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61 新しい場所、古い記憶

 エネストラの一軒家を、わたし達に貸し与えること。安全で平和に暮らすための支援を受けること。

 代わりに、カズ達が戦いに行くこと。

 一緒に居られるのはあと一週間。たった一週間。


 それが、カズがわたしに言ってきたことだった。


 何を言っているのか、わたしは理解したくなかったんだと思う。








「いやだっ!!」


 唐突に、イリアとは思えない勢いで突っ込んできた。

 辛うじて足が出て、押し倒されることはなかった。


「やだっ、そんなのいやだあっ!!」


 これほどの大声は――――彼女の僕への感情は――――初めて聞いた気がする。

 見えていない僕に迷いなく飛び込んできたことが、爆発した威力の大きさを物語っていた。言い回しを間違えたとは思えない。元から溜まっていたのだろうか……。


「ちょっ、イリア、イリア……?」


 遠慮する様子も無く、息苦しいほどに胴を締め上げてくる。周囲にどう見られているかなど考えもしない、本当に切羽詰まった様子で。


 どう声を掛ければ良い? 何と慰めれば良い?

 大声で反抗する彼女に、必要な言葉を思いつくことが出来ないでいる。



「…………」


 ガルシアを見やったのは、彼に信頼を勝ち取られたからだろうか。

 口の回る、コミュニケーションに長けたこいつなら、良い方法を教えてくれるものだと――――他人にこうして縋るとは一分前には考えもしなかった。


「……」


 彼は首を振り、肩をすくめた。

 そしてミリアスやクラムにアイコンタクトを取り、そそくさと出て行ってしまった。



 彼なりの気遣いに違いはない。

 だが、僕になんとか出来ると思っているのだろうか。



「やだぁ、行かないでよぉ……なんで、なんで……?」


 二人きりになった空間は、現実にあるような異世界だった。

 北欧、という色眼鏡の掛かった印象。洗練されたインテリアや内装に、電気や水道まで完備していると聞いた。フードの外れたイリアの耳さえなければ、ここは僕の知識にある世界に変わりないと思えた。



 周囲は静かで、望める景色も綺麗で、イリアが暮らすのに最適だと思っていた。

 もう大丈夫だろう、きっと立ち直れるはずだと、僕はそう思っていたのに。



 分かっているつもりだった。昔の僕によく似ていて、だからあの時にして欲しかったこと――――叶わなかったことをしてやれば良いと。


 僕だったら、これでゆっくりとでも普通に、平凡で平穏な人生に戻れると思えた。


 でも、彼女はそうじゃなかった。僕がいないと何もかもが壊れてしまうと盲信しているように、嫌だ、嫌だと縋り付いて離れそうにない。


「……イリア…………」


 叫ぶことはなくなった、代わりに胸が生温かく湿ってきた。

 大きくしゃくり上げる彼女の姿は――――昔の僕に親のどちらかが残っていれば、何一つ違わなかったに違いない。


「……大丈夫、大丈夫だよ。僕はここにいるから」


 ゆっくりと、重心を下げる。立たせていたら疲れるばかりだろう。

 吐息で胸が熱い。心がそこにあるかのように、僕の感情も熱されていくような気がした。


「ごめん、本当にごめん……傷つけるつもりは無かったんだ……」


 もうイリアのことが分からない。僕の経験は、欲しかったものは役に立たない。

 彼女に必要な物は、果たして何なのだろうか?


