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第六章 ユリ物語 主人公、リリー・ハロハロ

謎なんて知らなくていいんだよ……

姫様は考えるのをやめたんだ。

だって、もう面倒くさいことに巻き込まれるのが嫌なんだから。

 ダイアナ姫を発見した。

 こういうのを、日本では“棚から牡丹餅”って言うのかしら?

 私の名前は“リリー・ダイアナ”。ダイアナ姫の秘書官であり、影武者でもある。私の任務はダイアナ姫をアンノネノネから救出して帰国させることよ。

 七英雄も同じような任務を遂行しているようだけど奴らは救出どころか殺そうとしている…。いや、“奴ら自身”はそのことを知らないかもしれない。利用されているだけの殺し屋ってところかしらね? 私もその一人なんだけどね。

 『七英雄暗殺任務を遂行していれば、ダイアナ姫にたどり着く』と上官からアドバイスを言われていたけど、まさか本当に会えるなんてね…。

「リリー! 一体何してるのよ! 殺すなんて酷いじゃない!」

 !? 

 驚いた…

 なぜダイアナ姫は暗殺者を擁護するの? 敵に感化されてしまったの? 彼女はそんな性格だったかしら? もしかして…偽物? なんてね。本物かどうかなんてすぐに分かる。

 彼女には独特の“匂い”があるからね。

 ………

 ……

 …あれ?

 いつもならここでダイアナの突っ込みが入るんだけどなぁ…

 『私そんなに臭くないよ!』とか言いそうだったんだけどな~

「姫ちゃん?。あなたはいつから敵側についたのですか?」

「お、一昨日からよ…」

 呆れた。でも敵に脅されていたのなら仕方ないよね。

「ふーん。じゃ~、今は私達の敵ってこと? ここで殺しても誰も文句言わないのかな? 私は影武者だし~ 本物のフリはいくらでもできるし~」

 心にも無いことを言った。

「べ、別に…敵になったわけじゃないじゃん…」

 なぜかそう言いながら俯いてしまった。 

 ……あれ? 

 いつもと様子が違う。

 というか、もしもーし。ダイアナちゃ~ん。何か言わないとキスしちゃうぞ~。

 ……ほう。

 なるほど。

 これはこれはもしかして私の思考読めてない?

 ……どこかで魔力消失の術にでもかかったのかな? 

「ま、いっか」

 私は姫様にドッグタグを渡した。

「これは?」

「姫様を狙っている七英雄と呼ばれる連中の屍から引っこ抜いてきたの。こいつもその一人、他にもいるから気をつけなさいね」

 私はエドガーと呼ばれた男の屍の胸元に腕を突っ込み、ドッグタグを引き抜き、それも姫様に渡す。

「なんで私に渡すの?」

 まあ、分からないのも無理はない。というか、こういう時は思考を読んで欲しいものね。正直説明がめんどくさい。

「姫様。そのドッグタグをよく見て。そして、気が付いたことを述べなさい」


E・ラディ

アルフォード・A

C・エドガー

D・小林ゆう


 ちなみにエドガーを除くドッグタグは、全てドクター小林ゆうを名乗る暗殺者が持っていた。そして、このドッグタグには共通点があった。

「わかんない。Bがいればアルファベッド順に並べられるんだろうけど…」

 そう、アルファベッド分のドッグタグがあるのは間違いない。それは既に事前情報で知っている。だが、今気が付くべきなのはそこではないのよね。

「………あっ!」

 気が付いたようね…

「このドッグタグ…何か仕込まれてる?」

 ドッグタグの先端をよく見ると、切れ目が走っている。その切れ目を折ると…

 パキッ

 折ると言っても折れ曲がる感じで割るとは違う。折って端子を出す事ができるのだ。

「これってもしかしてUSB端子?」

「正解~」

「ということは………USBメモリー?」

 そう、このドッグタグ一つずつがUSBメモリーになっているのよね。問題はここにパソコンが無いからデータを見ることができない。タブレット端末でも持っている人でもいないかな?

 もっとも、あったとしても私はパソコン苦手だから誰かに見てもらうしか無いんだけど。

 あっ、勘違いしないでね。USBを差し込むとデータが見られることぐらい知っているよ? でもね、それはドライバーが既に入っているパソコンか、インターネットに繋がっているパソコンじゃ無いと駄目。そんなもの近くに無い。タブレット端末でも良いんだけど私が持っているのは『もしもしフォン』っていうお年寄り向けの携帯電話だし。

 というかネットして見たいんだけど給料が少ないのよね。いつも趣味のゲームや本を購入して終わっちゃうの。

 あーあ。どこかにタブレット端末持っている敵兵とかいないかな? そうすれば奪ってやる!

