第三話 能力レース⑧
菫たちの姿が消えた。幻覚で姿を隠しているのだろう。
「無駄よ」
明日香は眼を瞑り、聴覚を研ぎ澄ませた。
カツン、と微かに音がした。
明日香は眼を開けた。
「蘭。あの辺りを攻撃して」
音がした場所とは別の場所を告げ、蘭に指示を下した。
「うむ」
蘭は明日香の指示に従い、小型の人形を操り攻撃した。
「きゃあ!」
菫の叫び声が聞こえた。その直後、幻覚が解けて菫たちの姿があらわとなる。
「お姉ちゃん」
菫は明日香を見た。
「靴を放り投げてわざと音を出し、少し離れた場所で攻撃してくるのを待ったのよね。緑色の花による刃で攻撃して消滅させようとしたんでしょ? 姿は見えなくても攻撃がくる場所さえ分かってれば対処は可能だしね。でも、残念。私には筒抜けだわ」
明日香は微笑んだ。
「全部、言い当てられた。私の打開策が水の泡に」
菫は拗ねた表情をする。
「相手が私じゃなかったら成功してたかもね。相手が悪かったのよ。私と戦えることを光栄に思いなさい。同じ学校に通えることを誇りに思いなさい」
明日香は優雅に髪を掻きあげた。
『明日香と同じチームでよかった』
蘭たちは呟いた。
「あら、そういうことはゴールした時まで取っときなさいよ。でも、言っちゃったもんは仕方ないわよね。ゴールするまでに別の言葉を考えておきなさい」
『了解!』
蘭たちは敬礼した。
☆☆
「ごめんね。打開策はあるから安心してって言ったのに失敗しちゃった」
菫は申し訳なさそうに言った。
「気にすんな。菫はこの状況を打開してくれようとした。それで十分だ。ただ、明日香の方が上手だったってだけだ」
俺は菫の頭を撫でた。
「うん、ありがと。それじゃあ、次の打開策を言うね。次の打開策は氷河の力が必要なの」
「俺の力が?」
一体どんな策なんだろうか。
菫は仲間の一人を手招きした。仲間が近づいてくる。
「――――――――」
菫は俺と仲間に囁き、指示を下した。
「砂」
仲間は菫の指示に従い、砂を廊下の少し上辺りに浮遊させた。
「水刃」
俺も菫の指示に従い、水で形作った無数の刃を砂の真上に配置し、刃の形を崩した。それは小さな水の塊となって、砂の上に落ちた。水の塊を吸収した砂は重量を増し、廊下のどこかにいる小型の人形を押し潰しにかかった。砂の表面に小型の人形の一部分が見え隠れし、消滅していく。
「あら、潰されてしまったわ。残念」
たいして残念でもなさそうに明日香は言った。
「策はまあ、悪くないけれど詰めが甘いわ。武器を与えてくれてるようなものだしね」
武器だと? どういうことだ?
疑問に思った瞬間、砂が一気に沈み始めた。
『なっ!』
砂が瞬く間に廊下から消え失せ、闇の反射が姿を覗かせた。
「あ、しま……」
菫が言い切る前に闇の反射は廊下から消え、解除された。
「闇の反射」
その瞬間、影に覆われ、俺は上を見上げる。闇を纏った砂が降ってきた。
『うわぁ!』
砂が勢いよく降りかかる。
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