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スプリングナイフの氷河  作者: 神通百力


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第七話 能力雪合戦⑦

「自分が放った雪玉で氷河をリタイアさせるなんて……俺はいったい何をしてるんだ」

「お姉ちゃんが氷河を投げてきたんだし、仕方ないよ。薄弱のせいじゃないから、気にしちゃダメだよ」

 菫は慰めようとそう言ったが、薄弱は悔しそうに唇を噛んだ。明日香はすでに雪濠の内側に戻っていた。

 氷河のスピードが使えなくなった以上、新たな作戦を考える必要がある。それに明日香チームは思った通り厄介だった。当初の予定を変更し、明日香チームを先に全滅させた方が良いかもしれない。ここは狼牙チームと協力して明日香チームを全滅させるのが得策だ。

 まだ悔しそうに項垂れている薄弱を一瞥すると、菫は藍色の(インディゴ)花による(フラワー)幻影(ルージュ)を発動し、自分の姿を幻覚で見えなくした。それから菫は狼牙チームの雪濠に向かって駆けだした。協力を仰ぐ前に狼牙チームから雪玉を投げられないように、幻覚で自分の姿を見えなくしたのだ。さらに足跡も幻覚で見えなくする。足跡から近づいていることがバレないようにするためだ。

 狼牙チームの元にたどり着くと、菫は雪濠の内側に入り込み、幻覚を解いた。いきなり現れた菫に狼牙たちは驚いたように目を見開いていた。両手を広げて雪玉を持っていないことを示しながら、菫は狼牙たちを見回した。

「提案なんだけど、私たち協力しない? 先にお姉ちゃんのチームを全滅させた方が良いと思うんだよね。ほら闇の影と人形で数が多いし、私たちのチームよりも明らかに厄介だと思うんだよ。お姉ちゃんのチームを最後に残すよりも、私たちと協力して先に全滅させた方が後々ラクになると思うんだよね」

「確かに菫の言う通りだぜ! ここは協力して明日香チームを倒した方が良さそうだぜ。みんなもそれでいいよなだぜ!」

 狼牙は菫の提案に納得したように頷くと、自分のチームメンバーを見回した。烈土たちの表情を見ると、菫の提案に賛成のようだった。ひとまず狼牙チームの協力を仰げたことに菫は一安心した。

「それじゃ、作戦を伝えるね。烈土は砂の球(サンドボール)と泥の球(マッドボール)を半分ずつ用意して。私の幻覚で泥の球(マッドボール)だけ隠すから、砂の球(サンドボール)は普通に放ってね。狼牙たちも普通に雪玉を投げて。加速はさせずにね」

 菫は狼牙たちを見回して指示を下した。加速させずに雪玉を投げるのには理由がある。威力が上がるメリットはあるけど、泥の球までもが加(・)速(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)。それではダメなのだ。泥の球の最大の特徴はス(・)ピ(・)ー(・)ド(・)の(・)遅(・)さ(・)にあるからだ。

 あえて加速させずに泥の球を放つことで砂の球や雪玉との攻撃の時間にズ(・)レ(・)を(・)生(・)じ(・)さ(・)せ(・)る(・)ことができる。水を吸収して重くなっている分、向こうまでたどり着くのに時間がかかるのだ。

 それを幻覚で隠して見えなくすることで相手に当てる。最初の攻撃では砂の球や雪玉には対応できても、泥の球は対処できないはずだ。例え二度目からの攻撃でも見えないだけじゃなく、スピードが遅い分、雪玉を投げるタイミングを計るのは難しいだろう。

 烈土が砂を球状にして雪面の上に並べていた。雪を解かそうと能力を発動しようとした波斬を菫は手で制した。怪訝そうな表情を浮かべた波斬を横目に菫は両手で雪を掴むと、無言で食べ始めた。狼牙たちは菫の突然の行動に唖然としていた。

 口の中で雪が解けて水と化して喉を通っていく。すぐに菫は尿意を催し、雪を食べるのを止めた。そして幻覚で自身の下半身を隠すと、ズボンとパンツを膝までずらし、しゃがみこんだ。と同時に尿が垂れて雪を解かして水たまりができた。波斬の泡の爆発(バブルプロミネンス)だと爆風の音で雪を解かしているのがバレてしまいかねない。そうなると明日香ならすぐに泥の球を使用しようとしていることに気付くだろう。

 その点、尿ならば雪が音を吸収して明日香チームのところまでは聞こえないはずだ。雪も解けて水たまりも確保できる。そのために雪を食べて尿意を催させたのだ。ズボンとパンツを穿き直すと、菫は烈土に砂の球を水たまりに沈めるように促した。

 烈土は頷くと、砂の球を半分ほど水たまりに沈めて泥の球に変化させた。ふと菫は狼牙たちが鼻を抑えていることに気付いた。辺りにアンモニア臭が漂っていた。尿で雪を解かしたのだから臭いが漂うのは当然だった。

「……薄弱たちにも作戦を伝えに行くから、私が合図を出したら一斉に投げてね。雪玉を上に投げるから、それを合図だと思って。あと臭いが充満しちゃったけど、我慢してくれる?」

 菫は顔を真っ赤にしながら言った。狼牙たちが頷いたのを確認し、幻覚で自分と泥の球を見えなくした。それから自分たちのチームの雪濠に駆け足で戻って自身にかけた幻覚のみ解いた。

「姿が見えなかったが、いったいどこに行ってたんだ?」

「狼牙たちのところに行ってたんだよ。お姉ちゃんのチームを倒すためには協力した方が良いと思ってね」

「そうだったのか。それで狼牙たちは協力してくれるのか?」

「うん、快く提案に乗ってくれたよ。それでね」

 菫は薄弱たちにも狼牙チームにしたのと同じ作戦を伝えた。それから雪濠からほんの少しだけ顔を出し、明日香チームの様子を伺った。見たところ、動きはなかった。もしかしたら明日香が何かしらの作戦を伝えている最中なのかもしれない。

 菫は明日香チームに集中し、合図を出すタイミングを伺う。

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