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最後の異世界物語ー剣の姫と雷の英雄ー  作者: 天沢壱成
ー泥犁暗殺篇ー
78/193

『二章』㉒ 大切なものは

 

 ーーお兄ちゃん。



 ::::::



「クハハハハハハ!どうしたどうしたどうしたァ!?さっきの威勢はどこいったンだよ三下ァァァァ!!」


「ぐ、がぁ!?」


 爆発の球体がハルの体に直撃した。派手に吹っ飛ぶことはなく、完全に掌握された爆発の威力は変に拡散されることなくハルの肉体にダメージを与える。

 服は破れ、腹部は火傷に侵された。


 「カッコつけておいて、結局はこーなンだよなァ!身に余る力、似合わない言葉ってのも考えものだな、真六属性アラ・セスタァ!!」


 好き放題言いながら、レイスはハルに次々と爆発を叩き込んでくる。

 避けようとすればその回避地点に爆発を叩き込まれ、迎撃しようとすればその前に爆発が吠える。

 爆発の嵐。

 魔法を使う隙はなく、反撃する時間はなく、防戦一方のまま防御に意識を割かなくてはならない状況が不覚にも続く。

 

 これが、レイスの本気。

 S級罪人の真骨頂。


 「死獄明聖しごくめいせい


 「ーーーー!」


 森を横断するように吹っ飛ばされたハルに追いついたレイスが、彼の真横で不敵に笑う。

 瞬間、ハルに向けられたレイスの右手に悪魔の顔を模した爆発の集合体が生まれる。包み込まれる。

 直後、その爆発の悪魔が容赦なくハルの全身を喰らい尽くした。

 クリーンヒット。轟音に重なる轟音。眩い発光。森が燃える熱さ、炎の煌めき。


「ガ、アァァァァァァ!?」


「クハハハハハハ!もっと泣け、喚け、叫んで絶望しろ!オレとテメェの力の差に!」


 自分の勝ちを一ミリたりとも疑っていない強者の声が破壊にまみれる森に響く。

 ハルは歯を食いしばり、文字通り血を吐きながらも砲弾と化した自らの体を停止させる。

 地面を滑るように着地し、レイスが来ていることを気配だけで感じ取り、顔を上げると同時に雷撃の槍を投擲とうてきした。

 

 「ハッ!遊びかよ!」


 「そうでもねぇさ」

 

 片手を払うだけで雷槍を弾き飛ばしたレイスが余裕の表情で笑い、しかしハルは驚くことなく平然とそう言ってのけて拳を握る。

 雷槍を放った瞬間、それに紛れるように飛び出していたハルがレイスの眼前に躍り出ていた。

 


 雷拳が、遅くなった時間を吹き飛ばしながらレイスの顔面にーー、


 「歯ぁ喰い縛れ!!」


 「ご、がらばぁ!?」


 爆進してきたレイスが、ハルの拳の直撃を受け、反動によって盛大に吹っ飛んだ。

 木々を薙ぎ倒し、地面を何度もバウンドしながら転がる。

 

 「が、が、ぐが……っ。クソ、野郎がァ!」


 「お前はなんでドロフォノスに協力する」


 ザッ、と。レイスの前に立ってハルが訊いた。

 泥犁島ないりとうに来て、こうして罪人の相手をすることは想定外の展開だ。

 本当だったら今頃温泉街にいたかもしれない。

 でもこうなった以上、この緊急事態は見過ごせない。罪人が脱獄しているのなら、外には出すわけにはいかない。

 


 それがS級罪人なら尚のこと。

 それが、ハルの理由だ。戦う理由だ。


 では、レイスはどうだろう。

 彼はS級罪人で、おそらく長い間牢獄に閉じ込められていたに違いない。

 そう考えると彼が外に出たい理由としては十分だ。こうして脱獄を阻止しようとするハルたちと戦うのも頷ける。



 だが、レイスと戦って、少なからず言葉を交わして思った。


 この男が、他人に命令されて動くとは思えない。プライドが高く、自分に自信があって。そんな男が、何故ドロフォノスに協力する?牢獄から解放してもらったからか?

