エルフの王
瘴気に覆われた結界が崩れ落ち、森の奥に隠されていたエルフの里が姿を現した。
黒に染まった木々とは違い、ここだけは秋の彩りを残していた。黄金色の葉が風に舞い、傷ついた仲間たちの心をわずかに和らげる。
村の奥、石造りの広間で彼らを待っていたのは――エルフの王だった。
銀に光る髪、深緑の瞳。揺るぎない威厳をまといながらも、その眼差しはどこか柔らかい。
「……よく来たな、リーナ。我が娘、そして――この国の姫よ」
王の声が静かに広間に響いた。
リーナはきゅっと双剣を握り、背筋を伸ばす。
「私は“姫”としてここに戻ったんじゃない。仲間と共に戦う一人の戦士として、この場に立ってるの」
王は目を細め、やがて深く頷いた。
「ならばこそ、《双紅弓刃》はおまえを選んだのだろう。……姫である前に、一人の戦士として」
その言葉に、リーナは静かに息を吐き、仲間たちを振り返る。
「私がここまで来られたのは……みんながいてくれたから」
セリスは笑みを浮かべて「当たり前でしょ」と言い、
ハルトは真剣な眼差しで「俺たちの姫は戦う仲間だ」と言葉を添える。
ガルドは無言で頷き、リュシエルは小さく微笑んで肯定を示した。
王は仲間たちに視線を移し、重々しく言葉を重ねた。
「――感謝する。我が国の姫を、ここまで導いてくれたことを」
そして表情を引き締める。
「だが黒羽は終わらぬ。“白氷”クロード。あやつはずっと冬の国に根を張り、氷冥王の右腕として暗躍してきた。王国の一部すら、すでに凍てつく領域に呑まれている」
セリスが息を呑む。
「……じゃあ、冬の国はもう……」
王は頷いた。
「危うい。あの男の存在そのものが、冬を終わらぬ季節に閉じ込めているのだ。春は訪れず、命は凍りつく」
ハルトは拳を握りしめ、まっすぐ前を見据える。
「……じゃあ行くしかないな。俺たちで止める」
リーナは双紅弓刃を握り、強い決意の光を瞳に宿した。
「姫である前に、戦士として。必ずクロードを討つ」