「あんた…いくら何でも外道はやめときなさい」

 心を読まれた。

 なんだ、読心術使えるじゃん。

 ばーかばーか。

「で、パソコンかタブレット端末がどこかに無かったの? リリーはここらへん偵察しているんでしょ?」

 何か突っ込んでよ! この姫様ったら飽くまでも心が読めないフリをする気ね…。

「この“倉庫”にはないよ。さっきまでここで小休止していたから」

 ここは安全かと思ったけどまさか2人も英雄が現れるなんてね。ま、どっちも弱かったけど。

 それにしてもこんな森の中じゃPCなんて無いでしょうね。一度撤退するべきだと思うのよね。

 ………チラッ

 …

 やっぱり心読めないの?

「とりあえず一度離脱しましょう。いつまでもここに居たらいつ敵がくるか分からないわ。ここから5キロ程北にランディングゾーンを確保してあるので、そこに行きましょ!」

 私がそこに行ってビーコンを設置すれば救援ヘリがくる手筈になっている。

「そうね。今は逃げることを考えましょう」

 姫様も納得してくれたようだ。

「では、行きましょう」

「………」

「姫さん?」

「………さよなら、エドガー」

 姫様は“エドガー”と言われる敵兵の亡骸に向かってそうつぶやいた。この敵兵と姫の間に何があったのか? 帰ったらお聞きしなくてはね。まさか………やったの? ねえ姫ちゃん? この男とやったの? 

 …

 うーん。これは心読めていない確定かな?

 

 倉庫の外は人一人居なかった。

 まるでこの世界に私達二人だけ取り残されたかのように。

 姫様は私の後ろにぴったりくっつくかのようにゆっくりとついて来た。だいぶ怯えている…帰ったらコーラでも出しましょう。

 コーラというのは姫の大好きな炭酸飲料水。つまりはジュースである。たまに温いコーラを明けて顔面に黒いジュースがかかる姫はエロい。そんな姫様をまた見たいものだ…

「リリー。リリー」

 小声で語りかけてくる姫。可愛いわね。ここが敵地じゃ無ければ抱き締めていたかもしれない。

「なんでしょうか?」

「何か食べるもの無い? 捕まっていた時はランチタイムを用意してくれたんだけど、エドガーに助けられてから何も食べていないのよ」

 随分やさしい敵だったのね…それとも女の子だったから?

 やっぱり姫様! 体を売ったの?

「……ヘルシーメイトならあります。抹茶味です」

「わあ、抹茶大好き! ありがとー」

「………」

 姫ちゃん…やっぱり心読めてないのね。何で黙っているのかな? それも含めて後で聞きましょう…。

「食べながらで良いので進みましょう。日が暮れてしまいます」

「…うん」

 歩きながら食べる姫ちゃんの貴重なシーン…そんなシーンを写真に撮りたい衝動を押さえて先に進む。というか、私の携帯電話にはカメラ機能が付いていない。その代わり一眼レフは持っているのよ? 姫ちゃんが水着を着て草むしりをしていた時に思い切って即買いしてしまった。その月はカップラーメンで過ごしていたのがなつかしい。

 そうだ! この任務から帰ったら、大統領に記念写真撮ってもらおう。娘を助けたんだからそれぐらいはしてくれるよね? 大統領って強くて優しいからきっと笑顔で撮ってくれるはず。

 しかしなんで大統領は自ら姫様を救出にこないんかな? あんなの強いのにね。やっぱりトップは動けないのかな? 

 乾いた草木を音を立てないようかき分けて奥へと進む。ランディングゾーンまでもう少しだ。

 そう言えば姫って簡単に攫われたけど…“アンノネノネ”が関与しているようには見えないのよね。攫ったなら何かすらアクションをしても良いはずなのに何もなかったし。知っている情報が七英雄は殺し屋で姫を狙っているってぐらいの情報しか分からなかったし…

 ……

 …

 あれ?

 何かおかしくない?

 私は一つの可能性を想像してしまった。

 相変わらず悪い癖だ…

 もし大統領が最初からすべて知っていたとしたら?

 いやいや、自分の娘が攫われたんだからそれはないか…。

 じゃ、なんで七英雄が姫を助けるのではなくて命を狙う殺し屋になったのか? 

 そりゃ、誰かに雇われたんでしょうね…アンノネノネに…?