「……どこにも、行かないで」


 深く荒い呼吸を繰り返しながら、必死に絞り出したような声を出す。

 本心から放たれた言葉であることを疑えはしなかった。


「それは――――」


 正直に答えて良いものだろうか。嘘を言って良いものだろうか。


「――――難しいかもしれない」


「…………」


 何も言わない。言えなくて当然だ。

 これは僕の責任だ。言い方を変えれば、イリアだってもう少し受け入れやすかったのかもしれない。


「僕は……僕は…………」


 あまりに小さく見える背を抱き留める。僕はあまりに無力だ。

 あの時の父さんや母さんのように、頼りがいも無い。思いやりだって無い。


 そんな僕に、イリアはどうしてここまで縋ってくれるのだろう。

 応えたくても、どうしたらいいのかも分からないのに。


「……いら、ないの?」


「え?」


 口にするのを躊躇いきったような、本当に微かな声だった。


「わたし、足で、まといでっ……何もできない、から……」


 自らを傷つけるような言葉を、必死に紡ぐ。

 クラムのようなことを言っているが、込められる感情は圧倒的に強く、鋭かった。



 気安く言える言葉ではないが、その気持ちはよく分かった。

 ずっと一人で居ても、彼女を傷つけるその思いは。



「そんなことはない、そんなことは……」


 否定しても、きっと信じてはくれないだろう。

 もう悲しまないで欲しい、苦しまないで欲しいのに、僕ではそれを抑えられない。


「じゃあなんで? なんで、わたしを一人にしようとするの!?」


 唐突に顔が上がった。赤く泣き腫らして、他の誰かに見せたくないほどだった。


「もう嫌なの! 一人はもう嫌なの! なのになんで……ううっ、えぐっ」


 再び泣き叫び始める。これまでで一番不安定で、不味い状況なのは僕でも分かる。


 一人はもう嫌だ、とイリアは言った。

 ミリアスも、クラムも、見えない僕よりも頼れる人はいるだろうに、彼女は「ひとり」なんて言葉を使った。


「……ひとりに、しないでよぉ」


 孤独を何よりも怖がっているようだった。

 それも、単純なものでは無い。僕には計り知れない、彼女自身を覆うトラウマか、それに類する何かが恐れさせているのだろうか。


 僕は、それを知らない。対症療法のような、場当たりな対応しか出来ないだろう。



「ごめん、気付いてやれなくて」


 後悔だろうか。関わってしまったことで無く、汲みきれなかったことに対して、僕は後悔しているのだろうか。


「君を一人にしない……僕で良いのなら」


 シナ村の、ベッドの上でのやりとりを思い出す。

 あの時は会話も出来ずに、僕も彼女のことを全く知らなかった。見知らぬ存在に全てを預けてくる彼女に、ただ共感を覚えていただけだった。



 今もそれは変わらない。僕は彼女の何も知らない。

 ただ、それが罪に思えるぐらいには、ずっと寄り添ってきたのだ。


「……傍に、いてくれる?」


「うん、できる限り」


 そう言うと、イリアはまた胸に顔を埋めてきた。泣いているが、静かだった。



 夕日が窓を抜けて、部屋全体を赤くしていた。

 見えないだろうけど、僕も君も、同じ色だった。















「…………できる限り早く戻るから。いいね、イリア?」


 かれこれ数時間、窓の外は夜の帳で締め切られていた。

 その間、彼女の身体が僕から離れることは一度たりともなかった。前から過剰に距離かが近いのは自覚していたが、夕暮れの一件以来、度が過ぎるほどに密着することが増えた。


 一度離れてしまうと、二度と触れられないと確信したように、何をするにも片手だった。にも関わらず、僕がその手助けをすることに申し訳なさそうな、心に来る顔をするのがかなり苦しかった。