 

 可能性としては、ない話ではない。

 だが解放された瞬間にこの男は自分がやりたいようにやりそうだ。

 『その後』に力を貸すのは、少し違和感を覚える。


 「お前は強い。だからわかんねぇ。なんでこんなに強いお前が、ドロフォノスに協力するんだ。……ドロフォノスは、「お父様」ってやつはお前が従うほどだってのか」


 「………寝言言ってンじゃねェぞォ」


 鼻血を拭き、低い声を発しながらレイスは立ち上がる。

 正面から、ハルを睨んだ。


 「オレはドロフォノスに協力なンかしてねェ。オレがここに残ってテメェらを殺してェって思ったからここにいンだ。オレはオレの魂に従ってここにいンだよ。テメェがオレを知ったような口で語ってンじゃねェぞ」


 「お前がここに残るって選択をすること自体が、ドロフォノスの思惑で、掌の上かも知れねぇだろうが!」


 「ちげェなァ!オレの考えはオレだけのモンだ!誰も踏み込めねェ!」


 「土足で上られてんのが分かってねぇのか!お前は完全にドロフォノスに踊らされてるぞ、レイス!」


 「言ったはずだぞ真六属性アラ・セスタァ!テメェがオレを語ンじゃねェってよォォ!!」


 元より言葉が通じる相手ではない。ハルの声が届く奴でもない。

 レイスは怒りを露わにして魔力を荒々しくし、爆発の威力を纏って突進してきた。

 それをハルは迎え撃つように拳を構え、雷を纏う。

 激突。

 拳と拳が重なり、不可視の衝撃波が拡散、爆発と雷が荒れ狂った。



 互角の勝負であった。

 ハルは手加減をしていない。間違いなく本気で戦っている。手を抜けば死ぬと分かっているから、出し惜しみなんてしていない。

 


 それに、蓮爆エクリクスィもまた本気であるのがわかる。拳を交わすごとにビリビリとそれは伝わってくる。

 

 「晴天霹靂せいてんへきれき雷龍らいりゅう!!」


 「曇天爆靂どんてんばくれき爆龍ばくりゅう!!」


 ゴア!!!!と。

 雷の龍と爆発の龍が正面から激突した。その余波は尋常ではなく、辺り一帯を簡単に吹き飛ばし、更地とした。



 ハルとレイス。

 二人は互いの技の衝撃に負けて吹き飛んだが、ハルだけはすぐに体勢を整えてレイスに殴りがかった。

 

 「お前がなにをして、何人殺して、誰を殺したのか俺は知らねぇ!」


 「ごガァ!?」


 殴る。

 蹴る。

 雷を発動する。

 直撃する。

 

 「お前がここにいるってことは、S級を名乗るってことは相応のことをしてきたんだろ!それは許されることじゃない。絶対に間違ってる。だけど!!」


 雷漸らいぜんを喰らわせ、反撃の暇を与えることなくハルは攻撃を畳み掛ける。

 雷拳が、顎を撃ち抜いた。


 「ぶろばぁ!?」


 「お前が強いことは事実だ!S級の中でもお前は群を抜いて強い!だからわかんねぇんだよ!お前が、お前ほどの男が、どうしてドロフォノスに力を貸す!?お前なら、俺たちに構わず逃げることだって出来たはずだ!ドロフォノスなんてぶっ飛ばせて、仮初かも知れないけど自由ってやつを手に入れられたはずなんだ!……なのに、何でお前はこんなところにいやがるんだよぉ!!」



 別にそれに拘るつもりはなかった。

 どうでもいいかと訊かれたら、どうでもいいと答えるかもしれない。

 レイスは罪人だ。「S」がつくほどの、救いようがない悪人だ。エマを侮辱した許せない相手だ。

 なのにどうしてこんなに腹が立つのだろう。どうしてコイツがドロフォノスに従って動いていることに対して、苛立ちを覚えるのだろう。

 決まっている。

 

 ーーエマと重なるからだ。


 あの時、エマの体を乗っ取った「女」。



 エマは自らあいつの手を取ったのかも知れない。だけどエマの願いはエマのもので、誰も入り込める隙なんてなかった。

 それをあの「女」は歪めた。自分のレールに乗せて、他者が進むべき本当のレールをぶち壊して歪めた。

 誰かを利用して何かを成そうとする奴は、どうしても許せなかった。納得ができなかった。


 罪人だけど。

 悪人だけどさ。

 間違っているけどさ。


 ーー自分の願いを、何者かの掌の上で踊らされてほしくなかったんだ。

 

 こんなに強いんだから。

 

 「お前が外に出て一番最初にやりたかったことは、俺たちと戦うことなのか。誰かに利用されることなのか!!」


 「が、あぁ!?」


 雷拳を二発顔面に叩き込み、体勢が崩れたところで真上から雷を落とし、気を失いかけてるレイスを雷撃の槍で貫いた。


 「外に出て、牢獄から解放されて!お前が一番やりたかっことは、何なんだ!!」


 雷は纏っていなかった。

 派手に吹っ飛ぶこともなかった。

 ただ、なんの変哲もない拳が同年代の、罪人の少年の頬を捉えてーー。


 その時。

 蓮爆エクリクスィと呼ばれる少年の脳裏を過ったのはーー。


 ーーお兄ちゃん。


 「ーーーーっあ」


 ーー一番最初に殺した、妹の声だった。

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