 アンノネノネは何がしたかったの?

 攫う理由が身代金ならアクションもあるだろうけどそれすらない。では、なぜ攫ったのか…?

 そういえば、あの倉庫には大量の本があったわね。どこかの国の小説みたいだったけど、内容を確認して置けばよかったかな?

 いやいや、表紙を見る限りだと中身を見るレベルじゃなかったから見なかったんだよね…見とけばよかった。

 姫なら知っているかな? あの本はなんだったのか?

「姫様ちょっと聞きたい事が…」

「あ、広場だ…」

 そんなことを聞こうとしていたらいつの間にかランディングゾーンに到着した。

 …えっ?

 なんでヘリが待機しているの?

「うわ~、家のヘリだ! これで帰れ…んぐぐ」

 今にも 飛び出しそうな姫様の口を押さえながら茂みへと隠れた。姫様! お静かに! 様子が変です!

 姫様を凝視してそう思ったけど伝わらない。

 …あ、そうか読めないの忘れてた。

「姫様、静かに。様子が変です…」

 姫様の耳元に小声でそう囁いた。

 伝わったのか黙ってうなずいてくれた。

「はぅ…っ……で、何がおかしいの?」

 あくまでも小声で会話を続けた。これぐらいなら“奴ら”には聞こえていないようだ。

 私は黙ってバックの中から小型のビーコンを取り出した。

「それは?」

 姫様はそれを観察する。

 間違っても上部にある蓋を開けて中にある赤いボタンを押してはいけない。居場所を発信する装置なのだから。

「これは発信機です。姫様を救出したのち、ランディングゾーンを確保して押す手筈でした」

「じゃ、早速押そうよ。助けがくるんでしょ? …あれ? でもそうなるとあそこにいるのは…」

 ようやく気が付いたようだ。

「しばらく様子を見ましょう。何か変だし…」

 何が変って、まず呼んでもいないのにヘリが来ていることは勿論、ここからよく見えないんだけどあのタキシードは大統領の一張羅じゃないかな? 幸いにも姫様は。まだ気が付いていないようだ。

 大統領…やっぱり来ていたんだね。でもこの事を姫に言うのはやめておこう。何か胸騒ぎがする…まるで目の前にある事が全て“嘘”かのように…。

 あれは本当に大統領? 

「あ、あれ…パパじゃない?」

 しまった…。

「そうですね。でもまだ待ってください、様子が変です」

 冷静に返せた。

「う、うん…でもあれパパだよ…」

 そう言いながら、姫様は上目使いで、捨てられた子犬のような可哀想な表情をした。

 待って待ってよ。何でこんな時だけそんな可愛い顔できるの? 私には見せない表情だったわよ? そんなにパパがいいの? このファザコンが…。

「とりあえず待ってください。呼んでもいないのに来ているのはおかしいです」

 その時…

「そこにいるのは誰だ!」

 しまった! 

 見つかった。

 でも私は瞬時にとある行動に出た。

 「ここにいて様子見ね。大丈夫なら出て来てもいいよ」

 これだけを言って私だけ陰から出た。

 姫様にそれが伝わったかどうかは謎だ。

 というか伝わってくれないと困る。

 「わ、私よ!」

 姫様は後をついて来なかった。どうやら分かってくれたようね。こういう時のために私という“ニセモノ”がいるのだから。

「姫様が来たぞ!」

「姫様だ!」

 …あれ? もしかして勘違い?

 普通にいつも通りの反応ね… これなら大丈夫だと思…


 バァン!


 乾いた音がした。

 どこから撃って来たのかすぐに分かった。こういうことを恐れて警戒していたお陰で、直ぐに避けることができた。

 でも完全に回避することはできなかった…

「ッツ!」

 弾丸は左の肘を深く擦った。出血しているがたいしたことはない。

 たいしたことない、たいしたことないと思いながら逃げた。でも姫様のところではない。明後日の方向だ。

 バアン! バアン! バアン!

 銃弾が容赦なく私を襲った。流石に避けることはできずに私の“綺麗な”お肌に着弾する。

 赤く染まった衣装に着替えるとともに私はその場に倒れた。

 口からは失敗した口紅のように血を吐いていた。もう、しゃべることもできなかった。

「ひ…めさ…ま……」

 姫様逃げて! この場から逃げて! こいつらはもう味方じゃない! お願い…

 心を読めない姫に伝わったかどうかは謎。意識が消えて行く。

 もう死ぬんだ…姫様とキスしたかったな……

 

 グイッ

 不意に私の体が頭部の激痛と共に浮いた。誰かが私の髪をつかんで持ち上げている…

「………!?」

 持ち上げた人の顔を見て絶望した。


「すまない…娘よ」

 悲しそうに彼はそう言った。

 大統領…何でこんなことを……

 なぜ?

