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民間軍事国家2

 二〇七五年、中央アフリカにて「社員に不当な理由で非人道的な犯罪行為を強いた」事を理由とした傭兵達によるクーデターが発生。戦力をPMCに頼り切っていた諸国家及びゲリラ勢力は次々に陥落し、長年続いた紛争は武力によって終結を迎えた。

 勢力の鎮圧が終わると、クーデター首謀者であるブラック・サンズ社CEOをはじめとするPMCの経営陣や、クーデター派の理念に呼応した先進国の政治家経験者によって空白化した土地を領土として建国が宣言された。

 新自由国家同盟。自由が失われた世界で唯一の避難所。それを世界に向けて宣言したのだ。

 無論、これは単なるクーデターではない。新自由国家同盟は各先進国に潜む“投資家達”に反発する勢力から妨害・束縛される事のない、自由のために創られた国家なのだ。

 “投資家達”の根回しによって、世界各国から歓迎の声を受けて誕生した新自由国家同盟。

 やがて、クーデターを主導したPMCは新自由同盟首脳部の指示の下統合され、軍隊に代わる一つの組織となった。

 ギャルド(Gardes)モンド(Monde)。“投資家達”の私兵であると同時に、大国二つ分の軍隊と渡り合う武力を持つ民間軍事会社(PMC)ならぬ、民間軍事国家(PMC)である。



◇ ◇ ◇



 集合地点のテントでは、ギャルド・モンドの実質的リーダーであるマックが仏頂面をしていた。手には愛用しているMD85バトルカービンがあり、二人が到着した直後にマガジンを装填した。

 メガロドンがテントを見渡しても、他の隊員の姿はない。

「マック、他の連中は?」

「二人応答なし」

「あの変態女どもだな」

 椅子の背もたれに体重を預けながら、ギュスターブは言った。このチームは他のTF101隊員とは違い、ギャルド・モンドでも同じメンバーだった。ゆえに、全員の性格を熟知しているのだ。

 同僚達が何をしているのかはさておき、直前の連絡では仕事の時間だと召集を受けていた。なら彼らがやるべきことは一つだ。

「仕事の特徴は?」

「廃村の調査だ。詳細なブリーフィングは、チーム全員が準備を終えてから行う」

 感情を隠した声色。これはお冠だなと即座に把握した二人は触らぬ神に祟りなしと、獲物をケースから取り出して点検を始めた。

 メガロドンはAR-15サービスライフルのクローンモデルであるMW-4カービンを愛用していた。ベースとなったAR-15は一〇〇年以上前の設計だが、国軍の特殊部隊はもちろん、彼らのような傭兵にも愛用されていた。

 優秀な機械というものは、一〇〇年経とうが細かな改造を受けながら使われ続けるのである。

 一方ギュスターブはというと、二〇〇〇年代のガンマニアが見れば怪訝な表情をすること請け負いの不気味なブルパップ・ライトマシンガンを取り出した。

 一〇年代、どの部署かは不明だが、とあるスペツナズがCQB向けに6P41軽機関銃の小型軽量化というかなりの無茶ぶりを要求した。この不可能に思える要求に対して、馬鹿正直に設計局が導き出した結論がブルパップ化、即ち機関部を引き金の真上にまでずらすという、実にロシアらしいものであった。性能そのものが良好な辺りも実にロシアだ。

 その流れに便乗してか、一〇年代後半期には様々な軽機関銃のブルパップ化が始まった。ギュスターブが持つF6DA軽機関銃は、数ある便乗ブルパップLMGの一つである。

 南アフリカの新興兵器メーカーが開発したF6DAは全長九五〇ミリ、重量六五〇〇グラムと軽機関銃にしてはコンパクトかつ軽量だ。

 しかし、いくら小型軽量だからといって甘く見てはいけない。強力な七・六二x五四ミリロシアン弾を八〇発入りの布製弾倉に装填し、銃身は八〇〇発の連続射撃に耐えられる。正真正銘、高火力な機関銃なのである。

 手前斜め一三五度傾いた弾倉からベルトリンクされた弾を引きだしてセットすると、フィードカバーを閉じた。

「あのおばさんズまだ来ないのかよ?」

「更年期なんだろ」

 はははと二人は笑いあった。同じくマックも顔を伏せて、密かに笑みを浮かべていた。

 しかし噂をすれば何とやら。

「お若い二人は元気そうで何よりですね」

「あんたたちと違って、私たちはメンテナンスが必要だからね」

 入口を潜ったのは、一人目は南米系の女性だった。ただし、眼孔にはめ込まれた眼球は白い人間のそれではなく、黒くてつやがないカメラのレンズのような無機物だった。彼女はママキーヤと呼ばれるギャルド・モンドの傭兵でスナイパーだ。

 しかしもう一人はというと、人種以前にもはや人間の姿ではなかった。全身が黒や灰色の無機物で構成され、人らしい要素は直立二足歩行と会話が行える程度でしかない。

 彼女はウージー。同じく傭兵であり、そして完全なロボットではなく、自身の有機脳を持つ紛れもない人間である。

「メンテナンスがあるならそうと、事前に言え」

 たとえ理由があろうと、遅延が出るのなら連絡を行うのは当然。そう言いたげなマックは不機嫌そうに言う。

「仕事に万全の態勢で臨んではいけませんか?」

「報連相を欠かすのはそれ以前の問題だ」

「ごもっともです」

 恐らく、ウージーに唇があればとがらせていた事だろう。遅れた事に対して感じるものはないらしく、女性二人組はマイペースにも自分の獲物を組み立て始めた。

 ママキーヤはいつものように笑顔を張り付けているが、ウージーの思考を読み取るのは極めて困難だ。彼女の感情を把握するには、センサー類とカメラが搭載されているだけの、表情筋さえない頭部を見たところで意味はない。無論、声色も感情に左右されずに変えられるので、果たして冗談なのか本気なのか、判断に困ることが度々ある。

 人工眼球の移植。

 脳以外すべての機械化。

 彼女達をこの場に立たせているこれらの技術は、先進国ではすべて禁止されている。非人道的な研究さえも黙認されている新自由国家同盟ならではだ。

 最後にママキーヤがXSR-1レールスナイパーライフルを組み立て終えると、マックは頃合いと判断した。

「俺達の仕事は偵察任務だ。間近の集落と、ここニュー・ノバスコシアとの間にある廃村を調査する」

「マジかよ、じゃあお楽しみなしか?」

「下らない理由で戦争を起こすなよ」

 ギュスターブは露骨に落胆してみせた。彼はギャルド・モンドの傭兵らしい戦争中毒者なのである。

「装備はいつも通り、交戦規定は基本応戦のみ。他、何か質問は?」

 手が挙がる事もなければ、異議も出ない。即ち、問題はないという事だ。

「よろしい。じゃあ準備が整い次第、出発だ。今度こそ遅延はなしだぞ」

「おう!」

 今回ばかりは、静かな隊員達も威勢よく答えるのだった。

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