6.異世界流の『おもてなし』
次回更新は、5月13日水曜日の予定です。
「申し訳ありませんが、今日は休ませていただいてよろしいですか?」
悠は、ニート保護法の話を聞き、一気に疲労感に襲われた。
国王をはじめ、会議の参加者達は、恐縮して悠に頭を下げる。
「悠様?いえ、調停者様に長々とお付き合い頂き、申し訳ありません」
「いや、別の世界の夜中に大精霊ソフィア様(笑)に、いきなり異世界に拉致されましたからね。私、寝ていないんですよ。ちょっと、休んでから、状況を整理させてください。アルベルト3世陛下、王宮でも宿屋でも神殿でもどこでもかまいません。普通の部屋を用意していただけますか?」
「わかりました。それでは、悠様には、王宮にお泊まりいただきましょう」
アルベルト3世に呼ばれて、侍従が入ってくる。
「悠様、こちらにどうぞ」
王宮の一室は、高級ホテルのスイートルームよりも広かった。泊まったことはないけれど・・・。
悠は、スーツ姿のまま転生してきたことに気がついた。
広い部屋に、悠は1人で取り残される。お世話係とか、呼び鈴とかないのかな?
別にいいけどさ。誰か外にいるよね・・・。人の気配がする。
「すいません、誰かいませんか?」
悠は、ベッドから起き上がると、扉の前で歩いていき叫んだ。
「なにか御用かにゃん。ご主人様」
荘厳かつ重厚な扉を開け、ブルマ姿の猫耳少女とメイド服を着たウサギ耳のコスプレ少女が入ってきた。
2人とも金髪である。瞳も金色である。年齢は、ロリ神官達と同じくらいだろうか?。胸がでかい。Eカップ位だろうか。獣人ではない。どう見ても、コスプレである。
「ご主人様、どうしたぴょん」
ウサギ耳メイドが悠に話しかける。
「ごめん。ちょっと、頭が痛くなってきた・・・。宰相殿か国王陛下を呼んでもらえますか?」
5分ほどすると、アルベルト3世と宰相が息を切らして、悠の滞在している部屋にやってきた。
「悠様、どうなさいましたか?」
「あの。こんなことを国の偉い方に質問をするのは私も嫌なんですが・・・。このふざけたウサギ耳と猫耳は、転生者が教えたものですよね?」
静かな口調で、悠は詰問する。
「はい。コスプレは、転生者に対する最高のおもてなしだと伺っております」
どこからツッコンでいいかわからねえよ。
思わず、悠は、地の口調に戻る。悠もいつも丁寧語で話しているわけではない。
ウサギ耳メイドは、そんな悠を不思議そうな目で眺めながら、
「どうぞ、これにお着替えをぴょん」
恭しく上下のジャージを悠に捧げた。
「ニート服にゃん」
猫耳少女が説明してくれる・・・。
悠は、あきれ果てた顔で、事情は察しながらも、冷たい官僚口調で、宰相に詰問する。
「宰相殿、ニート服とは何ですか?」
「ニホンでは、ニートが最上位の身分。その次が上級国民、最下層の奴隷身分に社蓄がいると聞いたのですが・・・」
「日本には、身分制はありませんよ」
「しかし、『働いたら負け』と。恐れ多いことですが、その悠様がお召しになっているスーツは上級国民や社蓄が着るものと聞いておりますので・・・」
フリージア・・・。
「我が国の最高法規、異世界のルールブックですね。日本国憲法では、日本国民の三大義務として、『納税、義務教育、勤労』があります。理由もなく働かなかったり、学ばないのは憲法違反です」
アルベルト3世と宰相は顔を困惑した顔で首を傾げる。
アルベルト3世が、困った顔をしながら、悠に質問した。
「悠様、その・・・。念のためにお伺いしたいのだが、日本では会食は失礼な文化。おもてなしは部屋から出さないことではないのか?」
悠は笑顔で答える。
「違いますね。陛下が召し上がっている晩餐メニューが最上級のおもてなしです。トイレに行かなくていいように、オマルや瓶のようなものを部屋に持ってくるのも非常識です。絶対に怒りませんから、夕食は何を用意していたのか教えてもらえますか?」
悠は、定例記者会見のように淡々と話す。
アルベルト3世が心配そうな顔で答える。
「最高のおもてなしのカップ麺を部屋でメイド達にアーンしてもらう」
「わけわかんねえよ」
悠は一度、軽くキレてから冷静になり、アルベルト3世に詫びる。
「陛下、取り乱して、大変、失礼いたしました。もし、服を準備してくださるなら、スーツか伯爵、子爵が着る服を準備してください。食事も文化的に失礼でなければ、陛下のご家族との会食を希望します。食事はこちらで陛下達が召し上がっているものを食べます」
「そうであれば、王妃や娘を悠様に紹介したいのだが・・・」
悠は、少し考えてから、
「いや、会食は少し待ってください。この頭の痛い、ふざけた異世界文化汚染がどこまで悪化しているかを確認します。転生して来た異世界人から教えられたおもてなしを続けてください。それと、普通のメイドさんを呼んでもらえますか?」
アルベルト3世と宰相が気まずそうな顔をする。
宰相が口を開く。
「実は、王宮のメイドは、全員、ブルマ姿とミニ・スカートのメイドしかおりません。あとは、チアガールのメイドも数名おりますが・・・」
悠は、ベッドの上で頭を抱える・・・。
「王宮の外、貴族やホテルのメイドであれば従来の格好をしているものもおるのだが・・・」
