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第二十七話


「……なるほど」


 対してイスピナードは驚く表情は見せず冷静に口を開いた。


「我の一撃を受け止める力、それに見切れるほどの反射。……己の身体能力を向上させる能力を使用したか」


 翔は逆に驚きの表情を浮かべてしまった。


 まさかたった一回防いだだけで何の能力を使ったかが知られるなんて予想もしていなかった。


 だが一つだけ違っていることを挙げるならば、翔が使用した能力は身体能力を向上させる能力ではなく、イスピナードと同じ身体能力にする能力だ。単純な向上だけでは力負けしてしまう可能性があり、そうならないために選んだ。


 しかし、何故か翔の頬に汗が流れる。


「ぐっ……!」


「どうした、能力で身体能力を上げているのではないのか? 我の力が押しているぞ」


 翔の足が地面に擦りながら後ろに下がっていく。


「な、何でっ……」


 どうして力負けしてしまうのか、能力は確実に発動し、どういった能力なのかはちゃんとイメージしたはずだ。


「これではまた早期に決着がつきそうだな」


 今度は空いているイスピナードの左手が眼前に迫る。


「ちっ!」


 だが能力を発動しているため眼で追えることができ、距離をあけるよう地面を蹴りイスピナードから離れた。


 イスピナードも翔の動きは捉えており、背後に翔は回ったつもりだったが当然のようにこちらに向いていた。


「動きはなかなかだな。それに反応もいい。我のいた世界でもそこまで動ける者は少ない。だが問題は力だ。そのような力では我に傷をつけることはできないぞ」


 イスピナードに言われなくても翔自身分かっている。しかし何故力はうまく発動できなかったのか、原因は何なのか。


 と、考えた翔は一つの答えに辿り着いた。


「まさか……、俺のイメージに問題があったのか……」


 翔の能力は自分のイメージした能力を具現化するようなものである。そのため翔のイメージよりもイスピナードの力が優っているということだ。


「何を考えている? そんな余裕があるのか?」


 言い終わるとイスピナードは一瞬にして間合いをつめてきた。


「なっ!」


 眼前に右手の拳が迫り翔は慌てながら両腕で防ぐ。


「ぐっ!」


 だが勢いのまま翔は飛ばされ体勢を崩してしまった。


「さあ、どうする。我の攻撃に耐えれないぞ」


 崩れた体勢からどうにか顔を正面に向けると、また眼前にイスピナードがいた。それは狙った獲物を逃さないように一切の距離を開けない。


「くそっ!」


 これでは状況を変えるための思考が間に合わない。考えるための時間を作らないとこのままプレッシャーに押されてしまう。


「の、『能力創造』! 炎を出す能力っ!」


 放った言葉とともに翔の両手から炎が放出される。


「むっ」


 当然イスピナードの体は炎に包まれ動きが止まり、翔はその隙に距離をあける。


「また我のいた世界の理ではありえない事象だな」


 体が炎に包まれているのにも関わらず、イスピナードは悠々と口を開いた。


「だがこれしきでは我の体に傷はつけられん」


 するとイスピナードは埃でも払うかのように手で体をはたくと、包まれた炎は風と共に消え去った。


「ま、まじかよ……」


 大怪我を負わないにしろ少しは怯んでくれると思っていた。いや、そもそも火傷を負わない意味が分からない、それに簡単に振り払えることも。


 それだけイスピナードを覆っている毛皮は分厚く、振り払う力も並ではないということか。


「この世界に来て我は驚かされるばかりだな。今のもそうだが見たこともない事ばかりだ」


「見たこともないのに効かないのかよ……」


「それは我のいた世界が貴様のいた世界よりも厳しい環境だったからだろう」


「どういうことだよ?」


 翔は首を傾げた。


「我の世界は喰うか喰われるか、殺すか死ぬか、種を残すために生きていたからな。それに我の種族、イスピナードは生物の頂点に立っている。多少の攻撃は我には効かん」


「? イスピナードは名前じゃないのか?」


「我の世界に名前など存在せん。イスピナードも我ら種族を指しているにすぎん。この世界に来て名前を聞かれることが多いのでな、とりあえず言っているだけだ」


 翔が何度か感じていた動物的恐怖と殺気はそのせいなのかと納得した。


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