 離れたくない気持ちはよく分かる。罪悪感なんて抱く必要すら無いのに。



 ベッドに横たわったイリアは何も言わない。

 言葉が見つからないからか、口にする勇気が無いからか。どちらにせよ、不安なことに変わりは無かった。


「寝ててもいいからね」


 言うと、握り続けた手を放し、最後にと言わんばかりに両腕を伸ばしてきたので、好きなようにさせてやる。



「…………それじゃあ、お願いします」


「はい、任されましたのです」


 長い、長い抱擁の後に、付き添いをクラムにお願いしてから、二階の――――僕に割り当てられた部屋を後にした。



 ガルシアとミリアスは外で待っていた。まだ殺風景なリビングを抜け、外の空気はいやに冷えているように感じた。


「すげぇな、お嬢ちゃんの匂いがべったりだ」


 肩を組んできたガルシアが、僕の服に鼻を近づけて言った。


「そんなに……?」


「ヒトの鼻じゃ分かんねぇよ。うし、じゃあ行くか」


 僕を誘った張本人が先立って、新しい我が家を後にした。

 これからのこと――――出発日を先延ばしに出来ないか交渉してくると嘘を付いて、彼女に関することを話すことになっている。


 どうすれば良いのか分からなかったので、この誘いはとても魅力的だった。


「……付いて来ちゃあ、いないよな?」


「平気だ。クラムが止めるだろう」


「ならいいんだが。今のお嬢ちゃん、何をしでかしても可笑しくないからなぁ……なぁ、カズ?」


「……だね」


 欲求は違えど、心境は似たようなものだろうか。

 思い出したいものでは無いが、ああなった時の僕は……自らの喉元を切ろうと、何度試行したことだろうか。


 結局、三人を殺したような覚悟は出来なかった。僕がこうやって生きている理由だ。


「でも、ああなったのは不幸中のなんとやらだ」


 ガルシアが多少、胸を撫で下ろすように言う。


「お前にもぶちまけず、余計に溜め込まれて気付けないより、こうして大泣きしてくれたほうが助かる。今頃本人は罪悪感で潰されそうだろうがな……」


「僕のことか、イリアのことか?」


「どっちもだよ。ハリネズミのジレンマってマジで良い比喩してるよなぁ」


 ここらは住宅街で、今の時間帯は静まりかえっている。

 とはいえ、徒歩で数分と歩かない場所に歓楽街のような活気が渦巻いているからか、そこからの灯りがここからでもそれなりに見えた。


「…………もう大丈夫だと思ったんだ」


 思ったことが、随分と素直に口から漏れていた。

 言いきった後にそのことに気付いて、随分変わったんだなと自覚した。


「もう苦しむことなんてない、大丈夫だろうって。時間は掛かるけど、ゆっくり元に戻れるだろうって……」


「今のお前なら、な。一人になったときはそんなに荒んでたか?」


 ガルシアが茶化して言っているのは、僕が先程思い返していた頃のことだろう。

 イリアへの対応もその記憶を頼りにしていたつもりだったが、彼の言うとおりだ。今の僕では、あの頃の僕の気持ちを完全に理解できないだろう。


 過去は過去で、今の僕が捉える内容と事実とは異なっていることに違いない。


「でも、本当に分からないんだ。イリアがどうしてあそこまで嫌がるのか……一人が嫌なのは良く理解できるけれど、ミリアスや、クラムだって居るし……僕の他にも居るのに」


「分かってねぇなぁ……」


 頭を抱えた後に「ま、俺も分かってないだろうがな」と付け足した。


「お前が?」


「んだよミリィ。俺が他人の心を読めると思ってるのか?」


「そんなことは……だが、そこまで口が回って、よく気を利かせてる奴が言う台詞ではないだろう?」


 ミリアスが戸惑いを見せる。

 そんな彼を見てか、気分を少し明るくしようとしてか、ガルシアの顔がにっと歪んだ。


「良いか? ここに居るのはコミュ障の一団だ。関わるのが面倒になっちまった奴、関わり方を全く知らねぇ奴、で、口先ばっかりの奴だ」


