第九話
「会うのは二回目だが、俺の名前はライオネット・スーだ。ライオネットでもライオネット・スーでも好きなように呼んでくれ」
「えと、望月翔です」
一応、翔は軽く会釈した。もちろん世界や文化が違うためする必要もないが元いた世界の癖でしてしまった。
「それで、ヒウロからこの世界については聞いたのか?」
「大体だけど、少女がこの世界を壊そうとしててライオネット達がそれを止めようとしてるってことぐらいは」
「それじゃあ俺らの味方になってくれるってことでいいんだよな?」
「協力はできたらと、思ってるけど……」
翔は少し返答に迷った。
当然、この世界を救うことは賛成ではあるが、少女を救いたい気持ちもあり味方になるという言葉に完全に肯定はできなかった。
「なんか引っかかる事でもあるのか?」
「い、いや、戦ったことないから心配で……」
本心を言えず翔は目を逸らしてしまう。
「……そうか」
ライオネットは翔の表情を伺い一言だけ放ち、次には背もたれに深く座った。
「とりあえずお前の能力と前いた世界について教えてくれるか? もちろん言いたくない過去とかはあるだろうから無理に言う必要はないが、これからの戦いのために能力は教えてくれると助かる」
翔の本心を見抜いているのか、それとも分かっていないのか、ライオネットは話題を変えた。
「特に言いたくない過去とかはないけど……、それよりも俺のいた世界のことについて話すことがないというか、多分だけどライオネットやヒウロのいた世界と比べると普通だと思うんだけど」
「それは俺の場合でもそうだろ。俺からしたらカケルのいた世界は普通じゃないはずだ」
確かにと、心の中で翔は納得し口を開く。
「えーと、俺のいた世界は一応、平和だったかな。少なくとも俺の周りで争いごとはなかったし、平凡でたまに楽しい日々を送ってた感じ。だから俺自身に特殊な能力とかはないし、戦ったこともない」
「へー、戦ったこともないのにライオネットに勝ったんだね」
ヒウロがわざとらしく言葉を挟んできた。
「だ、だから勝ってないって! あれはチートの能力のおかげで……」
「それで、そのチートの能力は何なんだ?」
話を戻すようにライオネットが聞いてきた。
「『能力創造』っていうものなんだけど、好きな能力を何でも創れるっていうチート能力」
「何でもなのか?」
「何でもだけど一応制限が付けられてるよ。同じ能力は一回しか使えないっていうのがあるし」
それでも十分に強いことは翔自身理解している。
「逆に聞くけどライオネットやヒウロの元いた世界とか能力はどんなのを持ってるんだ?」
翔と目が合ったヒウロは口を開く。
「私? 私のいた世界も平和だったかなー。私が生まれる前には争いごとがあったらしいけど、無事解決したしね。でもその名残りで魔法が使えるの。カケルには一度見せたよね」
「ああ、あの怪我を治したときの」
翔は折れた右足をいとも容易く完治したことを思い出した。治癒の魔法を使っていたが争いごとがあった名残というからには攻撃的な魔法もありそうである。
「それで私が貰った能力なんだけど、『完全予知』っていうのを貰ったわ。能力は対象の未来を少し先まで予知することができるっていうものよ」
「え、なにそのチート能力……」
思わず翔は驚いてしまった。
神であろう者が言っていた通りこの異世界に飛ばされた者は等しくチート能力を与えているみたいだ。
「そんなに驚くほどでもないわ。本当に少し先しか予知できないし、もっと便利だったら今頃少女を捕まえているもの」
その言い方から翔と同様になにかしらの制限が設けられて少し先しか予知できないということなのだろう。
するとヒウロは首をライオネットの方に向けた。
「それよりも私のことよりライオネットの話の方が面白いわよ」
「そうなのか?」
「だってライオネットは英雄であり、勇者だもの。ね、ライオネット?」
またしてもヒウロはわざとらしく言い、ライオネットはめんどくさそうに答える。
「誰が英雄で勇者だ。一回、世界を救っただけだろ」
十分すぎるほど英雄で勇者であった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。え? ライオネットって世界を救ったことがあるの?」
あまりに突飛なことを言ったため動揺してしまう。
「そうだが」
「そうだがって、そんな簡単でしたよ、みたいに……」
「簡単なわけあるか。本当に英雄で勇者ならもっと上手いことできたってことだ。……まあだからこそ、この異世界に一番最初に送られたのかもしれないが」
世界を救うということがどれだけ大変なことであるか想像もつかないが、翔にとっては漫画やアニメの主人公そのものである。同時にライオネットがこの異世界に最初に来たことが分かった。
そしてこの異世界に一番最初に送られてきたのも世界を救った経験があり、この異世界をうまくしてくれると思ったからかもしれない。
「あ、あのさ不躾かもしれないけど、世界を救ったってどんなことしたんだ? やっぱり魔王みたいなやつがいてそいつを倒したの?」
翔の興味が絶えず質問してしまう。
「簡単なことじゃないって言ったはずだ。世界を救うのにそれだけで済んだら苦労はしないだろ」
「そ、そうだけど……」
ライオネットに押されるように翔は口を閉じる。
しかしライオネットは何故か神妙な面持ちになり「だが」と続け、
「ただ一つ言えることは……、どれだけ力をつけようと、どれだけ信頼に足る仲間を得ても、どうにもならないことがあるってことだ」
翔はライオネットの真意が読めず眉をひそめてしまう。
いや、そもそも世界を救った者にしか分からないことなのかもしれない。そう思えるほどライオネットの表情は先程とは違った。
「それで、ライオネットは貰った能力とか言わなくていいの?」
と、ヒウロは場の空気を読んでか言葉を発した。
「ああ、そうだな」
ヒウロの言葉で表情を戻し、ライオネットは右手を自身の目の前に広げると、
「『空間発動』」
その言葉でライオネットの掌の上に野球ボールより少し大きい黒い玉が現れた。
「俺も元いた世界で特に能力とかはなかったが、貰った能力はこの『空間発動』というものだ。カケルは一度見たよな? というかあん時、お前にこれを消されたんだったな」
「あっ、あれはその……」
少女を助けるために黒い空間を消したことを思い出され言葉を詰まってしまう。
「分かってるさ、別にあれを責めたりはしない」
ライオネットは少し口角を上げ、その様子から冗談で言ったことが分かった。
「で、この能力なんだがこの空間内にいる間は俺の指定した能力を受けるっていう能力だ。指定する能力は俺が決めれるから、ある意味お前の『能力創造』に似てるかもしれないな」
「確かに。何か制限とかはないの?」
「もちろんある。二つまでしか空間は作れないし、一つの空間に一つの能力だけだ。それに空間の大きさもこの建物を包み込むぐらいしか作れない」
それでもチートだと思えるのはさすが神であろう者が与えた能力である。
ライオネットは右手の空間を消すと、翔は一つ気になることを思い出した。
「あ、そういえばライオネットはどうやってこの街まで来たんだ? 俺は自分の能力で飛んで来たけど、あそこから結構離れてるはずだよな」
「それも『空間発動』の能力だ。元々ここに一つの空間を準備して、あの場所でもう一個の空間を作ったら後は能力で二つの空間を繋げれば楽に戻ってこれる仕組みだ」
「へー、そんなこともできるんだな」
ライオネットの能力の便利さに驚く。そもそも戦闘慣れしているからこそ、そのような発想が生まれ能力を作り出せるのだろう。




