扇子とオルゴール
「む? それは……」
「扇子……でしょうか?」
プレゼントの箱を開けて出てきた物は、とても落ち着いた印象を受ける扇子でした。
それは貴婦人がよく好んで愛用する軽く華やかな印象を受けるデザインの物とは大きく違っていて、色味の濃い紺色を基調とした大人の雰囲気が漂う一品でした。
扇子を箱から取り出して広げて見ると、繊細な黒のレースがあしらわれており素人目に見てもとても質の良い素材で作られた高価な物のようでした。
「これは……アリー姉様にお返しした方がよろしいでしょうか? ものすごく高価な物のようですし……」
「うむぅ。しかし、頂いた物を返すというのも失礼になってしまうからな。プレゼント用にと前もって準備してくれていた物かもしれないし」
「そう……ですよね……」
広げていた扇子を静かに閉じて、両手で包み込むようにして考えます。
アリー姉様の性格を鑑みるに、私に渡すため前もって準備した物ではないと思います。それはこの扇子のデザインひとつとって見ても明白です。
これは絶対にアリー姉様が持つ事を想定されて名のある職人さんの手によって作られた物です。
本来なら私のようなお子様が持っていい代物ではありませんし、そもそも私にはこの扇子は絶対に似合いません。
けれど、
どこか怪しげで気品が漂うアリー姉様のようなこの扇子を持っていれば、アリー姉様がずっと側にいてくれるような気がして何だかとても落ち着きます。
側で、ずっと見守ってくれているような安心感を覚えます。だからこれは、御守りとして肌身離さず持っていましょう。
いつか、これからずっと先、この扇子を持っていても決して恥ずかしくない立派な大人の女性になれるように、その目標として大切に。
「ーー私、気に入りました。この扇子」
「お? おぉ、そうか……。それは良かったが……だが、何というか……その……」
「いずれ似合うようになってみせます。必ず」
憧れの、大好きな、アリー姉様のような大人の女性に。
「……そうか、じゃあ頑張らないとな」
「はい!」
私は扇子を箱に収めながら未来の自身の姿を思い浮かべます。
アリー姉様のように大人な雰囲気が漂う女性になる事が出来ればよいのですが……。
と、そこでひとつの疑問に行き当たりました。
「お父様、今日はいったいどんな御用だったのですか?」
「ああ……特に用という事でもないんだ。しばらく顔を合わせていなかったからな、ただの世間話をしに行ったようなもんだ。それにローレライ、お前も会いたかったのではないか? アーリシアお嬢様に。昔から本当の姉のように慕っていたものな。私はもうずいぶんとお姿を拝見してはいないが、ジョリン様とそっくりなクールで美しいお姿になっていたんじゃないか?」
「はい、とても。繊細な氷細工のような美しいそのお姿を見ていると、ついつい息を呑んでしまいました。そんなアリー姉様が放つ怪しげで冷たくも鋭い大人の空気感は私には全く無いもので、素直に羨ましいと思ってしまいました」
「そうか……。機会があれば久しぶりにお会いしたいものだ」
「次の御予定はまだないのですか?」
「ああ、数ヶ月後今日預けた物を受け取りにいく約束をしているから、その時にでも会えたら嬉しいな」
「何をお預けになったんです?」
「大した物じゃない。小さなオルゴールの修理をお願いしただけさ」
「オルゴール……」
「ずいぶん昔に私がルクスへとプレゼントした安物の品だ。蓋の部分の調子が悪くて音が鳴ったり鳴らなかったりするからな、一応修理をお願いしてみた訳だ」
「またすごい物になって返ってくるのではないですか?」
「う……ん。どうだろうな? あんなに小さな物だからな、劇的な変化はないとは思うが……ローレライ、ちなみにどんな物になって返ってくると思う?」
「そうですね……お屋敷とかでしょうか?」
「はっはは! それはまた凄い変わりようだなっ!」
「では、お父様のご予想は?」
「ふむ。グランドピアノ……かな?」
「それもかなり凄い変わりようですね! 一応、親戚という事になるのでしょうか……」
そんな大予想をしながら馬車に揺られる私達、ポーンドット親子でした。




