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PAGE.10

駆け足ではありますが、この話で完結です。

お読み頂きありがとうございました!

 それからは大忙しだった。彼女たちの結婚式の準備を超特急でしながら(領主の結婚式なのに準備期間がとんでもなくでもなく短かったのだ!)、国王に面会したりして、ある程度の下地はつくりあげた。

 あとは、本格的に名乗りを上げて、従兄を当主の座から引きずり落とすだけ。

「……じゃ、いくか。」

 教会の鐘の音が鳴りやんだ。俺は芝生から起き上がると、奴らを振り返った。

「お前らはどこまで付いてくるんだ?一応もう陛下に免状貰ったから、案内必要ないぜ?」

「我らはこのままアレク様直属の隠密になれとの命が下っております。しばらくの間は王宮の間との連絡もお任せ下さい。」

「ふーん、よっぽど俺を大切に思ってくれてんだな、あのおっさん……。」

 それは国の利益などもあるかもしれないが、一応俺の事を考えてくれてるのだろう。

「さて、ついたらまず俺も結婚式か。相手のお姫さんってどんな娘だっけ?」

「陛下の二番目の王女……カ―ナ・エリ・ハーシェ様でございます。見目麗しく、幼いころから陛下の教育を受けていらしたので、貴婦人としての教養はもちろん、政治についてもとても慧敏です。……ただそのせいかその少し女性にしては、その……」

 彼らが少し言いにくいように口ごもった。

「気が強いってことか?いいさ、俺は賢い女の方が好きだし。……政略結婚とは言え、仲良くしていきたいな。」

 それだけ賢い女性ならきっと、自分の結婚が国の手札の一つである事も承知していたに違いない。けれど、結婚する以上、お互いに大切にし合えたらいいと思う。

「……それで、そのカ―ナ様から伝言をお預かりしているのですが」。

「へえ、どんなだ?」

「___私は心が広いから、あなたの感傷なんて気にしない。でも隣で自分を憐れんでるやつがいるのは腹が立つの。大切なものを傷つけるのが怖くて、切り捨てようと考えるような根性無しとは私結婚する気ないわ。___だそうです。」

「……なんで知ってんだ?俺の気持ちとか考えとか。」

「……さあ?」

 彼も不思議そうな顔をしている。……うん、なかなかにキビシイ奥様だ。

 立ちあがって丘から町を見下ろすと、いろいろな場所が見えた。

 二人でよく買い物に行った市場。毎週礼拝に通い、今二人の結婚式が行われている教会。困っていると助けてくれた町の人々の家。

 ……そして二人で住んでいた、一番思い出のある、町はずれの小さな家。

 これらは俺の大事な大事な宝物たちだった。だから切り捨てないといけないと思っていた。

「アレク様、差し出がましいのは承知しております。我らには言う資格がない事も。しかし、心の中に一つぐらい……あなた様がただの『アレク』だった場所を残しておいてもいいのではないですか?」

「俺には弱い所があったらまずいんだ……だから全部置いてゆく。そう決めた。」

「いいえ、アレク様。大事なものというのは、弱みになる事も、自分を苦しめる事もあります。しかし、何もない人間も……また脆いものです。」

 私達のようなものが言うのはおかしいですがね、と彼は少し自嘲気味に言った。

「我らは、あなた様ならそれを強さにできると信じております。」

 もうこの大好きな街にも、愛しい女性の所にも帰らないつもりだった。でも、例えば……もっと時間が過ぎて、俺も彼女もそれぞれ幸せになって、もう彼女の事を穏やかに想えるようになったら……。

「帰ろう……。」

 そして彼女に会って、謝ろう。そしてもう一度笑い合いたい。俺も彼女もその時どんな風になっているのだろうか?……いいやきっと幸せに違いない。

「そろそろ行こうか。」

 歩き出した俺の後を、三人がついてくる。おれは、サーシャにもらった花を土の上に置いて、土をかぶせる。

 もらった時、俺が望んだのは、“あなたと共の幸福”ではなく“私のいないあなたの幸福”だったが、再会を願うには丁度いいだろう。

(また、会う日、あなたと私が幸せであるように……)

          *

 クラベル領主シャルドとサーシャという町娘の結婚式が行われた日、町から男が一人消えた。

 領主は、男の身内だった妻の懇願もあり男の行方を必死に追ったが、町から出た形跡すら見つからず捜索を断念した。最初はふさぎこんでいた妻も、少しすると元の明るさを取り戻し、夫である領主を支え、二人の娘をもうけた。孤児院などの慰問に尽力したことから、慈悲深い奥様だと領民から愛された。

 ……そしてその頃、隣国では、ある公爵家の当主の従弟を名乗る男が現れ、波乱を呼んでいた。

 その家の当主が放蕩を繰り返し、領民から反感を買っていた事、その男が王女を妻とし国王の後ろ盾を得ていた事……何より彼の母親だと言う前当主の娘にそっくりな面立ちだったことから、彼は表面上は穏やかに、従兄と叔父を隠居に追い込み、爵位を継いだ。

 そのあと彼は、傾いた公爵家を立て直しつつ王女であった妻を通して王家にも忠誠をつくし、公爵家の権威を取り戻した。

 政略結婚であった妻とも、激しい愛では無かったが、女性にしては賢すぎると嘲弄されていた彼女の才を認め、確かな信頼と穏やかに育まれた愛情によって仲の良い夫婦として、生涯お互いを支え合い、一男二女をもうけた。

 ……そんな二人がもう一度出会うのは、これからもっと先の話。どこかの街の小さな丘で、ふたりは何を語らったのか。それを知るのは、彼らの足元に咲いた一輪の花だけである。



元々は、二人が結婚すると思わせたまま、どこまでいけるかと思って書き始めた短編でした。

……やはり、難しいですね。設定もぬるめですが、読んでいただいた方、本当にありがとうございました!

もしお気に召しましたら、他の拙作もよろしくお願いいたします。

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