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ブレイクオンスルー  作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
37/40

37 感覚のシャッフリング

「あっ!?」

 声をげる。


 

 正面しょうめんに、火鳥の姿すがたは、なかった。


 テーブルの上には、

 くろ薔薇バラが、一輪いちりんっていた。


 智子ともこは、店外てんがいへ、とびし、

 混乱こんらんした頭のなかを、けんめいに整理せいりした。


 まずうべきは、心情しんじょうとしては・・・優希。

 だが、冷静れいせいかんがえれば、

 順序じゅんじょとしては・・・鹿間しかまだ。


 事件じけん細部さいぶを、いたださなくては。


 喫茶店きっさてん・・『ペール・ラシェーズ』

 場所は・・・日暮里にっぽり



 目標もくひょうを、さだめた智子が、

 京成けいせい上野駅うえのえき方面ほうめんへ、ダッシュしようとしたとき、

 原付げんつきバイクが、

 彼女のまえスレスレで、

 きゅうカーブをって、ストップした。

 

 マナーのなっていない、

 危険きけん運転うんてんに、カチン!ときたので、

 文句もんくを言おうと、

 いかりに、かおめて、くちひらきかけると、

 げんきのぬしが、

 さっと!ヘルメットをった。


 ショートカットのキリッとした顔。


「カオル!」━「いったい、どうして?」

 驚く智子。


「どうしたも、こうしたもない!

トモコのことを、ずっとさがしてたんだから。

スマホに連絡れんらくしても、まったく、ないし。

さあ・・・うしろに、って」

 カオルは、予備よびのヘルメットを、ほうってよこした。


「ちょいと、ヤボようだったのよ。

わるいっ・・・日暮里にっぽりまで行って!」

 ヘルメットを、装着そうちゃくしながら、智子が言った。


承知しょうち!・・・鹿間しかまが、

くびながくして、待ってるよ」

 エースとポイントガード、

 今宵こよいは、いきも、ピッタリだ。

 


 後部席こうぶせきに、智子をせた、げんきバイクは、

 上野うえの公園こうえんわきの、さかをのぼり、

 芸大前げいだいまえけ、谷中やなかへ、かう。


「うちらの学園がくえん、ヤバいかも。

なんか・・・キナくさいことになってきた」

 かおるが、

 後部席こうぶせきに、声をかけた。


「というと?」


「きょうの夕方ゆうがた学園付近がくえんふきんのマンホールのなかから、

蜂谷はちや死体したい発見はっかんされた。

腐乱ふらん進行しんこうしいて、

れすぎた・・・洋梨ようなし状態じょうたいだったらしい。

死因しいんは、

スズメバチに、

数十すうじゅっ箇所かしょされた、ショックによるものだとか。

「それから猪瀬いのせ・・・

結核けっかくによる、入院にゅういんというのは、

おもてむきで、

本当ほんとうは、身体からだじゅうに、

むしいたことが、原因げんいんみたい。

「さらに、かい先生が、

警察けいさつに、任意にんい同行どうこうもとめられて、

出頭しゅっとうした!

先生が・・・研究けんきゅうのために、培養ばいようしていた、

回虫かいちゅうたまごが、

どうも・・・

・・・猪瀬いのせ病因びょういんと・・・

・・・つながりがありそうな気配けはいで・・・」


「なんだって!?」

 智子の、むなさわぎのノイズが、していく。


警察けいさつ関係者かんけいしゃが、大勢おおぜい

学園がくえんにやってきて、ものものしかった!

パトカーの赤色灯(パトライト)って、

いようのない不安ふあんを、さそうのよね」

 

 バイクは、せまい道を、走行そうこうしていく。

 周囲しゅういは、くらく、静寂せいじゃくとしていた。

 エンジンおんだけが、夜道よみちに、ひびいていた。


「カオル、きょう・・・優希ゆき姿すがたを・・・見かけなかった?」


「さあ、どうだったかな?

犬城けんじょうさん、

このところ、かげうすくて、

いるのかいないのか・・・からない、かんじ。

なにが、あったのか・・・らないけどネ」


「・・・・・・」


 

 喫茶店きっさてんに、到着とうちゃく

 レトロかんただよう、

 みせの、ぐちを、智子がひらいた。

 

 カラン、カラン!


