ページ9 スタールージュ
「…ぅう……」
「気がついたか?」
おじいさんの声がして起き上がってみたら。
「…ってえぇーっ!?」
俺はさっきまでの森と違う場所に居る。
化け物は?
みんなは?
それよりここはどこなんだ…?
「そんなに叫ばんでも聞こえとるわい。」
―――化け物が現れた直後。
俺は後ろから突然のびてきた木の蔓(つる)に口を塞がれて、気を失ってしまった。
目を覚ますとここは、穏やかな空気が漂う不思議な空間。
一本の巨木が佇み、それを囲うように生い茂る草花。
中には見たことのない不思議な花が咲いている。
そして、俺に話しかけてきたそのヒトは、巨木の隅に生えた、サルノコシカケに座っている。
俺の半分よりちょっと大きいくらいの身長。
長く伸びた白い髭はお腹あたりまである。
目も白い眉毛で覆われて見えない。
仙人のような風貌に、きっとこの方も、精霊なんだろうと思った。
「あの…」
「なに、言いたいことはわかっとるよ。まずは自己紹介といこうか。
わしは、グリニーダ。見ての通り、じじぃの精霊じゃ。」
グリニーダはっはっはと大きく一笑いした。
「ぬし、名は?」
「さ、櫻葉壱斗です」
「ここは、わしの作った空間、わしの住処じゃ。
心配せんでも皆の所へ帰す。
但し話が済んでからじゃ。
何も危害は加えんから、楽にしてよいぞ。
早速じゃが、壱斗。
さっき見た化け物は、元はこの国に住む野生動物じゃ。
覚えておるかの?
一週間前の事を。
あれこそが全ての始まりで、伝承の始まりなんじゃ。」
「まさか、あれが…」
それは妃波という一人の少女が現れる一週間前の夜。
月が紅に染まり、雲も星もない空から大流星群が降り注いだ。
確かにおかしな出来事ではあったけど、それが言い伝えの始まりだとは。
「…あやつらの手に掛かればもう、化け物を倒しておるじゃろうな。
あの化け物が消滅した後に赤い石が現れるはず。
その石こそが、流星群として地上に降り注いだ元凶じゃ。
わしらはスタールージュと呼んでいる。
これが、生き物に取り憑き、凶暴で獰猛な新しい化け物へと進化する。
…悲しいが、こいつに憑かれたら元の姿にはもう戻れん。
わしらは攻撃しても、化け物を消滅させる力は持たんのじゃ。
だから、わしら精霊は、化け物を倒す力を持つ者に、力を貸す事を命じられておる。」
「つまり…妃波がその力を持つ者なのですね?」
「壱斗、ぬしもじゃよ。」
「俺も!?」
「だからこそ『選ばれし2人』なんじゃ。
さて、わしも一つ授けようかの。」
グリニーダはそう言うと巨木をコンコンっとノックした。
するとそこから、何種類もの花が編み込まれて出来ている杖が現れた。
スゥ〜っと俺の頭上まで来ると、今度はクルクル回り、花粉のようなのが降り注いだ。
粉雪のようにヒラヒラ降り、体につくと消えていく不思議な花粉。
「スタールージュが持つ性質を消せるのは、ぬしら2人だけじゃ。
困った時はわしの名を呼べ。
必ず力になる。さぁ行くのじゃ。皆が探しておる。」
「グリニーダ、ありがとう……うわっ!!」
激しい閃光と共に、俺はグリニーダのいる空間から元の場所へと戻された。
――――「壱斗、ぬしは記憶を失っておるようじゃな…。
正確には…植えつけられているのか……」
壱斗が居なくなった住処でグリニーダはポツリと呟いた。
壱斗の失った記憶とは――――