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涙を数え上げる
いままで泣いた瞬間を思い出す
ひとつひとつ
数え上げるように
もう二度と
思い出さないかのように
思い出す
弁明できない涙
自分の
醜い行為が
何年も経って
追いついた
死神のような涙
自分は死ぬべきだと感じるたびに
思い出す涙
思い出す
思い出す
こころよりも言葉よりも先に
流れた涙
身近な人も死ぬ
日常は破れる
死は実在する
夢よりも遠いなにかではない
やがて死がだれをも襲う
他人が死ぬのをおそれるたびに
思い出す涙
思い出す
思い出す
流さなかった涙
流せなかった涙
なによりも哀しみたかったのに
離れて別れて
胸が痛くて
それでも流れなかった涙
泣くことで忘れられるなら
泣くことで忘れてしまうのなら
泣くことで哀しみが終わってしまうのなら
自分は泣きたかったのか否か
記憶に存在しない涙
痛みが痛んで痛むたびに
思い出す涙
思い出す
死ね、涙
そう言いたくて
思い出したのか?
数え上げたのか?
忘れないために
忘れるという抗いに抗うために
思い出したのか?
長い夜に




