクソ邪神が現れる。


「それでは今週の結果発表ーっ」

 『ヒュードンドン、パフパフ』という効果音付きで画面に『8/28』という数字が表れる。


「この1か月は死んだお仲間はいなかったんだけど今日1名の死が確定しました。悲しいね~っ」

 珍しくつまらなそうにそう言うと邪神はわざとらしい咳払いの後で画面を指さした。


「今日はまず『今週の優秀者は誰だコーナー』から始めよう」

 指を鳴らすとお馴染みの3人の顔が映し出される。


「現在のトップ、エルデ君だけど…ここでビッグニュースっ。何と彼、結婚しましたぁ!」

 その言葉が終わらぬうちに画面が竜人の男と魔族らしき美女の顔に変わる。


「お相手は魔の森にある魔族集落に住むグ族のリンさん。彼らのなれそめだけど…これがまた傑作なんだ」

 実に愉快そうな邪神の話によると。


不用意に集落に近付いて敵認定されて戦闘になったが、竜人でそれなりに強くなっていたので向かってくる魔族たちを倒しまくっていたら全身を赤い鎧で包んだ集落最強戦士が出て来た。

どちらも強者で、なかなかいい勝負をしていて見物のし甲斐があったそうだ。


「で、最後にエルデ君の剣が相手の兜を弾き飛ばして決着ってことになんたんだけど。兜の下から現れたのは魔族の美人。その後の2人の会話が小説みたいでね。


『お、女!?』って驚いてみせるエルデ君にリンさんが言い返すんだ。

『くっ、殺せっ』って。


いやー、生の『くっ殺』が聞けるとは観察者冥利に尽きるね。魔族には勝者が敗者の命運を決めるって掟があってね。殺さないなら嫁にしろってなって結婚が決まったんだ。おめでとうお2人さん」

 パチパチと手を叩くと、でもと邪神は意味ありげな笑みを浮かべて言葉を継ぐ。


「竜人もそうだけど魔族も(つがい)への執着が物凄いからね…特にリンさんは勝気だし独占欲が凄まじいみたいだよ。他の女と話をしただけでも後ろから刺される危険があるから気を付けた方がいい。そう言えば彼の望みはこの世界でハーレムを作ることだったけど…諦めた方がいいよ。命が惜しかったらね」

 言い終わるなり笑い転げる邪神。


ハーレムの夢と引き換えに得たのが相手を殺すことも厭わぬメンヘラ嫁。

彼の前途はなかなかに多難そうだ。


しかしいつまで笑っているんだ、邪神。

人が不幸になることがそんなに楽しいのかっ…相変わらずのクソっぷりだ。


「そうそう、この映像はエルデ君のスマホには送られてないから安心して。自分の事が他者に知られてるって分かったら恥ずかしいだろうから」

 そう思うなら止めてやれっと罵倒したのは私だけではないはずだ。


「2位のリシュアン君も別の意味で見ていて楽しいんだよね。近道だと思って獣道を通ったら魔物と鉢合わせして死にかけるとか。道があるってことはそこを通行する魔物がいるってことに普通は気付くよねぇ」

 小馬鹿にしたようにブフフっと笑うと、他にもと例をあげて行く。


「ホブゴブリンの集団を水際に追い詰めて殲滅魔法を放とうとしたら、それが川ゴブリンで簡単に泳いで逃げられて打ち損ねた魔法が暴発しそうになったりとかさ。鑑定を取っていたら川ゴブリンだって気付けたのにね。ほんと彼とエルデ君は僕を楽しませてくれるツートップだよ」

 このことは彼のスマホにも送ってないから安心してと言い放つとパチンと指を鳴らして画面を変える。


「3位のアレクセイ君はついに魔の森にいた5人目のお仲間と出会えたね。彼と行動を共にしている人族のミオリちゃんだっけ、彼女のギフト『直感のペンダント』が冴えわたっていて危険なことや重要なことを教えてくれるからさ。でも纏まって行動するのは観察が楽でいいけど…詰まんないんだよね」

 ふうっと邪神から大きなため息が零れる。


「彼ら協力して魔物を倒したり、休憩用の仮家をDIYしたりとかさぁ。地味なことしかしないんだもん」

 困ったものだとばかりに肩を竦めるが、でもと気を取り直したように笑顔になって言葉を継ぐ。


「ま、それもすぐに終わるだろう。今は共通の『森を出る』って目標があるから協力し合ってるけど、それが達成されたらすぐに仲間割れが始まるだろうし。みんな自分が一番かわいいからね」

 その時が見ものだよと邪神が嫌らしく笑う。


「はい、それでは最後に死亡したお仲間について話そうか」

 指を鳴らして画面を変えるが、そこには何もない。

ただ白い面があるだけだ。


「このお仲間は名前も顔も分からないんだ。初めに僕が送ったスマホを受け取り損ねたみたいでね。しかも今まで待ってみたけどこの世界に来た痕跡が全く無いんだ。で、仕方ないから死亡判定を下した訳さ」

 しばし考え込んでから、いやと邪神は顔を上げた。


「最初からこの世界に来てなかったのかも。スキルとギフトの設定の時に一番最後まで残ってたどんくさい子だったから転送に間に合わなくて次元の狭間に落っこちたんだろうね」

 やれやれとばかりに首を振ると邪神は、でも大丈夫と笑みを浮かべた。


「此処で死んだのと同じで存在を無くした魂は元の世界の輪廻に強制的に戻されるから、今頃は最初の3人と同じように再誕を待っているよ。再誕が百年後か千年後かは分からないけどね」

 ケラケラと笑うと、それじゃあと邪神はお決まりのセリフを口にする。


「次は誰がトップかな。そして何人生き残っているか実に楽しみだよ。それじゃあ、また来週~っ」

 満面の笑みで手を振る姿が消えるが、私は茫然と黒くなった画面を見続けていた。


「…ふざけんな!クソがっ」

 叫ぶなり近くにあったコップを掴んだが…辛うじて投げるのを(とど)まった。

同じことを繰り返すほど馬鹿ではない。


そのまま大きく深呼吸して自分を落ち着かせる。


出来るならあの邪神を一発…いや百発くらい力一杯殴りたいところだが、だだの人族の小娘ではそれは夢のまた夢。

なのでクソ邪神を悔しがらせるくらいなら出来るかと今日まで頑張ってきたが…。

それも出来なくなった。

あの邪神の勝手な死亡判定によって。


今の私はもう邪神の中では存在しない者だ。

死のうが不幸になろうが、逆に幸せになろうが気にも留めないだろう。

それがメチャクチャ悔しい。


「いいだろう、だったら他の方法で一矢報いてやる。絶対にっ!」

 そう決意して…今日はもう風呂に入って寝ようと踵を返した。



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― 新着の感想 ―
[一言] 設定は女性だけど、それ以外はまんま男だよなぁ。 そもそも、この邪神にそんなにこだわる意味あるか?? ストーリーに必要なのはわかるけど、理由付けが全く受け入れられない。
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