 呼びりんが、おとをたてる。

 店内てんないを、オレンジ色のライトが、らし出ている。

 ちょっぴりくらいが、

 心落こころおく、かく、といったおもむきだ。

 不思議ふしぎなフィットかんを・・・かもししていた。

 

 以前いぜん

 この店に来たことのある、かおるにしたがい、

 智子は、

 鹿間しかまつ、個室こしつまで、歩いて行った。

 

 かおるがノックして、とびらを、ける。


「・・・!?」

 個室こしつには、だれも、いなかった。

 

 智子は、

 瞬時しゅんじに、きびすを、かえすと、

 早足はやあしで、

 店のマスターのところまで行き・・・たずねた。

 

 マスターいわく・・・

さきほど、来店らいてんした、

 たかい、

 非常に、礼儀れいぎただしい青年せいねんが、

 ねむりこんでしまった鹿間しかまに、

 かたして、みせを出て行った。

 青年せいねんは、鹿間より、年長ねんちょうに見えた・・・」

 とのことだ。

 

 鹿間から、ことづかったモノを、

 マスターから、

 った・・・智子。

 

 そのさい

 店主マスターに、学生証がくせいしょう提示ていじを、もとめられた。


 ずいぶんと、慎重しんちょうひとだと、

 微苦笑びくしょうしながら、

 学生証がくせいしょうで、身分みぶんを、証明しょうめいした。

 

 ことづかったモノとは、

 鹿間しかま愛用あいようのノートがたパソコンと、

 フラッシュメモリであった。


 智子は、

 マスターやかおるから、はなれて、

 カウンター席のすみに腰かけ、パソコンをげる。

 パスワードは・・・[智子の生年月日せいねんがっぴ]・・・であった。

 最新さいしんのメールに、

 それとなく、暗示あんじが、してあった。


 フラッシュメモリを、しこんで、データをひらく。


 事件じけんいきさつ(・・・・)が、

 詳細しょうさいに、

 したためられた文章ぶんしょう一件いっけんと、

 動画どうが一件いっけん

 メモリーされていた。


 文章ぶんしょうを読んだあと、動画どうがデータを、ひらいた。


 優希が、

 惨殺ざんさつされる場面ばめんが、うつされた。


 ナイフをりおろした

 <人物じんぶつ>を、

 しかと・・・記憶きおくに・・・ける。


 いかりが━ふつふつと━こみげてくる。

 

 かおるとマスターは、

 異様いよう気配けはいを、察知さっちしていた。


 智子の全身ぜんしんから、

 がるような、

 原色げんしょくの<赤色せきしょくオーラ>が、放出ほうしゅつされていた。

 それは・・・

 まるで・・・阿修羅(あしゅら)を・・・思わせた。


 慎重しんちょうを、して、

 データを、パソコンないに、コピーしてから、

 シャットダウンした。


 フラッシュメモリを、サイフにしまっていた、

 ちょうどそのとき、

 スマートフォンが、った。

 

 通話つうわボタンをすと同時どうじに、

 智子の母親ははおやの声が、びこんきた。

「おまえ、いま、どこにいるの?

優希ゆきちゃんが、たずねてきて、

さっきから、ずっと、ってるわよ。

なにか、約束やくそくしてるそうじゃないの。

はやかえっといで!」

 用件ようけんだけ言うと、電話は、プツンとれた。

 いつものパターン・・・節約精神せつやくせいしんだ。


 

 喫茶きっさてんを出た・・・智子は、

 パソコンを片手かたてに、

 原付げんつきの、後部席こうぶせきに、またがった。


 かおるは、運転席うんてんせきで、

 キーを、しこみながら、たずねる。

「このあと、どうする?

