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試験管ボーイ  作者: 森中満
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70日目 午前-1

70日目 午前




彼じゃなくてごめんなさい。

ー……。




僕は相変わらず、あんなことがあった後もカメラを回している。当初の被写体だった二人は片方いなくなってしまったが、このビデオが僕がここにいる意味になっているとは、僕はあの時からほんの少しも成長していないらしい。


「医者は持ち主のいない家なんて、ただの抜け殻だと言いそうだけど。」


そうひとりつぶやいて、思いの外自分の声が天井の高い吹き抜けの玄関に響くのを聞き、なんだかやるせない気分になった。


いつものように玄関を開け、鍵をポケットに入れて僕は離れへ向かう。彼は離れには何重にも鍵をかけるのに、母屋には鍵をかけなかったっけ。彼が大切にしているものがどっちにあるかなんて明白だろう。


彼がいなくなってもう半月以上が経つ。あの物体も、もう人間の生まれる直前の胎児のような姿にまで成長し、ただ人間の子と違うのはへその緒が付いていないということだけだった。僕はいつの間にか、初めて見たときの彼のように、いつの間にかあの白いモノに話しかけるようになっていた。ここ何日か自分とこの白い物体について考えてみたが、考えが全くまとまらない。生まれる、というより目を開けて自分の力で立つことが目前の胎児を前にして、僕は今更少し焦っていた。僕とあの胎児との距離感が未だにわからないのだ。問題はそれだけではない。この子は彼によく似ているのだ。僕が持たない彼の特徴を耳や、顔の形にもつ、僕よりも彼に近い、人ではないモノ。


彼の手書きの研究ノートをパラパラとめくり、その理由を探すと、この白いモノには彼の遺伝子が組み込まれていて、だから彼の面影を残しながら成長しているということがわかった。僕は更にどうすればいいのか分からなくなってしまった。この物体は僕の異母兄弟の「弟」になるのだろうか。今だに僕にはわからない。


「お前と僕を足して二で割ることができたなら、お前も僕も両親に愛される子供だったのかもね。ああ、お前は僕とは違うのか。」


今だったらわかるのだ、父と別居していた母が僕を通して何を見ていたのか。あの時の母は僕の顔を見るたびに、父のことを思い出していたのではないことが。父に似ているはずのない僕の顔を何回見ても父の顔は思い出せなかったろう。母はあの時、僕の中に自分の面影を見ていたのだ。罪を犯した自分の特徴をところどころに持つ顔を。

僕の顔を見るたびに、どれだけ辛かっただろう、どれほど母は自分の行動を悔やんだだろうか。

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