 僕、ミリアス、そして自分自身を指しながら言った。


「全員、コミュニケーションがド下手に違いない。自覚あるだろ?」


「同意するが、お前に関する評価はやはり……」


「そういうとこだミリィ。たまには折れろ」


 人通りのある路地に出た。前に思ったとおり――――僕の知る限り――――夜行性のアニマリアが多く見られた。人相がそことなく悪いような、気の抜けなさがある。


「話が逸れたな。重要なのは、お嬢ちゃんがどうしてああなったかを、お前が知ることだが……これがちと面倒というか、長い話になるんだ」


 ガルシアが僕の前に躍り出て、前から来る人混みを分けてくれる。


「ミリィ、言ってた店ってどこだよ?」


「もうすぐだ、看板が見える」


 ミリアスが顎で指す先には、小洒落ていて、繊細な装飾の店名が掲げられていた。


「良いところだろうな」


「エネストラの街路にある店だ。質が悪ければ直ぐに後続が追い抜く」


 料理も飲み物も良かったとミリアスが評価した頃に、店頭に到着した。









「林檎酒と割るための水を、ボトルで」


「おい、僕は未成年だぞ」


 店内で席に座るが早いか、ガルシアがとんでもない注文だけをする。


「んだよ、お前はもうガキじゃ……日本でも無いんだぞ。未成年って括りには入らねぇよ」


「十七歳だ。飲まないぞ」


「ったく……あぁ、気にしないでくれ。リンゴジュースを一本と、オリジナル・マムを小瓶で一本。グラスは三つで、頼む」


「お前、オリジナルを……」


「言うな言うな」


 何かを言おうとしたミリアスや抑えるガルシアを不思議そうな目で見ながら、店員が店の奥の方へと消えていった。

 僕らが座っているボックス席の周りには人気が無い。こんな時間帯にここへ来る客そのものが少ないのだろう、周囲を気にせずに落ち着いて話は出来そうだった。



「カズ、まさかと思うが訊いておくぞ」


 飲み物が届くのを、僕に質問して待つらしい。


「お嬢ちゃんがお前にくっついたまま、離れようとしたくなかった理由……分かるか?」


「一人になりたくないからだろう」


 イリア本人が言っていた。もう一人は嫌だと。

 外見のせいで疎外されていただろうし、暮らしていた村や比較的慣れていた人々はもう無いに等しい。今のイリアに、心からの居場所というものは存在しないだろう。


「なら……お前の言葉を借りるが、どうして俺やミリィ、あのメイドさんじゃダメなんだ?」


「それは……」


 何でだろう。

 クラムはともかく、彼女と付き合いが一番長いのはミリアスだろう。彼を頼って然るべきなのに――――僕と一緒に行動する以前は分からないが、そんなところを一度も見かけた覚えが無い。


「…………お嬢ちゃんは優しい子だ。分かるだろ?」


 瓶が数本、グラスが注文通りに届けられた。黄金色の瓶が二本、透明な瓶が大小一本ずつ。


 ガルシアが言いたいことはそれとなく通じた。

 それを感じたのか、彼は続ける。


「ああして吐き出したのは、これ以上無い勇気だっただろうな。俺もミリィも……お前だって気付けなかったのは、お嬢ちゃんが優しすぎるからだ」


 助けてほしいなんて言葉は、自身の無力さを告白するに等しい。

 ひとりにしないでほしいという願いは、独力で生きられないと吐露するよりも苦しい。


 完全な意味では無いにしろ、僕も似たことは考え続けてた。

 だから我武者羅に一人暮らしをしようとしたし、辛くて空しくても、口を割ることだけはしたくなかった。


「それでもお前に癇癪をぶつけて来たんだ。良い方に捉えりゃあ、それだけお前に甘えられるって……お嬢ちゃんは信じてるわけだし、気持ちも回復してきてるってことだ。今んところ、遠慮もせずに寄り掛かれるって信用できる、唯一の拠り所を喪うのは……な」


「……僕が?」


 どれだけ言われようとも、にわかに信じられない。

 僕が彼女に何をした? ただ側に居て、それ以外に何をしたと?