なにかワケあり・・・みたいだけど。

鹿間しかまのスマホは、つうじなくなってるし。

どこか、心当こころあたりを、さがしてみる?」


「カオル、ゴメン!」

 うや、

 智子は・・・

 ・・・彼女の背中せなかを・・・

 きとばした。


 運転席うんてんせきから、いきおいいよく、

 ポーンと、はじきされる、副主将ふくしゅしょう


「あとで、かならず、かえすから!」

 あ然とするかおる尻目しりめに、

 パソコンを、運転席うんてんせきの足もとに、き、

 原付げんつきを、スタートさせる。


「なによーっ!

免許めんきょ、持ってないくせして。

いつも・・・勝手かってなんだから!」

  


 バイクのスピードを上昇じょうしょうさせ、

 自宅じたくへ、向かう智子。

 

 スマートフォンを、発信はっしんつづけながら。

「優希、優希、優希、優希、優希、優希、優希・・・・・!」

 

 つながらない。

 

 もう一度いちどいたかった。

 今夜こんやのがすと、もう二度と、えなくなる気がする。

 

 切迫感せっぱくかんが、智子の心臓しんぞうを、めつける。

 

 原付きバイクが、

 『auroraオーロラ』の店頭てんとうに、

 すべりこむように、停止ていしした。


 自動じどうドアから、店内てんないを、のぞきこむ。


 おくにある、作業場さぎょうばでは、

 両親りょうしんが、

 閉店後へいてんご仕事しごと・・・翌日よくじつ仕込しこみ・・・に余念よねんがない。


 智子の、むねうちに、

 生活せいかつというものの実感じっかんが、ひしひしとわいてくる。

 プラス・・・感謝かんしゃ気持きもちも。

 

 自動ドアのスイッチはられていたが、

 施錠せじょうは、されていない。

 手動しゅどうで、ドアをける。

 作業場さぎょうばへ、足をみいれる。


「ただいま!・・・優希ゆきは・・・優希ゆきはどこ?」


 智子の声に、

 集中力しゅうちゅうりょくのほどけた両親りょうしんが、顔をげた。

 母親が、あきれがおで、どやしつける。

「この、不良ふりょうムスメ!

こんな時間まで、どこを、ほっつきあるいてたの。

優希ちゃんなら、可哀かわいそうに、お前の部屋で、待ちぼうけよ」

 

 怒声どせいに、

 作業場さぎょうばを、すばやくとおりぬけ、

 階段かいだんを、三段抜さんだんぬかしで、けあがる。

 

 つきあたりの自室じしつを、ノックした・・・(ひどくドキドキする)。


優希ゆき!」

 一拍いっぱくおいて、ノブをまわす。

 

 室内しつないには、だれも・・・いなかった。


 優希の姿は、どこにも・・・見あたらない。

 

 つくえうえには、

 くちをつけていない、コーヒーカップと、

 菓子かしパンが、おぼんっていた。

 

 コーヒーは・・・めていた。

 

 あちこち、

 トイレやれまで、さがしてみたが、

 やっぱり・・・彼女は・・・いなかった。

 

 優希のこしかけていたと、おぼしき椅子いすに、ててみる。

 かすかな、ぬくもりも・・・のこって・・・いない。

 

 意味いみもなく、部屋へやを、見まわす。


「ん?」

 

 なんだか、いつもとちが雰囲気ふんいきを、感受かんじゅした。


 精神せいしんを・・・集中しゅうちゅうさせる。



〈アレレっ?〉


〈ない・・〉


〈なくなっている!〉


 

 大事だいじな、だいじな、記念品きねんひん

 インターハイ出場のチケットを、

 ったときの、

 集合しゅうごうサイン入りの、バスケットボールが、なくなっていた。

 

 ガラスケースのなかは・・・からっぽ!


 ちかづいて、らすと、

 ケースの中に・・・なにかが・・・かれていた。

 

 智子の視線しせんが、急激きゅうげきに、せられる。


 スマートフォンのストラップが、視界しかいに、おおきく、うつされた!