 何故?

 ああ、あの優しい大統領はどこに行ったの? 

 願わくば彼が…

「……まて、違う。こいつはダイアナじゃない! 影武者のリリーだ!」

 ちっ、流石に気が付かれたようね。まぁ…もう死ぬんだから関係ないけど。

「おい! 答えろ! ダイアナはどこだ!」

 綺麗な髪の毛を無造作に引っ張っているようだが、もう感覚はあまりなかった。ついでにいうと、私はこの時とても重要なことをすっかり忘れていた。

 ……そう、私は“人間じゃない”

 …

 何この超展開。受けるでしょ?

 私は簡単には死なないんだよ。

 だって姫様直属の護衛でもあって影武者だもの。

 今まで何度代わりに殺された、あるいは殺されかけたと思っているの?

 世間で「姫様は重症だが命に別条はない」と発表されている時に、本物の姫様は秋葉原の如何わしい本屋さんでバイトしていたわね。だから大統領も私がすぐに死なないことは知っているはず……

「おい、あれ持ってこい! こいつはすぐに蘇生する……ウイルスソフトを早く入れるんだ」

 ウィルスに感染した私は、さすがに蘇生が効かなくなる。

 その前にこの窮地を脱出しなくては……

 いや、子の窮地って脱出できるようなものなのだうか?

 確かに不死身だけど弾丸が当たれば痛いし、C4とか爆発物で70%以上のボディーが紛失すれば蘇生不可能になる。ウィルスソフトを入れれば100%蘇生不可能だ。どうやって逃げよう……!?

 私は目を疑った。

 大統領がウイルスソフトを用意させようと体を向こう側へと向けた時に偶然ヘリの中が見えたのだ。

 具体的に言うとヘリの運転席。そこに座っていたのは紛れも無く姫様だった。

 えっ……あれってひめ様? 逃げたんじゃないの?

 まさか、ヘリで逃げるからコレ貰うね的な発想に至ったの?

 そんなことしたらすぐに見つかる。

 というか、ヘリの操縦できるの?

 というか、なんでヘリの運転手が乗っていないの?

「オートパイロットモード・秋葉原へGO!」

 そう叫んだ。

 当然下りていた大統領と数名の部下にその声が届いた。


 カシャーン


 ヘリのドアがゆっくりと閉じた。

 姫様……グッジョブ!です。

 そのまま逃げて下さい。

 私はこの後ここのゲス野郎に酷いことをされると思いますけど姫様はここでの事を公に明かすのです。

「まずい! あれがダイアナだ! 撃て撃て!」

 

 ダダダダダッ


 オートパイロットモードを搭載したヘリは簡単に落ちることはない。

 しかも大統領。あなたが乗ってきたヘリですよ? そんなに簡単に穴が空くわけないじゃないですか…

「RPG7持ってこい!」

 大統領は部下にRPG7を持ってくるように命令。

「大統領! M202ロケットランチャーしかありません!」

「構わん! 撃ち落とせ!」

 いけない……そんなことしたら……!?

 大統領の部下はロケットランチャーを構える。

「撃て!」

 ドン! 

 弾は無残にも撃ちだされた。真後ろへと…。

 やった! あいつらやっぱり馬鹿だったか…私は奴らがロケットランチャーを逆に持っている時から例の映画のようなシーンを期待していた。まさか本当にやるとは…

 撃ちだされた弾は後ろにある木々に命中して一瞬にして炎の森となった。と、同時に姫様のヘリは離脱開始していた。

「ギャァアアアアア」

「熱い! 助けてぇええええ」

「何やっているんだ! 逆だ逆! おい聞いてるのか!」

 M202ロケットランチャーを撃った本人は衝撃で倒れた木に押しつぶされていた。

 奴らがどうなろうと良い。姫様どうかご無事で……

 私は徐ろに姫様のヘリに向かって手を伸ばした。

 “助けて”という意味では無い。敬礼をして見送りたかったのだ。

 疲れきったのか、私は直ぐにその手をおろした。

 その時、地面に下ろした手が、なにか冷たいものにあたった。筒のようなもの……それを理解するまでに少し時間がかかったけど、向こうへと続いているその筒状のものがどんどん空へと上がっていくのを見て私はひとつの可能性を見出した。

 もしかしてコレって……

 ヘリがどんどん上がっていく。私はその筒をしっかりと持った。力強く、最後の力を使って…

 


 ……

 …

 空を飛んでいた。

 私は死んだのか。

 人間じゃないけど死というものはあるのだろうか?

