風呂
正直どうしたものかと悩む。
女性の裸を見る事はもちろん、行為に及ぶことだって経験はある。
だからと言って雇い主と、友人の裸をいっぺんに見る機会なんてものは今までになかった。
「軽率だったか」
思わず口に出してしまったが、俺に割り当てられた私室で待機中のため誰かに聞かれるようなことはない。
事実軽率だったことには間違いないだろう。
風呂、ねえ……夜更けにもう一度入りなおすか。
「サツキさん、お嬢様の準備が整いました」
「今いきます」
部屋の外からメイドさんに声をかけられる。
気は進まないが、この際腹をくくるしかない。
部屋を出てメイドさんの案内に従う。
といっても俺よりもお嬢様の方が緊張しているだろうけど。
コッペリアは……実際どうなんだろう。
あいつは顔に出さないし、過去に何回か裸見て、身体にも触っている。
「中でお嬢様がお待ちです」
「失礼します」
一声かけてから脱衣所に踏み込む。
どうやら二人は浴場にいるらしい。
ため息をつきながら服を脱いで綺麗に畳んで、棚に置く。
「失礼します」
改めて声をかけてから浴場に入る。
そこにはすでに体を洗い終えて、頭を洗っている二人がいた。
体にはタオルがまかれており、肌の露出は少ない。
「おや? 」
「お嬢様が恥ずかしいからって」
コッペリアがその理由を教えてくれた。
どうやら恥ずかしすぎて先に体を洗ってしまったようだ。
「ではせめてこちらを」
そう言って泡立ったままの頭に触れる。
しゃこしゃこと手を動かして、丁寧に髪の毛を洗う。
「……随分手馴れているのね」
「結構方々で他人の髪を洗っていましたから」
「へぇ」
お嬢様の声から熱が引いていくのがわかる。
軽蔑された、というわけではないだろうが少々怖い。
「俺の出身地は子供の世話を年長者が見るしきたりだったんですよ。
だから子供の頭を洗う機会は多かったんです」
これは事実だ。
地球にいたころ、俺は辺鄙なところに住んでいた。
そこでは平成の現代でもそんな風習が残っていた。
四方を森に囲まれた場所だった。
「ふぅうん、あたしを子ども扱いね」
「まだまだ子供ですよ、体系も、心も、精神も、身体も、胸も」
「身体ばっかりじゃない」
ため息をついたお嬢様だったが、声には熱が戻っている。
「流します」
頭からお湯をかけて、髪を結う。
そうしているとお嬢様の隣にコッペリアが腰かけていた。
「次私」
「はいはい」
そう言って、コッペリアの後ろに回り込んで髪を洗う。
お嬢様は湯船につかり、腕に顎を乗せてこちらを見ていた。
「いつ以来だっけか」
「前はシルバーウルフと戦って両腕を怪我した時」
「あぁ、あの時か」
コッペリアの髪はお嬢様と比べて短い。
お嬢様は髪が腰まであるので、女性としても長い方だがコッペリアは肩までだ。
それでも戦闘には不向きだと本人は言っている。
さらさらとしていて、細い毛だ。
「痛んでるぞ、少しは気をつかえ」
「髪に気を使ってたら冒険者はできない」
至極正論だが、それは女性としてどうなのだろうか。
鏡に映ったお嬢様も少々呆れている様子だ。
「それに、身だしなみに気を使うのは嫁入りのときだけで十分」
「嫁入り前も後も気をつかえ」
「じゃあサツキにもらってもらう」
「なっ! 」
唐突なコッペリアの言葉にお嬢様が反応した。
勢いよく立ちあがったがタオルが落ちる事はない。
というよりタオルをお湯につけるなといいたいが、ここはお嬢様の家だからいえない。
「わ、私だってサツキに……」
「お嬢様の場合、俺は婿にもらわれる立場だと思いますよ」
「む、婿……きゅう」
頭に血が上ったのだろう。
顔を真っ赤にして倒れそうになっている。
「可愛いご主人様だね」
「まったくだ」
そう笑い合ってから、勢いよくコッペリアにお湯をかけた。




