雷の檻
轟音が途切れ、雪煙が薄く晴れていく。
焼け焦げた氷の地面の上に、仲間たちは息を荒げて立っていた。
空気には鉄の焦げた匂い――雷の残滓が漂う。
ハルトが前へ出て、剣を構え直す。
「このまま押され続けたら、全員やられる……!」
リーナが矢を番え、目を細める。
「なら、隙を作る! 一撃でいい、私が射抜くから!」
放たれた矢が雷の檻を貫く。
雷光が爆ぜ、わずかに空間が揺らぐ――その一瞬に、ガルドが踏み込む。
「抜けろッ! 今だ!」
炎翔の大剣が唸りを上げ、雷鎖を断ち切った。
だが、鎖の切断面から新たな閃光が走り、爆ぜる。
ガルドの体が吹き飛び、雪の中を転がった。
「ガルド!」
セリスが駆け寄ろうとするが、雷の残滓が地を這う。
その瞬間、ヴェルグの声が響いた。
「無駄だ。雷は形を変え、永遠に巡る。抗うほど、鎖は強く締まる」
彼の姿が雪煙の向こうにぼやける。
青白い光が幾重にも連なり、氷の上に巨大な紋を描いていく。
その光が、仲間たちの影を縫い止めた。
「くっ……! 動けない……!」
リュシエルの足元に雷鎖が絡みつき、膝まで凍りつく。
リーナもまた矢を放とうとする腕を縛られた。
ヴェルグが静かに歩み寄る。
雷を帯びた鎖が、まるで生き物のように彼の周囲で揺らめく。
「氷冥王が求めるは、“静止した世界”。終わりなき安寧だ。
命の鼓動も、心の揺らぎも、すべてが凍りついた理想郷――」
「そんなもの……っ、世界の死と同じだ!」
ハルトが歯を食いしばり、鎖を断ち切るように剣を振る。
雷が弾け、剣身が焼け焦げる。それでも一歩も退かない。
「俺たちは……動くために生きてる! 痛みがあっても、寒さがあっても、前に進むために!」
その声に、セリスが顔を上げた。
杖の先が微かに光り始める――聖なる環が広がっていく。
「……光よ、今だけでも……この闇を断って……!」
杖を掲げた瞬間、まばゆい光輪が仲間たちを包んだ。
聖癒光環――限界を超えて発動した奇跡の一閃。
光が雷鎖を押し返し、凍った地面が砕ける。
眩い閃光が吹雪を貫き、仲間たちの視界を白に染めた。
「……撤退するぞ!」
ハルトの声に、全員が動く。
リュシエルが精霊の風を呼び、リーナが矢で道を開く。
セリスは膝をつきながらも杖を握り、最後まで光を保ち続けた。
やがて、彼らの姿が吹雪の向こうに消える。
残されたヴェルグは、無言で鎖を収めた。
「愚かだが……消えぬ火だな」
橙の残光を見つめながら、彼は小さく呟いた。
吹雪が再び荒れ、雷鳴が遠くの空で響いた。
雪原には、焼け焦げた鎖の跡だけが残された。