アルベルト3世が思い出したように言った。
「陛下、従来のメイドを数名、呼んでもらえますか?」
アルベルト3世と宰相が気まずい顔をして、悠と一緒にメイドを待っている。重い空気が流れていく。
「失礼いたします」
ヴィクトリア朝の黒い長いスカートを履いたメイドがやってきた。
普通のメイドだ。
「陛下。宰相閣下。膝上より短いスカートは、ファッションとして異世界である日本には存在はします。ただし、あくまでマニア向けのファッションです。一般的な職業メイドが着る服ではありません。王宮のメイド服も元に戻された方がよろしいかと思いますが・・・」
アルベルト3世と宰相が御礼を言って、部屋から出ようとするのを悠は呼び止めた。
「陛下。宰相閣下。異世界には、ブルマ姿でメイドが膝枕するおもてなしはありません。メイドが食事を食べさせる文化もありません。オムライスにケチャップ、トマトで作った調味料です。ケチャップで、文字を書く文化もありません。ハーレムや夜伽という文化も日本にはありません。はっきりお伝えすると、女性に触れる行為、胸を触る、添い寝、膝枕をする、異性の身体を洗うといった類の文化は『おもてなし』にはありません。大精霊ソフィアが私を呼んだ理由は、転生した異世界人が広めたそうした間違った文化を正すためです」
アルベルト3世と宰相は、悠の言葉に呆然と立ち尽くす。
悠は、疲れもあり、早口で説明するとアルベルト3世が貸してくれた王族用の絹のパジャマを着る。
「パジャマは、木綿で構いません。最下級の貴族や裕福な商人が着たり、食べたりするものであれば大丈夫です」
「あと1つ、トイレの紙というか、排便をしたあとはどうするのですか?」
いくら転生者がやりたい放題やっていても、ウォッシュレットを再現できるとは思えない。宰相が口を開く。
「それはメイドがぬるま湯を・・・」
「ストップ、聞かなくていいです」
それ以上は人間として、聞いてはいけない気がした。
「宰相殿が使用されるものと同じ紙、または布等を用意してください」
アルベルト3世は、驚いて、
「いやシルクをお使いください」
と言った。しかし、悠は、予想される値段を考えて、再利用が無理であろうシルクのトイレット・ペーパーは拒否をした。宰相と同待遇であれば、木綿かごわごわした紙を持ってくるはずである。紙を揉んで柔らかくして使えばよい。
アルベルト3世と宰相と普通のメイドが部屋を出る。
「なぜ、メイドも部屋を出る?」
入れ替わりに先ほどの、猫耳ブルマ少女とウサギ耳メイドが部屋に入って来た。
「ご主人様、お風呂の時間にゃん」
普通のメイドが、一生懸命に部屋の中のバスタブにお湯を運んでくる。
そして、猫耳ブルマ少女とウサギ耳メイドの2人は、石鹸のようなものを泡立てている。
石鹸の再現は出来なかったのかと悠は安心する。
いや、おかしいのは、そこじゃない。なぜ、追い出したはずの猫耳ブルマ少女とウサギ耳メイドが戻って来て、石鹸を悠の目の前で泡立てているのだ?
悠は、自分の言葉を思い出す。
『この頭の痛い、ふざけた異世界文化汚染がどこまで悪化しているかを確認します。転生して来た異世界人から教えられたおもてなしを続けてください』
これが、転生した馬鹿どもが、教えたおもてなしということか・・・。
猫耳ブルマ少女とウサギ耳メイドが服を脱ぎ始める。悠は赤面して目を閉じる。
「服を脱がない。服を着てください」
悠は、目を閉じたまま、叫ぶ。
「ご主人様、安心するにゃ、裸じゃないにゃ」
紺色のスクール水着にたわわな果実が実っている。ぼよーん。
「ご主人様もタオルをまくぴょん」
2人は、強引に、悠の下半身をタオルで覆うと、パジャマのズボンを脱がせる。
「じゃあ、身体を洗うにゃん」
悠は冷めた目で、2人が石鹸を自分の胸にこすり付けているのを眺めている。
はい、スクール水着に石鹸を塗りたくってご主人様を洗ってくれるんですね。
右手を挙げると2人を制止する。
「はい、だいたい、何を転生者が教えたのかがわかりましたから、お二人は、石鹸を落としてお風呂から出てください。あとは自分で洗いますから」
「照れなくてもいいにゃ。洗ってあげるにゃ」
「気持ちは嬉しいんですけれど、私も一応、男性ですから、ムラムラした気持ちになりますからやめましょうね」
「ご主人様は、Hだぴょん。そのムラムラも私達が解決してあげるぴょん」
フリージアとか言うバカ女神は、どんな日本人をこの異世界に転生させたんだ?
私は、調停者なんだよね。
「大精霊ソフィアの調停者として命じます。風呂から出て服を着るように」
2人が風呂から出ると、悠は仕事で覚えたムラムラした気持ちを抑える魔法の呪文を繰り返し小声で詠唱する。
「これはハニトラ。手を出したら国際問題、懲戒免職。これはハニトラ、手を出したら国際問題・・・」
夕食のカップ麺は、残業中の役所仕事を思い出させ虚しくなった。夜中に、猫耳ブルマ少女とウサギ耳メイドがベッドに潜りこんできた。悠は、調停者として追い出し、頭の中で呪文を繰り返す。
「これはハニトラ。手を出したら国際問題・・・」
こうして悠のムフフな異世界の1日目の憂鬱な夜が更けていくのであった。




