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白き道の果て

 夜明けの森を、白い霧が静かに包んでいた。

 鳥の声も聞こえず、ただ風が木々の間を抜けていく。

 その中を、五つの影がゆっくりと進んでいた。


 リーナは振り返り、遠くに霞む森の端を見つめた。

 そこには、オルドと過ごした焚き火の跡がまだ残っている。

 灰の匂いが風に混じり、胸の奥が少しだけ締めつけられた。


「行くんだな」

 低い声が背後から響いた。振り向けば、そこにエルフの王が立っていた。

 彼の瞳は柔らかく、だがどこか遠くを見つめているようだった。


「はい。……ここを守ってくれてありがとう、お父様」

 リーナの声はかすかに震えていた。

 王は微笑み、彼女の肩に手を置く。

「父としては、おまえを送り出したくはない。

 だが、“双紅弓刃”を選んだおまえの覚悟を、誰よりも信じている」


 その言葉に、リーナは静かに頷いた。

「必ず戻る。……この世界の秋を、終わらせないために」


 王はその瞳にわずかな誇りの光を宿し、

「行け。冬の果てには、氷冥王の理が眠る。――おまえたちの剣が、季節の均衡を取り戻すと信じよう」

 そう言って、ゆっくりと背を向けた。


 冷たい風が吹き抜ける。

 ハルトが長剣を腰に差し、雪雲のかかる北の空を見上げた。

「……冬の国。ここからが、本当の戦いだな」


 ガルドが肩に大剣を担ぎ、短く息を吐く。

「寒さも敵も、まとめて斬り伏せてやる」


 セリスは杖を抱え、目を伏せる。

「氷冥王――その名を聞くだけで、杖がわずかに震えるの。

 “星輪の杖”は何かを感じ取ってるみたい」


 リュシエルは短剣を確認し、静かに言った。

「春の理が眠る剣も、きっと試される。

 けど……みんながいるから、恐れはしない」


 ハルトは仲間たちを見渡し、微かに笑う。

「みんな、頼りにしてる。……この旅は誰かのためじゃない。

 俺たち自身の“今”を証明するための道だ」


 風が凍てつく匂いを運んだ。

 北の空に雪が舞い始める。


 リーナが一歩、前に出た。

「――行こう。冬の国へ」


 その背に仲間たちが続く。

 やがて森を抜け、白銀の山脈が遠くに姿を現す。

 氷の壁が陽を反射し、薄く虹色の光を返していた。


 その光を見つめながら、セリスが呟く。

「きっと、あの向こうに……この世界を凍らせるものがいる」


 ハルトは頷いた。

「なら、行こう。――“永冬”を、俺たちの手で止めるんだ」


 冷たい風が彼らの外套をはためかせる。

 その背後、秋の森が遠く霞み、ゆっくりと朝日に溶けていった。


 そして――彼らは、季節の境を越えていく。

 “永冬”へと続く、白い道を。


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