僕と吉田さんの奇妙な出会い(2)
「これですね」
式神のような紙を男に渡す。
「ありがとうございます。もう見つからないかと思いました」
男は大切そうに紙を鞄にしまう。
「私、吉田って言います。お礼にお茶でも飲みに行きませんか?」
断ろうかな、と思ったが、何かの縁かもしれない。そう思い承諾する。
「いいですね、これも何かの縁でしょうし」
「良かった、私がおすすめのカフェに行きましょう」
男は人懐っこい笑みを浮かべた。
石段を下り、神社の敷地から出て、暫く歩く。
「歩かせてすみません、もう少しで着きます」
段々と森の中に入っていく。小川に架かった小さな橋を渡ると、開けた場所に山小屋のような建物が佇んでいる。
「ここです」
男は鞄から鍵を取り出して扉を開ける。
「ここって、カフェ、ですか」
「お気に入りのカフェです。私が経営している」
その男はまた人懐っこい笑みを浮かべた。少し騙された気もするが、嘘はつかれていない。
このモヤモヤは心に仕舞っておこう。
「好きなところに座ってください」
「ありがとうございます」
なんとなく、扉に近い窓際の席に座る。
「今日って、定休日でしたか?申し訳ない」
「全然気にしないでください、私が誘ったんですから。珈琲飲めますか?甘いものも食べれます?」
「どっちも大好物です」
「良かったです。すみません、もう少し待っていてください」
吉田さんは満足したように微笑んで珈琲を淹れ始める。
珈琲のいい香りが店内に広がる。心なしか肩の力も抜けてきた。
店内は木を基調としたインテリアでとてもお洒落だ。
また一つお気に入りの場所が増えるかもしれないな、と口元が緩む。
珈琲のいい香りが近づいてくる。
「お待たせしました。店主の気まぐれ珈琲とチーズケーキです」
目の前に丁寧に置かれた珈琲とチーズケーキは輝いて見える。窓から入ってくる日光のせいかもしれないが、食欲が刺激される。
「頂きます」
先に珈琲を頂く。程よい酸味が口に中に広がる。チーズケーキも一口食べると、珈琲の程よい酸味とチーズケーキのコクがとても合う。
「美味しいですか?」
珈琲カップを片手に持ち向かいに腰掛けながら吉田さんは笑顔で聞いてくる。
「美味しいです!」
頷きながら美味しいと伝える。
「お口に合った様で良かった」
その後も吉田さんは僕が食べている所を笑顔で見ていた。
でも不思議と恥ずかしいけど嫌な気はしない。
「ごちそうさまでした。美味しかったです、また来てもいいですか?」
「もちろん、大歓迎ですよ。あ、お代はもちろん頂きませんよ」
こちらの考えを見透かされた気がした。
鞄に手を突っ込んで財布を掴んでいた手を放し鞄から出す。
「ありがとうございます、ご馳走さまです」
「またお持ちしていますよ」
カフェを出ると、日は傾いて空一面が綺麗なオレンジ色に染まっている。綺麗なはずなのにどこか不気味さを感じる。来るときに通った小川も、道も今はただ不気味に感じられる。
時間帯のせいだろうか、一人だからだろうか。
「早く帰ろう」
駆け足で道を進む。しかし歩いても歩いても景色が変わらない。
一回カフェに戻ってみようと方向転換して、後ろの来た道を戻ろうとする。
「あれ......無い」
今通って来た筈の道が無い。そこにあるのは雑木林だった。
道に迷ってしまったのか、そう考えたが来るときに通った道は一本続きの道で迷う方が難しい道だった。
スマホを取り出すが、圏外と表示されている。
「これは詰んだか」
最後の希望のスマホも圏外で使えないなんて、もうどうする事も出来ない。
ひたすら歩いて出口を探す方法もあるが、もうそんな体力は残っていない。
「大丈夫ですか」
聞き覚えのある声がしたと思ったら、僕の体は宙に浮いていた。どうやら誰かに抱きかかえられる形で空を飛んでいるみたいだ。
「ありがとうございます。助かりました......」
顔を見ようと横を向くと、そこには見知った顔があった。
「吉田さん……?」