 同時に温かい手の感触…

「……リー、り……リー!」

 誰かに崖から引きあげられていた。

 天国って崖の上にあるの?


「リリー!」

「……ハッ!」

 私は現実を見た。

 やけに足元が熱い。そうか、下は地獄だ。早く這い上がらないと。

 私を崖から引っ張ってくれたのは姫様だった。

 私を助けてくれたのだ…よね?

 そう思いながら辺りを見渡す。

 あれ? ここってヘリの中?

「大丈夫? 良かった良かった。まさか“つかまっていた”なんて思わなかったよ~」

 後ろを振り返る。そこは炎の海だった。

 いや、“炎の森”だった。

 私はようやく理解できた。どうやら思考回路がショート寸前だったようだ。

 私が偶然捕まっていたのはヘリから出しっぱなしになっていた縄梯子で、それを私が無意識で掴んでいたみたい。

 なんであんなもの出しっぱなしにしていたんだろう?

 どちらにしても私は助かったから良いんだけどね。

「あ、そういえば大統領はどうなったの?」

 あの火に囲まれていたから生きているとは中々思えない。

「分からない。見ていないし。正直言うとリリーを見捨てて逃げようと思ったから」

 こっちを見て苦笑い。全く可愛い。だが、それがいい。

「それでいいんですよ。奴らロケットランチャーをヘリに撃ち込もうとしていましたからね」

「ええ! ほんとそれ!」

 見えなかったのか……無我夢中だったのね。



 ヘリは自動操縦で運転中。

 このまま行くと秋葉原に着く前に燃料が切れるわね…

「姫様。これからどうするんですか? アンノネノネと戦うのですか?」

 ヘリに備え付けられている冷蔵庫の中のアドヴァイザーを飲みながら微笑む。

「ううん、このまま誰も居ないところに逃げてひっそり暮らすの…」

「へっ?」

 驚いた。私はこれからの戦いについてどうするか色々と意見を聞きたかったのだが……まさかの逃げ。

「だって、闇の組織と戦うのなんて面倒くさいし、ダイアナはあの森で死んだってことにすればいいでしょ?」

 ……あ、なるほど。

 でもそれって結構な重大ニュースになると思うけど。

 ついでに大統領もあんな状況だし。

「大統領が生きていたらどうするんですか?」

「生きていたらあの人は死んだことにすると思うよ、世間ではね……だからこのままどこか知らない土地に逃げてひっそり暮らすの」

 姫様は徐ろにナイフを取り出した。

 ま、まさか自害!

 しかし、そのナイフを束ねた髪に当てると、おもいっきり切り落とした。

 姫様の髪の毛が綺麗に宙を舞う。

「新しいダイアナの誕生~」

 そんな姫様も綺麗だった。

「姫様! 私も付いて行っていいですか?」

 ……えっ、私ったら何言っているの!

 しかし、そんな姫様を見ていたら言わずにはいられなかった。

 姫様はちょっと不機嫌な顔をした。

 あー、やっぱりダメだよね。

 私はこのままヘリから飛び降りようかなと考えていた。

「もう……ダイアナって言えないの?」

「へあっ?」

 考えていたことと全く方向性が違う答えが来たので、思わず変な声を出してしまった。

「姫様はもう死んだの。だから私のことはダイアナって呼びなさい」

 ああ、そういうことね。ちょっとびっくりしちゃった。

「ダ、ダイアナ……」

「リリー……行こう! 私達の百合の楽園へ」


こうしてひとつの物語は幕を閉じた。

悪の組織に立ち向かうのもいいが、そのためにリスクを負う必要はないという考えもまたひとつの人生。

彼女たちは無事とある楽園へ辿り着き。“暫くの間”は平和な日々を送ったのだった。


ここまで読んでくださってありがとう。

リアルで昇格とかしていて地味に忙しくってあまり書く余裕なかったので……

ぶっちゃけ打ち切りエンドです(笑)

しかし謎が多い作品になっちゃいました。

もしかしたら伏線になるかも?

まぁ……今回の話の文中でものすごいわかりやすい伏線張っているんですけどね。

それはまた今度……機会があれば。

一応色々と伏線用意しておいたから、私に元気があれば別の話を書きますが(笑)

お疲れ様でした。

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