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紅の閃光

 瘴気の嵐が収まったその中心に、ヴェルネの姿だけが残っていた。

 黒衣の裾が風に揺れ、白い指先が再び炎を宿す。


「……ここまで辿り着いたことは、褒めてあげるわ」

 その声は静かで、だが耳を刺すように冷たい。


 セリスは杖を握り締め、息を呑む。

「巨影は……ただの試し、だったの……?」


 ヴェルネは薄く笑った。

「ええ。あなたたちが“隊”としてまとまったかどうかを見ただけ。

 でも――その絆ごと、ここで断ち切る」


 次の瞬間、地を裂く瘴気が奔流となって迸った。

 漆黒の炎が壁のように広がり、退路を閉ざす。


「逃げ場はない……!」

 ハルトが長剣を構え直す。


 ガルドは前に出て、大剣を肩に担ぎ上げた。

「なら、進むしかねぇな」


 リーナは双剣を抜き放ち、紅い光を宿す。

「……ここで終わらせる」


 リュシエルは瞳を細め、短剣を逆手に構える。

「必ず道を切り拓く……!」


 セリスは胸に星輪の杖を抱き、声を震わせながらも言葉を紡ぐ。

「……負けない。どんな絶望にも」


 ヴェルネの周囲に黒羽のごとき瘴気が広がり、空気そのものが軋む。

「さあ、始めましょう――“秋葬”の裁きを」


 赤黒い魔力が渦巻き、結界そのものが鳴動する。

 仲間たちは互いに頷き合い、それぞれの武器を握り締めた。


 ――決戦の幕が、今まさに上がった。


 ヴェルネの指先がひとつ、虚空をなぞる。

 次の瞬間、闇そのものが刃となって放たれ、一直線に仲間たちへ襲いかかった。


「来る!」

 ハルトが前へ出て、長剣で受け止めた。

 だが衝撃は鋼を砕くほど重く、膝が土にめり込む。


 背後から巨影のような影が滲み出る。

「くっ……! また瘴気を具現化して!」

 セリスが声を上げると同時に、リーナが矢を放った。

 紅い閃光が影を射抜き、立ち上がろうとしたそれを地に縫い止める。


 ガルドは大剣を振り抜き、正面の黒壁を叩き割った。

「どんな闇でも……斬り開く!」

 衝撃で瘴気が霧散し、仲間の前にわずかな道が開かれる。


 そこをリュシエルが疾風のように駆け抜け、ヴェルネへと斬り込む。

 短剣が閃き、頬をかすめて血が散った。


 ヴェルネは驚いたように目を細め、そして笑う。

「ふふ……面白い。けれど――まだ浅いわ」


 黒炎が渦を巻き、地面から無数の槍となって突き上がる。

 リュシエルは身を翻し、刃で受け流すが、間一髪でかわすのが精一杯だった。


 セリスが杖を振りかざし、震える声で詠唱を紡ぐ。

「――光よ、道を照らして!」

 聖光が走り、瘴気の槍を数本打ち砕く。

 だがすぐに新たな槍が形を取り始める。


「終わりはない……まるで、秋の闇そのもの……!」

 セリスの呟きに、ヴェルネは愉悦を含んだ声で応じた。


「そう。秋は朽ち、命を閉ざす季節。

 抗えば抗うほど、深く沈んでいくのよ」


 その言葉に、リーナが双剣を握り締め、声を張り上げた。

「なら――私は抗う! 何度でも!」


 紅の閃光がほとばしり、彼女の双剣から放たれた斬撃が瘴気を切り裂いた。


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