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元悪役令嬢は、まだ恋を知らない  作者: 黒霧依織


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第一話 仕組まれた狂言と裏切り

物心つく前、私は祖父母の家で過ごしていた時期があるようです。

リデルが熱を出し、私の面倒は見れないからと

母が、実の祖父母にお願いしたそうです。


うっすらとしか覚えてないのですが…。


だからだと思います。

リデル中心で回る家より祖父母の家の方が居心地いいと感じるのは。


8歳の頃に母から面と向かって言われたこともありました。

「お前は、リデルと違って()()()がない」と。


そのときから、可愛げよりも完璧さを求め

父から領主の仕事を少しずつ教えてもらうようになりました。


今では、父に代わって仕事を任せられるようになりました。

そのおかげで、周りの家から

「ぜひ、うちの帳簿を見直してくれないか?」や

「君はまだ若いのに父親よりもすごいな!」など

沢山のお褒めの言葉をいただきました


そんな時に、第二王子であるハヤト様から

「ぜひ、俺の婚約者になってくれ」と言われたのです。


この時はうれしかったです。

ですが、王宮での仕事をしていくうちに

ハヤト王子は私ではなく、リデルを狙っていること

そして、私と婚約破棄をして、リデルと婚約しようとしていることに気づいたのでした。




そして16歳に成長したアストレア公爵家の長女タツキは、白雪姫のような肌に

妖艶さを纏った切れ長の瞳を持ち、夜の静寂を溶かしたような黒髪を揺らす。

その姿を見た一部の人々から

王国で最も恐れられる「悪役令嬢」の烙印が押されていた。




かつて、彼女には婚約者がいた。ミカエリス王国の第二王子 ハヤト。

タツキは彼との未来を受け入れ

公爵令嬢としての公務も完璧にこなしてきた。




しかし、その完璧さが、ある一人の少女の嫉妬に火をつけた。

タツキの双子の妹、リデル。


生まれた時から両親に溺愛され、望むものは何でも与えられて育った

リデルは極めてわがままで、姉の持つ「王子の婚約者」という肩書きすらも

欲しがった。




「ねえ、ハヤト様。お姉様はいつも冷たくて、私のことを見下すの……。

ハヤト様のことだって、本当は地位と権力しか見ていないわ」




リデルは潤んだ瞳でハヤトにすがり、息を吐くように嘘を重ねた。

そして、愚かにもその涙に騙されたのがハヤトだった。



「タツキ、お前の冷酷さには愛想が尽きた。

リデルを虐げ、王妃の座ばかりを狙うような心の醜い女など

我が妃に相応しくない!」




ハヤトはリデルの言葉を疑わず

タツキがリデルを害そうとしたという無実の罪を捏造。


一方的に婚約破棄を突きつけ

タツキを「悪逆非道な悪役令嬢」へと仕立て上げたのだ。


両親すらもリデルの味方をし、タツキは実の家からも見放された。




そして下されたのは、着の身着のまま過酷な国境を越えて隣国へ追放されるという

事実上の死刑宣告に等しい処分だった。




追放から数ヶ月が経った頃。

隣国シグルド王国の辺境の街にて




「ふぅ……。これで今日の分は終わり、っと」




粗末な布を頭に巻き、額の汗を拭ったのは

かつて高貴なドレスに身を包んでいたはずのタツキだった。




今の彼女は、かつてのような公爵令嬢ではない。


身寄りのない自分を助けてくれた宿屋を営む女将さんへ

せめてもの恩返しをしたいと思ったタツキは

短く切り揃えた黒髪を揺らし、宿屋の裏手で必死に薪を割り、荷物を運ぶ。

たくましい一人の娘と疑うものは誰もいなかった。



線の細い美しい容姿をしていながら、

その眼差しにはどんな逆境にも折れない強い光が宿っていた。




「タツキちゃん、今日も助かったよ! はい、これ約束の給金と、余った干し肉ね」

「ありがとうございます、女将さん! 助かります」




受け取ったわずかな硬貨と干し肉を抱え、タツキはふっと息を漏らす。




(ハヤトもリデルも、私が今頃、野垂れ死んでいるとでも思っているかしら)




あの国にいた頃は、王子の婚約者として、公爵家の長女として

常に完璧であることを求められた。


リデルが我儘を言えば、姉であるタツキが頭を下げて回り


リデルが病気だと騒げばタツキの予定はすべて後回しにされた。

ハヤトさえも、リデルの「お姉さまにいじめられた」という見え透いた嘘を信じ

タツキを冷酷な目で見下ろした。




恋だの愛だの、そんなものはあの国にはなかった。

あったのは、利用されるだけの義務と、理不尽な裏切りだけ。




「……あんなくだらない場所、こっちから願い下げよ」

タツキは小さく笑った。


冷たい地面に寝起きし、泥に汚れながら働く今の生活は、決して楽ではない。


けれど、自分の力で稼いだお金で食べるご飯は

あのみすぼらしい婚約者との晩餐会で口にした、どの高級料理よりも美味しかった。




誰も自分を縛らない。誰も自分を偽物呼ばわりしない。

タツキは、この地でようやく「自分の人生」を歩み始めていた。




その頃、彼女を追い出したミカエリス王国では

タツキという「有能な盾」を失ったことで

少しずつ歯車が狂い始めていることなど、今の彼女はまだ知る由もない。

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