光の国の巫女リュナ
リュナは光の国に仕えた巫女だった。
その声は澄みわたり、人々は「女神の祈りを紡ぐ者」と呼んで敬った。
彼女自身も、声が女神へ届き、人を癒し、守るのだと信じていた。
だが、ある年――瘴気の波が国境を襲い、村々を飲み込んだ。
リュナは必死に祈りを捧げ続けた。
倒れゆく人々の傍らで詠唱を繋ぎ、涙を流しながら声を振り絞った。
けれど――届かなかった。
家族も仲間も、次々と瘴気に呑まれ、命を落としていった。
幾度声を上げても、女神は沈黙したまま。
喉は裂け、血をにじませても、誰一人救えなかった。
「どうして……? 私の祈りは……何のためにあるの……?」
疑念は絶望へと変わり、やがて信仰は砕け散る。
その時、闇は囁いた。
「女神が応えぬなら……おまえが“声”となれ。癒しではなく、呪いとして」
リュナは応じてしまった。
その囁きにすがらなければ、孤独に押し潰され、壊れてしまうほどに弱っていたから。
こうして彼女は巫女ではなくなった。
癒しと導きを与える声は、やがて人の心を侵し、力を奪う呪詛の声へと変わる。
黒羽に迎え入れられたリュナは、かつての祈りを嘲笑いながら、闇の力を振るう存在となった。
「私の声はもう、救わない。癒さない。ただ、壊すだけ……」
その瞳には、かつてセリスが憧れた“光”は、もはや影すら残っていなかった。