プロローグ
宇宙船の外殻を、巨大な影がかすめた。
次の瞬間、警報が船内に響き渡る。
「左舷! 来るぞ!」
操縦席の男が叫ぶ。
モニターいっぱいに映し出されたのは、黒い鱗に覆われた宇宙生物だった。
全長は軽く百メートルを超えている。
ゆっくりと身をよじりながら、探査船へと迫っていた。
「まったく……フロンティアは歓迎が派手だな」
艦長席の男は、肘掛けを握り直した。
キャプテン――オリオン・グラント。
銀河でも名の知られた宇宙探検家だ。
「まだだ、十分に引きつけろ」
オリオンは操縦席の背後から身を乗り出し、低く言った。
影が膨らむ。
距離が詰まる。
隊員たちは息を止めた。
(まだだ……)
背を、冷たい汗が伝う。
「……もう限界です……」
隊員がかすれた声で言う。
巨大な爪が、宇宙船の外殻に伸びる。
――あと一歩。
「機首を上げろ! 最大だ!」
操縦士が息を呑む。
「キャプテン、それは――」
「いいからやれ! エンジン全開、フルスロットル!」
探査船が唸りを上げる。
正面に、小惑星の影が迫った。
黒い巨体が船尾に食らいつくように迫る。
「――今だ、切れ!」
探査船が鋭く身をひるがえす。
次の瞬間、宇宙生物は軌道を変えきれず、小惑星へ激突した。
「離脱しろ! 急げ!」
エンジンが火を吹き、宇宙船は一気にその場を離脱した。
「……やれやれ」
オリオンはシートにもたれ、正面モニターを見つめた。
そこには、青緑色の惑星が映っている。
濃い雲の隙間から、深い森が広がっていた。
「キャプテン、サーフェスプローブからデータが来ました。大気安定、問題ありません」
「降下するぞ。座標はここだ――念のため、環境防護フィールドを展開しておけ」
探査船は、大気圏へ突入した。
――
「キャプテン……」
隊員が声を潜める。
オリオンは右手を上げ、静かに制した。
数メートル先。
ブルーオーガの群れがいる。
だが、Prime Galaxy〈中央銀河〉の個体とは明らかに違った。
その巨体は、ゆうに十メートルを超えている。
銃でどうにかなる相手ではない。
見つかれば、ただでは済まない。
隊員たちは茂みに身を潜め、音を殺しながら一歩ずつ進んでいく。
――
原生林の奥深く。
苔に覆われた巨大構造物が姿を現した。
それは明らかに自然のものではない。
誰かが作ったものだ。
だが、この星には文明の記録が存在しない。
「……見つけたな」
オリオンが低くつぶやく。
静かに一歩、前へ出る。
巨大構造物へ右手をかざし、口元をわずかに吊り上げた。
「――カスティラ・ボーレ」
次の瞬間、構造物の表面に淡い光が走った。
それは、人類がまだ知らない文明の痕跡だった。
――
小さな部屋の中。
映し出されたホログラムを見つめながら、少年は目を輝かせていた。
タイトルが空中に浮かび上がる。
The Orion Expedition
十年前に公開された映画。
ARCA〈宙の書庫〉に導かれ、Frontier Galaxies〈辺境銀河〉を冒険する物語。
トレジャーラッシュの始まりを描いた作品として、今も高い人気を誇っている。
少年は、何度も繰り返し見ていた。
「いつか、僕も……」
自分の船で星航路を進みたい。
胸の奥が高鳴る。
その高鳴りは、いつだって少年の夢を後押ししていた。
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