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試される希望

 ヴェルネの足元から、瘴気が脈動するように広がった。

 黒い根が大地を割り、木々は瞬く間に枯れては歪んだ影のように蠢き始める。

 結界そのものが敵意を持ち、仲間たちを呑み込もうとしていた。


「……地形まで……!」

 ハルトが驚愕に声を上げる。足場が崩れ、長剣を支えにして踏みとどまった。


 ガルドは巨体で大剣を支えながら、迫る黒根を叩き割る。

「道を作る! 踏みとどまれ!」

 割られた根は断末魔のような音を上げ、瘴気を撒き散らしながら消えていく。


 リーナは紅に光る双剣を握りしめた。

 瘴気に押されるたび、胸の奥に熱が溢れる。

 まるで刃そのものが怒りに共鳴し、力を求めているかのようだった。

「……あなたの思い通りにはさせない!」


 彼女の刃が紅の弧を描き、迫る影を裂いた。

 閃光は闇を焼き、瘴気ごと貫く。


 セリスは必死に詠唱を続ける。

 だが《星輪の杖》が淡く震え、視界の端に光の残響が走った。

「……未来の……断片……?」

 その一瞬、彼女の目に“仲間が飲み込まれる影”の幻が映る。

 背筋に冷たいものが走り、思わず声が震えた。

「みんな……気を付けて! 足元が来る!」


 警告と同時に、大地が崩れ、黒い口が開いた。

 影が触手のように伸び、リュシエルを絡め取ろうとする。


 彼女は短剣を閃かせ、一閃で断ち切った。

 息を整え、仲間を振り返る。

「セリスの言葉を信じて動いて! ……あれは未来を示している!」


 ハルトが頷き、長剣を掲げる。

「だったら、避けて進むだけだ! 俺たちならできる!」

 その声が仲間の心を揺さぶり、再び動きを合わせさせる。


 五人は互いの声と力を重ね、迫る結界の罠を突破していく。


 だがヴェルネは一歩も動かない。

 紅の光と聖の加護が闇を切り裂いても、ただ愉悦の笑みを浮かべて見下ろしていた。


「抗う姿は確かに美しい……けれどね、それは散りゆく秋の葉と同じ。

 最後は必ず地に落ち、朽ちて消える」


 その手が高く掲げられ、闇が奔流となって押し寄せる。


「来なさい――あなたたちの“希望”を試す時よ!」


 闇の奔流が大地を呑み、轟音と共に押し寄せた。

 黒い波が視界を覆い尽くす。


「来るぞッ!」

 ガルドが咆哮のように叫び、大剣を正面に振り下ろす。

 重い衝撃が波を割り、進路を開いた。


 そこへハルトが飛び込み、長剣を振るって残滓を切り払う。

「ここは通さない……絶対に!」

 その背に、リュシエルの短剣が疾風のように閃く。

 左右から迫る影を切り裂き、進む道をさらに広げた。


 セリスが杖を掲げ、声を震わせる。

「光よ……仲間を守って!」

 聖なる加護が薄い壁となり、瘴気の奔流を一瞬だけ押し返した。

 その隙に、リーナが双剣を交差させる。


「今だ……!」

 紅の光が刃に宿り、矢となって解き放たれる。


 仲間の力で作られた狭い道を突き抜け、紅矢は真っ直ぐにヴェルネへと飛んだ。

 闇がそれを阻もうと渦を巻く。だが――ハルトとガルドが声を合わせて斬り払い、リュシエルが鋭い一閃で残滓を裂いた。

 セリスの光が矢を導き、進路を照らす。


 紅矢は闇を突き抜け、ヴェルネの肩口をかすめた。

 黒衣が裂け、赤黒い血が散る。


「……っ!」

 ヴェルネの笑みが一瞬だけ凍った。


 その光景に、仲間たちは息を呑む。

 初めて与えた確かな傷――それは彼らの連携が“通じる”ことを示していた。


 リーナは肩で息をしながらも、双剣を握り直した。

「見たでしょ……これが私たちの抗いよ」


 ヴェルネはゆっくりと指先で血を拭い、再び口元を歪める。

「……なるほど。希望は確かに力になる……だからこそ、刈り取る価値があるのね」


 赤い瞳が再び燃え上がる。

 結界全体が震え、さらなる闇が渦巻き始めた。


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