第二十八話
「話もここらへんでいいだろう。狩りにおいて会話など不要だからな」
直感的に来ると感じとり、翔は一歩足を下げる。
そして予想通りイスピナードは向かってきた。
「『能力創造』、風を出す能力!」
その言葉で暴風がイスピナードにぶつかるが、物ともせず少しだけ速度が遅くなったぐらいであった。
「くそっ!」
やはりと言うべきか、イスピナードは表情一つ変えることはなく眼前に迫る。
「ふんっ!」
小細工はない、先ほどと同じようにイスピナードの右手が伸びてくる。
それは単純であるがゆえに強力であった。
「間に合わな……ぐはっ!」
能力を発動するまもなく、左腕で防ぎにいくがまたも吹き飛ばされてしまう。
あまりにも重い一撃に腕で防ぐことは関係なかった。
「貴様の能力はそんなものではないだろう!」
隙を与えぬようイスピナードの拳が右と左と連打する。
「ぐっ! く、くそっ……!」
イスピナードの猛追に翔は必死に耐えるしかない。
どうにか目で追えるが一撃一撃が重く、そして殺意が込もっていた。
能力で上げた身体能力も役に立っているとは言えない。いや、もし上げていなかったら既に死んでいただろうが、意味をなしていないのは事実である。
(ど、どうにかするには能力を使わないといけないけど、中途半端な能力じゃあイスピナードには効かないし……。けど逆に命を奪うような能力は……)
「何を怯えている?」
その言葉に連打に耐えながらもピクリと眉が上がる。
「それは死ぬかもしれないという恐怖か? それとも命を奪う怖さか?」
「そ、ぐっ! それは……」
「傲慢だな。弱き者が命の重さを測るなど、まるで赤子だ」
「お、俺はただ……、あの子を助けたいだけだッ!」
イスピナードの猛追から無理やり翔は右手を振りかぶる。
しかし、イスピナードはいとも容易く左手で翔の拳を掴む。
「っつ!」
「それこそ傲慢の他あるまい。弱き者は強き者に食われる、それが摂理だ。自分の身を考えず他の者を救おうなど」
言葉を切るとグッとイスピナードの左手に力が入りボキっと音が鳴った。
「ぐっ、ああああぁぁ!」
「貴様の世界では自分の身よりも他者を救うのが普通なのか?」
痛みに叫ぶ翔を気にせずイスピナードは悠々と口を開いた。
「がっ……! あっ、て、手が……!」
落ち着いているイスピナードに対し翔は額から尋常ではない汗が流れる。
翔の視線の先の右手はイスピナードによって歪に形を変え、掌と呼べるものではなくなっていた。
「我の本能が間違っていたのか……、これで終わりか? 少女を助けるというのは言葉として放っただけなのか?」
痛みでおぼろげにしかイスピナードの声は聞こえない。
最強だと思っていた能力は役に立たず、イスピナードには効かないのか。
いや、違う。
イスピナードの言う通り怯えているからだ。他者を傷をつけてしまうのが怖く、無意識のうちに能力を制限していたんだ。どこかで何とかなると思っていたし、この世界に来た者は優しいと勘違いしていた。
けどそれぞれの世界で経験したことがある。少女を助けたいと願うのなら覚悟を決めろ。
「貴様の能力は面倒だからな。すまないが少し手荒にやらしてもらうぞ」
イスピナードの眼光が翔の喉に狙いを定め、空いている右手で突き刺しにいく。
「ぐっ! まだぁ!」
翔は叫びながら左手を強引に当て軌道を逸らす。
「!」
すんでのところでイスピナードの右手は翔の首をかすめ、そのまま翔は口を開く。
「『能力創造』ッ!」
その言葉で刺しにきていたイスピナードの右手が先ほど聞いた鈍い音とともに形を変えた。
「ぐあっ!」
それにイスピナードは初めて顔を歪ませ、掴んでいた翔の左手も離してしまった。
その隙に翔は両手を地面に力強くつけ、
「『能力創造』! 再構築する能力!」
すると地面が声に呼応しまるで生き物のようにイスピナードに襲いかかる。
「っつ!」
イスピナードの体は無数の突起物に飲み込まれ、勢いのまま木々を倒しながら吹き飛ばされた。
木々が薙ぎ倒される音と微かな煙が舞う中、翔はゆっくりと両手を地面から離し立ち上がる。
荒い呼吸を整える翔の右手は元に戻っており傷一つなくなっていた。
「はぁ……はぁ……」
分かっている、イスピナードがこれで倒れるはずもない。あれだけ頑丈な体に今の攻撃も効いているのかさえ不明だ。