くろまねきネコ>


 回転寿司かいてんずしてんで、

 もらった記念品きねんひんが、

 からのケースの、ちょうど、中央部ちゅうおうぶに、かれていた。

 

 智子はポケットから、スマートフォンを、つかみ出した。

 おなにもらった、

しろまねきネコ>のストラップが、

 れている。


 黒と白のまねきネコ、

 ふたつのストラップを、

 やや上方じょうほうに、ならべて、ながめる。


 背中せなかがゾワゾワしだした・・・

 

 全身が、小刻こきざみに、ふるえだす・・・


 く息・・・いきが・・・

 二律背反にりつはいはん呼吸こきゅうへと、

 移行いこうしていった。

 

 智子の集中力しゅうちゅうりょくが、まされてゆく!


 純粋じゅんすい主観しゅかんが・・・客観きゃっかんを・・・駆逐くちくする。

 

 きつくところの、

 鋭角えいかくまで、とがるや、

 特殊とくしゅ状態じょうたいへ・・・突入とつにゅうした!

 

 脳内のうないがハレーションを起こし、

 白色状はくしょくじょうに、周囲しゅういが、かがやいて見える。


 重力じゅうりょくが、消滅しょうめつしてゆく・・・


 時間が・・・極限きょくげんまで・・・ばされる・・・・・・

 

 においが、え・・・

 おとを、ぎ・・・

 視覚しかくが、こえ・・・

 言葉ことばが、触覚しょっかくつ・・・


 感覚かんかくのシャッフリングが、こった。



かんじる・・・はっきりと・・・感じる!〉


〈優希が・・・呼んでいる・・・!〉


〈優希が・・・この私を・・・必要ひつようとしているのだ!〉



 カーテンが、ゆるやかに、うごいている。


 まどが、半開はんびらきに、なっていた。


 智子を、みちびくように、かぜが、さそいかける。


 スマートフォンに、

 <黒招くろまねきネコ>のストラップを、

 むすびつける。

 

 制服せいふくに、着替きがえ、

 スマートフォンを、

 スカートのポケットにすべりこませると、

 純白じゅんぱくのアウターを、た。


 サイフから、フラッシュメモリを取り出し、

 つくえのカギをけ、

 小箱こばこにしまい、

 しを、め・・・カギをかけた。


 ある、決意けついを、め、

 鏡台きょうだいのまえに、すわる。

 

 まず、化粧けしょうを、とす。

 それから、コンタクトレンズを、ハズした。

 ティッシュにつつんで、ゴミばこへ、ほうりこむ。

 

 鏡台きょうだいの、ひき出しを、ひらき、

 メガネケースを、取り出す。

 あかいフレームのメガネを、かける。

 

 ブラシで、かみをとかし、

 うしろのいっかしょで、たばねると、

 赤色あかいろ

 <勝負しょうぶゴム>を、

 使つかって、

 しっかり・・・と・・・めた。

 

 かがみの中の、

 自分自身じぶんじしんに・・・かって・・・語りかける。

「おかえり・・・月吉智子つきよしともこ!」

 

 衣裳いしょうケースを、ひらき、

 宝物たからもの・・・

 ━<レアアイテム>━の

 バスケットシューズを、取り出す。


 インターハイ初出場はつしゅつじょうの、

 おいわいとして、

 優希の母親から、おくられたものだ。

 

 大好きな、優希ゆきのおかあさんへ、

 感謝かんしゃ気持きもちを、めて、

 バッシューに・・・「一礼いちれい!」・・・する。

 

 テキパキ装着そうちゃくすると、

 ヒモを、キツめにしばった!

 ゆかを、みしめる!

 すばらしい感触かんしょくを、

 シューズは、提供ていきょうしてくれた。

 

 ノートパソコンを、片手かたてかかえ、

 まどから、上半身じょうはんしんを、す。


 したを確認して、二階にかいから、りる。


 あざやかなフォームで、

 クールに、

 着地ちゃくちめた。



いそげ・・・急ぐんだ・・・!〉


場所ばしょは・・・あそこに・・・ちがいない!〉

 

 クスノ木のイメージが、眼前がんぜんに、大きくうつしだされた。



 コンセントレーションは、マックス状態じょうたいへ。

 しかし、はやる気持きもちは、おさえにかかる。

 

 原付げんつきにり、

 イグニッションキーを、まわす。

 エンジン始動しどう・・・


 動き出した!

