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第十五話


 案内を終えて翔は湯船で一息ついていた。


「ふぅー、今日は疲れた」


 翔は湯船に浸かりながら白い天井を眺める。


「この世界にも風呂はあるんだなー。まあライオネット達の世界にもあるってことだろうけど、やっぱり一日の疲れが癒される」


 街を案内してもらうだけでも歩き疲れ、疲労困憊の足を伸ばす。


 翔は改めて顔を正面に向け見渡すと、そこには翔のいた世界のような銭湯が広がっており一人で入るには些か広大でもある。

 ちゃんと鏡の目の前には桶と湯椅子、シャンプーやボディーソープらしきものあり、ここらへんは翔のい

た世界となんら変わりはなく不都合はない。


「それにしても、俺はこの異世界で何をすればいいんだろ」


 ふと、口に出てしまった。


 半日ほど街を歩きこの世界を見ていたが、何も不都合なことは無いように思えた。別に世界を救いたいとか、何かを経営したりとか、魔王になりたいとか特にしたいことがあるわけではない。前いた世界でもただ過ぎる日常を楽しんでいただけだ。


 しかしこの異世界に飛ばされて来た意義を求めてしまう。普通はありえない境遇にいるのだから何かを成したいと思うのは普通だろう。


「俺は、何がしたいんだろうな……」


 その一言で翔の脳裏に少女のことが浮かび上がった。


 唐突に、思案していた翔の耳に扉が開かれる音が聞こえた。


「!」


 首を扉の方へ向けるが湯けむりのため誰が入ってきたのか分からない。


「はぁー、疲れた疲れた」


 聞いたことのない少し低い女性の声に心臓がドクンと大きく鳴る。


 まさか自分が入っていることに気がついていないのか、確かに服は脱衣所に置いてきたはずである。このままでは鉢合わせになってしまい叫ばれて逃げられるか、最悪殴られる可能性すらある。


 だが逃げ道などあるわけもなく一人焦る翔を他所に水と足が重なる音が次第に近づいてくる。


 そして翔の目の前にその者は来てしまった。


「ん? 誰だ、お前?」


 翔より少し背は高く褐色肌の女性は黒翼と二本の角を携えていた。おまけに普通は白目のところが黒に染まっており瞳の黒い部分が赤く、どこか悪魔のようである。


 叫ぶことも殴りかかることも、恥ずかしがる素振りも一切見せずその女性は見下ろしながら言葉を放った。


 当然隠すこともしておらず立派に育っている身体に翔は思わず目をそらしてしまう。


「お、おおお俺は、その、この世界来たばっかで……」


「あー、ライオネットが言ってたカケルっていうのがお前か」


「そ、そうです」


「なるほどな」


 女性は答えながら湯船に入ってき翔の横に座った。その行動が理解できず恥ずかしさもあり翔は無意識に背を向けるようにゆっくりと動く。


「何やってんだ」


「え」


 当然、客観的に見れば不審な動きであり聞かれるのは当たり前だ。


「何でアタシから遠ざかるように動いてんだって聞いてんだ」


「いや、女性があまり裸を見せるものじゃないから……」


「なにライオネットと同じこと言ってんだ。別にアタシのいた世界じゃそんなもんは気にしねえからいいんだよ」


 本人が気にしなくても翔が気にしてしまう。翔には女性の裸を見る機会など前いた世界であったはずもなく、耐性がゼロであるため直視なんてできるわけもない。


「ったく、いいから背をアタシに向けんじゃねえよ。拒絶されてるみてえだろ」


 そのように言われてしまっては向き直る他なかった。


 翔は体を元の位置に戻し目線を正面に止める。


「そういえばまだ名乗ってなかったな。アタシはこの世界に三番目に来たジャンバロック・ジギルノヴァっていうもんだ。まあジギルノヴァって呼んでくれ」


「は、はあ」


 ジギルノヴァの方へ向くことなく翔は答えた。


「そっけない返答だな。お前の世界だとそんな風に言うのが当たり前なのか?」


「い、いやこれは緊張でうまく返答できなかったというか」


「何で緊張すんだよ?」


 あなたが裸でいるからです。とは言えるわけもなく、言ってしまえばまた先ほどの繰り返しになってしまう。


「えーと……」


 返す言葉が見つからず翔が言い淀んでいるとジギルノヴァは切り替えた。


「まあいいや。それよりもお前、ライオネットに勝ったんだって?」


「えっ」


 聞き覚えのある質問に思わず目を向ける。だがジギルノヴァが裸である事を再認識し視線をすぐさま戻した。


「聞いたぜ、ライオネットが手も足もでずボコボコにしたんだろ。お前見かけによらず強いんだな」


 話が拡張されて広まっているのは絶対にヒウロのせいである。そしてめんどくさい状況に巻き込まれるのは翔だけであり、おそらくヒウロもそれを見越して楽しんでいるに違いない。


 ヒウロに思うことはあるがとりあえず誤解を解かねば。


「その話ってヒウロから聞いたの?」


「ああ、そうだ」


「それヒウロが勝手に膨らませた話だから。本当は貰った能力を使っただけで、ライオネットに傷一つつけれなかったし。あのまま戦ってたら負けてたよ」


「そう謙遜すんじゃねえよ」


 別に謙遜はしておらず事実を述べているだけである。


 だがジギルノヴァは翔の言った事を気にしようとしない。


「貰った能力もお前のモンで使ったのもお前だし、ライオネットが捕らえていた破壊者を助けたのは本当だろ?」


「それはそうだけど……」


「だったらいいじゃねえか。それにライオネットと戦えたのも羨ましいしな。知ってるか、この世界では勝手に戦っちゃあいけないって」


 それは当たり前だと思うが。話の感じからしてジギルノヴァの世界では戦いが常習的にあったのだろうか。


「唯一戦える破壊者は逃げるばっかで戦おうとしねえし、他の奴に挑もうとしたらライオネットが止めるし、めんどくせえよな」


「けどライオネットが止めたら無理には戦わないんだ」


「しょうがねえだろ、元いた世界に戻るためなんだからよ。ここにずっと居たいとは思わねえからな」


 ライオネットが言っていた通りであった。翔と違いこの世界に来た者はすべからく元の世界に戻るために行動しているようだ。


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