『エイブラムス』
早朝から商業都市『シェール』では厳戒態勢が敷かれていた。
城壁には大型の弩が備え付けられ多くの兵士が行きかう。さらに土嚢が積まれた地点には『M2キャリバー』が大量の予備弾薬、ロケット弾と共に外敵にむける牙を研ぎ澄ます。
冒険者ギルドもあわただしく人が行きかい。冒険者が城内の警備、防壁の応援として続々と自分の持ち場に向かっていく。
商業ギルドでは、食料などの物資が避難所に届ける馬車が続々と列を作っていた。
その『シェール』の城壁前にはある物が鎮座していた。
第3世代主力戦車『M1エイブラムス』。
低平で角張った車体、砲塔に複合装甲を纏った姿は見る者に至っては威圧感を感じ終えない。
『M1エイブラマス』の特徴は、精密かつ強力な火力と軽快、迅速な機動力、極めて堅牢な装甲にある。
本来の戦車は、機動力を活かし敵を奇襲・強襲、あるいわ包囲・迂回し、敵が後退すれば追撃する用法を用いるが今回は、近接信管を用いた榴弾を使用した固定砲台として活躍してもらう。
さらに城壁から10キロ圏内の地面一面に対戦車地雷『M21』をあるだけ敷き詰めてある。これが今回の作戦で重要になってくる。
『M21』は、マイゼン・シュレーン効果弾頭を使用する円形の対戦車地雷である。
マイゼン・シュレーン効果とは爆発による運動エネルギーの法則である。圧力信管は傾斜作動式として使用可能であり、M607圧ヒューズを使用する。M607圧ヒューズの上に290ポンド(1ポンド=453.6グラム)の垂直圧力がかかれば起動する。
つまり、失速したワイバーンが地面にたたきつけられた瞬間に作動し76mm厚の装甲を吹き飛ばすほどの威力を浴びせ、致命傷もしくは行動不能にするためのものである。これでどこまで数が減らせるかでこの戦闘が変わる。
いくらこちらに銃火器があろうと中てられなかればどうしようもない。
高速で飛行してくるワイバーンに銃弾を中てるのは熟練者でも難しい。前回、フォレスター様を襲ったワイバーンは獲物をとるために高速飛行はしていなかったため仕留めることはできたが今回は多数のワイバーンが高速で突っ込んでくる。銃弾の雨をお見舞いしてもどうしても切り抜ける個体もいる。
「隊長、土嚢、重機関銃の設置終わりました」
「そうか。各区域の見張りを数名おき残りの隊員を本部前に集めてくれ」
「了解です」
ザックに指示を出して陣地の見張り以外を作戦本部前に集めた。
最後の意思確認を行うためだ。
「総員、傾注!」
号令と共にブーツのかかとの音が合わさる。
「総員、休め。これより6時間後には敵勢力を視認するだろう。この作戦は強制ではない・・・・・・これまでのような依頼とは危険度は桁違いだ。降りたい者がいれば構わない遠慮せず降りてくれ」
これまでの訓練、任務では幸いなことに負傷する者は出ても死者は出ていなかった。この防衛戦で戦死者が出ても俺は自分を保つことができるだろうか。
いっそ狂ってしまったほうが楽だが、それではさらに仲間が死ぬ。
どの隊員も目だし帽を被っており表情を伺うことはできないがそれぞれの目が俺を真っ直ぐ見ている。
隊員の1人が口を開く。
「我々は、隊長に救われた者ばかりです。そして、手の届かないと思っていた家族ができました」
「その家族が戦うのに自分だけそれを見ているなんてできません」
「一緒に戦います」
何のために自分がこの世界に迷い込んだのか、今も分からない。
だが、それでも血の繋がらない者同士があつまり家族となった。それだけでもこの世界にきてよかったと思える。
「わかった。2時間ずつ交代で休め。以上、解散!」
この大移動で世界の何もかもが変わるだろう。
偽りであった平和な日々は消し去り、人間同士が生きるために争いが起こるだろう。そこに俺が探している答えがあるのかもしれない。
◆
「ようやく、始まるのね」
真っ暗な奈落の底のような場所で、そうつぶやいた人物は白い肌に黒いドレスに身を包んだ美しい黒髪の少女だった。
彼女は待っていたのだ。
この時を。
「これで何もかもが変わるわ・・・・・・。あなたは、いったいどうするのかしら楽しみだわ」
少女は微笑み。
両手を広げる。まるで愛おしい者へ抱き着こうとするように・・・・・・。
「さぁ、この世界に多くの死を振りまきなさい。あなたが選んだことなのだから、ジュン」
ご意見やご感想があればよろしくお願いします。
少しずつ文章に手直しを加えていきます。