 

 今の気分きぶんは、

 バスケットボールの、

 さい重要じゅうよう一戦いっせんに、

 のぞんでいくときと・・・ていた。


 ギリギリの瀬戸際せとぎわ接近せっきんしていく、

 戦士せんしのような・・・心理状態しんりじょうたい


 武者震むしゃぶるいが・・・まらない。


 二律背反にりつはいはん呼吸こきゅうは・・・

 ・・・継続けいぞくされたままだった。

 

 無重力感むじゅうりょくかん

 

 食欲しょくよくが・・・えてなくなる。


 アドレナリンが、ドバドバ、大量放出たいりょうほうしゅつされていく。



〈なにか・・・・とてつもないことが・・・ころうとしている・・・!〉


 

 水晶学園すいしょうがくえんの前で、バイクを、停止ていしさせる。

 

 時刻じこくは、午後ごご11時を、まわっていた。

 

 三年近くかよった、

 学園がくえん校舎こうしゃを、

 しっかり、記憶きおくきつける。


〈明日は・・・どうなっているか・・・からないから!〉

 

 

 星々が・・・またたいて・・・いる。

 みきった夜空よぞら中心ちゅうしんに、

 満月まんげつが、立派りっぱ大円だいえんを、かべ、

 なまめかしい、あおひかりを、放射ほうしゃしていた。

 

 原付げんつきバイクを、学園近く、に駐輪ちゅうりんする。


 まようことなく、

 役角寺えんかくじに、向かって、あゆみを、すすめた。


 てらのわきの、石塀いしべい沿いを、あるく。


 石塀いしべいに、をかける、

 跳躍ちょうやくし、

 え、

 墓地ぼち区画くかくに・・・った。

 

 月明つきあかりに、らし出された、

 墓石ぼせきぐんを見て、

 ゾクリと実感じっかんする。


 ここの地下ちかには、

 埋葬まいそうされた<おこつ>が、

 相当数そうとうすう

 おさめられていることを。


 自分じぶんで、自分じぶんを、きしめる。

 

 かおを・・・げた。

 

 本堂ほんどう裏手うらてに、

 巨大きょだいなクスノ・・・・が、

 夜空よぞらに向かって、そびえっているのが、目にはいる。


 それを目印めじるしに、墓地内ぼちないを、あるいていく。

 

 くぐりを、ひらく。

 ギィーッ!

 という音が、った。

 くぐりけ、裏庭うらにわに、足をふみれる。


 左がわには、石堂いしどうが、見えた。

 のせいではなく、

 石堂いしどうから、瘴気しょうきが、わきあがっていた。


 右がわへ、視線しせんうつす。

 

 智子の視界しかいかたすみに、

 クスノ()りかかり、

 うでんだ、人物じんぶつの姿が、とらえられた。

 

 両目りょうめが、ピントをわせ、

 その人物じんぶつを、しかとキャッチし、認識にんしきした。


 まちがえようがない・・・火鳥翔ひどりしょう

 

 ふたりの距離きょりは、およそ六メートル。


「ククク・・・」

 ふたたび、智子に、武者震むしゃぶるいが・・・こった。

 

 

 月明つきありの下に、

 火鳥の全身ぜんしんぞうが、

 はっきりとうかがえた。

 

 両目りょうめじた、彼は、

 瞑想めいそうしているように、見える。

 

 ひたいの上部じょうぶには、

 ナイト・ゴーグルを、装着そうちゃくしている。


 黒のかわジャンパー。

 ぴっちりした黒のかわズボンという、いでたちをしていた。


 かわジャンの内側うちがわには、

『doors』のロゴが、

 ゴールドでプリントされた、

 深紅しんくティーシャツを、ていた。


 首から<おまもり>のヒモが、ぶらがっている。

 

 きはらった火鳥ひどりの、

 あしもとに、てかけてある、

 こしたかさほどの・・・ボンベ〈=シリンダー〉・・・を、

 目にした瞬間しゅんかん

 智子の内面ないめんに・・・

 言いようのない不安ふあんが、つのった。



〈ガスボンベ・・・?〉

たして・・・ぶじに・・・むので・・・あろうか・・・?〉

 


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