帝国騎士バルドス
バルドスは、西の大国ソルディア帝国に仕える近衛騎士だった。
その武勇は国中に轟き、帝国最強の剣士の一人と呼ばれていた。
彼にとって剣とは誇りであり、帝国と民を護るために振るうものであった。
だが――ある時、帝国を揺るがす反乱が勃発する。
その鎮圧命令を受けたバルドスは戦場に赴いたが、彼の前に立ちはだかったのは罪なき民を巻き込んだ“粛清”の命令だった。
王命と良心の板挟み。
彼は苦悩の末、王命に背き、民を庇った。
その代償は重かった。
忠義を尽くしたはずの帝国から「反逆者」として追放され、剣も地位もすべて奪われた。
「……これが、俺の忠義に返す答えか」
誇り高き帝国騎士は、その日を境に“裏切られた騎士”へと堕ちた。
絶望に彷徨う彼に、氷冥王ヴァル=ノクトが手を差し伸べる。
「おまえの剣に居場所を与えよう。帝国に捨てられた忠義を、我が理想に捧げるのだ」
バルドスは迷わなかった。
氷冥王の理想にこそ価値を見いだし、彼に忠誠を誓った。
その身に与えられたのは異形の大剣――《碧刃》。
灼熱と氷結という相反する理を宿した剣は、炎を凍らせ、氷を燃やすという矛盾を現実に変える。
振るうたびに大地は凍りつき、同時に灼熱の裂け目を刻み、いかなる防御も無意味にする。
その姿に、人々は畏怖を込めてこう呼ぶ。
――黒羽の幹部「碧刃」バルドス、と。
寡黙で冷徹。
彼は帝国に裏切られた憎悪を胸に秘めながらも、それを表に出すことはない。
ただ氷冥王の理想のために、全てを斬り伏せる剣として生きる。
だが――彼の過去を知る者はまだ生きていた。
かつて同じ帝国騎士団で剣を交え、互いに腕を認め合った戦友。
その名はガルド。
帝国に背を向けた二人の道は、やがて敵として再び交わることになる。
それは、バルドスにとっても、ガルドにとっても、避けられぬ宿命だった。