馬車内にて
カラカラカラカラカラカラーー。
小気味の良い車輪の音が鳴り響いています。
ノルマンディー侯爵家のお屋敷を出た私達ポーンドット親子は馬車に揺られ自身の屋敷を目指している真っ最中ですわね、どうぞよろしくさん。
っととと。アリー姉様の口調が少し移ってしまったようです。万が一、うっかりお父様に聞かれでもしたらびっくりさせてしまうかもしれせん。気を付けないと……。
でも……、
でも、アンナに対してアリー姉様のように振る舞ってみたいとは思います。
例えば明日の朝、いつものように朝食の知らせに来てくれた時に身支度を終えた私がベッドの上で大の字で寝ていたら、アンナはいったいどうするのでしょう?
どんな表情をするのでしょうか?
どんな言葉を発するのでしょうか?
慌てふためくでしょうか?
それとも、理解が追いつかず固まってしまうとか?
ああ……。アンナの反応を想像するだけで何だかワクワクしてしまいますね。
けれどよく考えると、別に朝まで待たなくともいいんですよね。夕食の時でも悪戯は決行可能な筈です。
普段から反応が良いアンナではありますが、それが結果的に裏目に出てしまう危険性をも孕んでいるんですよね。
アンナは普段からあの調子なので変に早合点してしまって『お嬢様がっ! お嬢様がぁぁぁっ!』などと大声をだして屋敷中を駆け回り、大混乱を招く恐れがあるんです。
それに万が一、屋敷を飛び出し辺りを駆け回りでもしだしたら、ポーンドット領は考えるだけでも恐ろしい最悪の事態になってしまいかねません。
やはり、アリー姉様の真似はやめておいた方がよさそうですね。
と、私が悪戯の計画を断念したタイミングでお父様が口を開きました。
「ローレライ、その箱は何だ? 来る時、そんな物持っていたか?」
そう言ってお父様が指差したのは、つい先ほどアリー姉様に頂いたばかりのプレゼントの箱でした。
「これはーーアリー姉様に頂いた誕生日プレゼントなんです」
「誕生日? お前の誕生日はまだずっと先だろう?」
お父様は若干、眉根を寄せ訝しむようにそう言います。
「ええ。ですからこれは、今まで渡せていなかった分だって……」
「ほう。それで、中には何が入っていたんだ?」
「まだ開けていないんです。何だか躊躇してしまって……」
「あぁ……ノルマンディー侯爵閣下の御令嬢も何というか、非常にユニークな方だったな」
お父様はアリー姉様の姿を思い出すように、天井を見上げながらそう言います。
ですが、恐らくお父様はもう五、六年間ぐらいの間アリー姉様の姿を見ていないと思うので今現在、お父様が思い浮かべている姿は十二歳くらいの時のものでしょうか?
確かにその頃であればユニークという言葉で言い表す事ができるかも知れませんが、今現在のアリー姉様は決してユニークという言葉では言い表せません。成長したアリー姉様の姿を見たらお父様はきっと腰を抜かしてしまうでしょうね。
まあ、警戒心の高いアリー姉様の事ですから、そんな事は万万が一にもないのでしょうが。
しかし……ユニークという言葉で言い表す事ができないとすると、なんと言えば的確に言い表す事ができるのか?
…………ふむ。難しいですね。これだ、という言葉が見つかりません。
きっと、アリーお姉様はそんな簡単な言葉のひとつやふたつで言い表す事ができるようなおひとではないんです。
特別なんです。特別に大好きなんです。私の憧れの大好きな人。
「…………」
何だか不思議な感じですね。どこかで感じた事のある感情が少しづつ私の中で大きくなっていくようです。
「ーーおい、ローレライ、どうした? 気分でも悪いのか?」
お父様が私の顔を覗き込むようにして言います。
「ーーあ、いいえ、少し考え事をしていたもので……ごめんなさい。えっと、箱の……箱の中身ですよね。少し待ってください、今開けてみますからーー」
私は急ぎ、アリー姉様に頂いた誕生日プレゼントの箱を開けます。




