『二章』間話 銀の再生
「……ギン?」
英霊魔法を解き、セイラはか細く呟く。
ティアエルを撃破し、ギンを抱いた時に彼女の耳を打ったのは弱々しい小さな命の鼓動だった。
「ギン、ギン!そうだ、そうだギン!死ぬな、死ぬんじゃあない!お前はこんなところで死ぬやつじゃない!「死」なんかに負けるな、ギン!」
必死に、それこそギンの命を意地でも引っ張り上げるようにセイラは彼を呼ぶ。
セイラの言動にアルストは目を見開き、ズタボロの体を無視して走り寄ってきた。
「ギンスマくん、しっかりしろ!仲間を死んで守ればカッコいいって思うのは当事者だけだ、残された者には深い悲しみを与えることになる!お前はそんな小さい男じゃないだろう⁉︎」
セイラとアルスト。
二人の声が、思いが、ギンの帰りを願っていた。
それが答えだった。
ギンはずっと、自分は本当の仲間じゃないと一人で勝手に思っていた。思い悩んでいた。
だって、ギンは犬だから。
みんなとは違くて、戦えなくて。だから自分の命の代わりに誰かを守ることが出来たなら、その時ようやくギンは本当の仲間になれる。
でも、そんな彼に言ってやりたい。
ーーそんなはずないだろう。
アカネが、ハルが、ユウマが、セイラが。
犬だからっていうつまらない理由で。
戦えないからっていうくだらない理由で。
守れないっていうチンケな理由で。
一方通行の仲間意識を与えるわけないじゃないか。
もしそうだとしたら、ギンが刺された時にセイラが泣くものか。
あの、セイラが泣くものか。
捨てられるわけがない。
見限られるわけがない。
遠くになんかいない、いなかった。
「ギン!」
みんなはずっと、近くを歩いてくれていた。
「ギンスマくん!」
じゃあ、もっと一緒にいたいって願うのは、悪いことじゃないのかな?
仲間って、思ってもいいのかな。
みんなみたいに、派手に戦うことはできないけど、一緒にいたいって思ってもいいのかな……?
「……バカだな、ギンは」
震えた声が、聞こえた。
ゆっくりと、その目が光を捉えた。
同時に、顔に温かい水滴が落ちてきた。
「ずっと、そんなことを考えていたなんて。私たちが、お前をそんな風に見てるわけないだろう……っ」
どうやら、ギンは知らずに自分が抱いていた思いを口に出していたらしい。
激痛が身体を走る中、ギンは見る。
初めて、見る。
セイラが、泣いているところを。
「……せい、ら」
「私は、私たちはっ。ギンが死んだら悲しいよッ」
ポタポタと、涙が落ちてくる。
とめどなく、涙が落ちてくる。
あとからあとから、涙が落ちてくる。
「……おれ、みんなを、守りたかったッ。仲間って、認めてもらいたくて……ッ」
「仲間だよ。ギンはずっと仲間なんだよ。出会った時からずっと、ギンは私たちの仲間なんだ。自分だけは仲間じゃないなんて、そんな寂しいことを思わないで、ギンっ。……だから、だからさ……」
そこでセイラは言葉を切ると、ギンを優しく、愛しく、丁寧に、抱き締めて、言った。
もしかしたら、ギンがずっと思っていたかもしれない本音を。
それに似た、悲しさを。
「私たちを、置いていかないで……」
ーーひとりにしないで。
その言葉を聞いて、その声を聞いて。
仲間じゃないと勘違いしていた〈ノア〉の一員は、静かに涙を流した。
わんわん泣いたってよかっただろう。
だけど、静かに泣いた。
セイラと同じように、泣きたかった。
そんな『二人』を、アルスト・ウォーカーは何も言わずに、小さく笑いながら見守り続けていた。
綺麗な「涙」だと、そう思いながら。
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仲間とは一方通行ではない。
片方が心からそう思った時、既に
仲間は仲間同士になっている。
ーー『友との歩み』より
ロイ・サルファン。




