第五話 反撃の時間
「ミカエリス王国を完全に包囲しました。
精霊の怒りによる飢饉と嵐で、あちらの防衛網はすでに崩壊状態です」
シグルド王国の作戦会議室。レンが、戦況マップの駒を動かしていく。
その隣で、ヒカルは軍服をまとい、静かに闘志を燃やしていた。
「タツキを傷つけた代償だ。
ハヤトと、公爵家の両親、そして妹のリデル……
罪を犯した者たち全員にきっちりと落とし前をつけさせる」
一方その頃、タツキはシグルド王国の王宮で、最上級の保護を受けていた。
王妃の手配によってふかふかのベッドと美味しいお茶
そして精霊たちが彼女の周りを優しく囲んでいる。
「タツキちゃんはここで、美味しいものでも食べてのんびり待っていなさい。
男たちの仕事は、大切な女の子の受けた泥をきれいに払うことなんだから」
王妃の温かい言葉に、タツキは胸を熱くしながらも
ヒカルたちの無事を祈って送り出した。
シグルド王国の軍勢がミカエリス王国の国境を越えた時、勝負はついていた。
ハヤトが率いる私兵など、ヒカルの率いる騎士団の前には赤子も同然。
さらに、ハヤトたちを狙う上位精霊が
シグルドの進軍を後押しするようにハヤトの陣営を叩き潰していく。
「くっ……、来るなっ! 私は第二王子だ! タツキを出せ!」
王宮の奥に追い詰められたハヤトは髪を振り乱し、命乞いをした。
彼の後ろでは、わがままに育った妹のリデルと両親が
精霊によって魔力を吸い尽くされ、ガタガタと震えている。
「往生際が悪いな。その汚い口で呼ぶな」
ヒカルの冷酷な声とともに、ハヤトたちの前に一人の青年が歩み出た。
ハヤトと同じミカエリス王国の王族の衣装を身にまといながらも
その佇まいは遥かに気高く、聡明な光を宿している。
彼の名は、ショウタ。
ミカエリス王国の第一王子であり、ハヤトの異母兄だった。
(ショウタの母はシグルド出身)
ショウタは、ハヤトや公爵家がタツキを「悪役令嬢」と追放した際
王宮の腐敗とハヤトの愚行に愛想を尽かし
タツキを正当に評価していた祖父母と元国王
そして自身の派閥と共に、静かに牙を研いでいたのだ。
「ハヤト、お前が本質を見誤り、我が国からタツキ嬢を追い出した時点で
この結末は決まっていたんだよ。自業自得だな」
ショウタは死んだ魚を見るような目で
床に這いつくばるハヤトを見下ろした。
「兄上……! 助けてくれ、私は、私は国のために――」
「国を滅ぼしかけたお前が言うな。お前たちの罪は
シグルド王国そして、精霊たちが許さない」
ショウタの合図とともに、シグルドの兵たちによってハヤトとリデル
そして公爵家の両親が捕縛されていった。
彼らは生涯、自分たちが犯した罪の重さに苛まれながら幽閉されることになる。
こうして、腐りきっていたミカエリスの中枢は一掃された。
何も知らず、タツキを信頼していた城下の平民たちや
タツキの祖父母には一切の手出しはされなかった。
シグルド王国と、新しくミカエリスの全権を握ることとなったショウタの間で
すでに戦後処理の密約が交わされていたからだ。
「ヒカル殿、レン殿。我が国の愚か者が
タツキ嬢に多大な苦痛を与えたこと、新国王として深く謝罪する。
これから、俺は一線を退いた父と共に協力して
この国を建て直し、シグルドとの永世友好を誓おう」
ショウタは真摯な面持ちで、ヒカルと固い握手を交わした。
そばで見ていたレンも満足そうに微笑む。
タツキを「悪役令嬢」として利用した者たちが完全に没落した一方で
ミカエリスは新国王ショウタのもとで、ようやく一歩を踏み出そうとしていた。
反撃を終え、すべての障害を排除したヒカルたちは
愛するタツキが待つシグルドの王宮へと帰還する。
物語は、いよいよ二人の「恋」へと向かって動き出す――。




