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9/9

9.これでよかった

朝。目覚めたらいつもの天井があった。

いつもと言っても犬に生まれ変わってからの、あさひの家ではない。

人間として生きていた頃の、わしがローンを組んで買った家の、自室の天井だ。

自分の手を見ると、そこには肉球ではなく人間の手があった。

なぜだ?わしは死んだはず。

これは夢か?それとも死んで犬に生まれ変わった方がゆめだったのか?


混乱したまま、わしはとりあえず一階のリビングへ行った。

そこには、エプロン姿の妻がいた。

「遅い!早く食べないと会社遅刻するわよ」

ダイニングテーブルには、朝食にいつも妻が作ってくれていたおにぎりと味噌汁が並んでいる。

わしは言われるがまま、朝食を食べ始める。

懐かしい味がして、涙が出そうになった。

最近はドッグフードが主食だったからな。

あれはあれで犬としては美味しいんだが、やはり人間の食事には叶わない。


「行ってきます」

妻が玄関まで、見送りに来てくれた。

「今日も遅くなるの?」

「んー多分な」

「遅くなるなら連絡してよ」

「わかった」

「気をつけて」

そうだった。

いつも不機嫌そうに見える妻だが、どんなに忙しい朝でも、喧嘩中でも、こうやって見送ってくれていた。

わしはまた泣きそうになりつつ、会社へ向かった。


会社は相変わらずだった。

上司に理不尽に怒られ、尋常じゃない仕事量を押し付けられ、わしは違う意味で泣きそうになった。

今日も残業確定だ、とため息をついたところで、1人の青年に声をかけられた。

「先輩、仕事手伝うっすよ」

彼は後輩の成田くん。

とても真面目で仕事熱心ないい子だ。

なぜかわしを慕ってくれていた。

「いや、悪いよ」

「先輩だってこないだ手伝ってくれたじゃないっすか。お互い様っすよ」

本当にいい子すぎて涙が出る。

わし、こんなに涙もろかったか。

成田くんのお言葉に甘え、仕事を手伝ってもらったおかげで定時で帰ることができた。


帰り道、見慣れた後ろ姿を見つけた。

「さくら」

嫌がられる気はしたが、つい声をかけていた。

娘の横まで走る。

娘は案の定、鬱陶しそうな顔をした。

「恥ずかしいから、離れて歩いて」

そのセリフを聞いて、わしは血の気が引いた。

娘に突き放されたことに対してではない。

そのセリフは以前にも聞いたことがあったから。

わしが死んだ日と同じだった。

混乱しつつ、言われた通り娘と距離を取り歩く。

横断歩道が近づいてくる。

わしが死んだ横断歩道だ。

信号が青になり娘が渡り始める。

ダメだ。今渡ってはいかん。

娘の名前を呼ぼうとしたが、なぜか声が出ない。

例の信号無視の車が近づいてくる。

わしは走ろうとした。

が、なかなか前に進まない。

車が娘に突っ込んでくる。

やめてくれ、止まってくれ、わしが死ぬから、頼む

そう頭で叫んだ時、


「オリオン、起きて、オリオン」

わしが目を開けると、そこにはあさひがいた。

とても心配そうな顔でわしを見つめている。

「大丈夫?すごいうなされてたけど」

夢、だったのか?

自分の手を見ると、そこには可愛らしい肉球があった。

「オリオン震えてる。相当怖い夢見たんだね。夢だよ大丈夫大丈夫」

そう言い、朝日は優しくわしの頭を撫でた。

すごく安心できた。


どうしてあんな夢を見たのかはわからないが、一つ言えるのは、これでよかったってことだ。

娘たちには苦労をかけているかもしれない。

だが、あの時、わしか娘のどちらか死ぬ運命だったのなら、きっとわしが死ぬ方がよかった。

そうに決まってる。

改めて、今の生活に感謝した。

『あさひ、ありがとな』

あさひは「急に何?気持ち悪い。」と、もう一度わしの頭を優しく撫でた。

また追加するかもですが、とりあえずこれで完結とします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

私も生まれ変わったら犬がいいな。

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