 誰にだって出来たことだ。特別なことなど何もしていないのに。


「――――――――馬鹿か? お前そんなに鈍かったか?」


 僕が一連の言葉を言い終えると、ガルシアが机に肘を突き、深い溜息とともに頭を抱えた。

 ミリアスも僕も理由がいまいち分からないで、首を傾げるほか無かった。


「確かに、やろうと思えば誰だってやれることだ。俺も、ミリィも」


 瓶の栓を外すことにして、手を動かしながらガルシアが言う。


「だがやったのは誰だ? 誰が一番お嬢ちゃんのことを思って、行動してる?」


「…………そこまでやってたと?」


「かー、これだから無自覚野郎は。自己評価が低すぎるんだよ」


 何故かミリアスの方まで見て、ガルシアは盛大に呆れた声を上げた。


「……少なくとも、彼女の信頼は行動の結果だ。俺では代わりにならない」


「六年間、ずっと見守るだけだった奴の言うことは違うな、ん?」


 大した騎士道精神だと、ミリアスと自分のグラスに林檎酒を注いだ。

 僕のグラスには、オリジナルマムとかいう飲み物を僅かに注いでから、リンゴジュースをなみなみと入れてきた。


「六年…………」


 その期間の長さに、昼過ぎの雑談が思い出された。

 僕が忘れているらしい過去、思い出。今の話題と全く関係ないとはいえ、あの言葉は――――僕の思考を外から引っ掻いて、気を惹こうと躍起だった。


「カズ?」


 僕が呟いたことに、どうしてかガルシアが反応した。


「……いや、あまり関係ないことだけれど」


「なんだよ、別に良いから話せよ。気になる」


 僕がこうなった原因に、この男が関係していると言っていた。本当に僕の忘れたことを知っているのだろうか。


「――――お前は、僕のどこまでを知っているんだろうって思って」


「唐突だな、前にも似たようなこと訊かなかったか?」


「いや、聞かされたんだ……僕は奪われたギフテッドだって。信じられるかは別として……それが気になってさ」


「聞かされた、って……」とガルシアが手を止めた。傾けられたグラスから、二滴ほどの酒が机の上に垂れる。


「あいつからか?」


「そう……あいつから」


 名前を言おうと思ったが、どういうことか思い出せなかった。


 ウィズネア。そうだ、ウィズネアだ。まあいいか。


「そうか、言ったのか……なら………………クソ、駄目そうだ」


 なんと言われた、と問いが返された。


「僕が見えないこと、声が直接聞こえないこと、それで……僕は何かを忘れさせられているって。確かめようが無いんだけれども」


「マジか」


 ガルシアが発したイントネーションは、驚きというよりも、確信に近かった。


「カズ……保証するぞ。それはマジだ。それだけは言える」


「え?」


「厳密には『言えるようになった』って感じだが。悪ぃが、それ以上はまだ無理だな」


「つまり、お前が関係しているのも本当だと?」


「あぁ、関係してるも何も……あぁクソ、リストのどれが言えるのか分かんねぇ。今はここで止めだ。本題じゃねぇ」


 止めていた手を動かし、中身を一気に飲み下した。

 割ることもせずにそのままいったが、度数はいかほどなのだろうか。


「……カズ、お嬢ちゃんのことを、どこまで知ってる?」


 二杯目を注ぎながら、彼は念を入れるように尋ねてくる。

 僕が知っているかどうかを確かめて、そこから何かを推し量ろうとしているのが分かる。


「いや、ほとんど。本が好きそうなこととか、臆病そうというか、大人しくて……」


「……だろうな」


 予想通りだったようで、暫く喋りそうに無かった。

 その間に僕もグラスに口を付けた。芳醇で濃厚な香りは、栽培も製造も手が掛かっていることがよく分かる。果実の甘さが、香辛料か何かの辛みでより締まっている。


 口の中がすっとするが、メントールとは違う。


「…………やっぱ、知るなら最初からだよなぁ」


 三杯目の原液をミリアスに止められ、渋々水を注ぎながらガルシアは決断したようだ。


「カズ、お嬢ちゃんはどこで生まれたと思う?」


「ガルシア?」


 ミリアスが驚いたように制止する。


「んだよ。何百人、何千人と人生を間借りし続けてきたんだぞ? その中に……知ってる奴が居ただけのことさ。目的の合間合間に探してはいたが」


 お前の知る最初とたったの二年差だし、証拠の裏付けにしかならなかったがな、とぶっきらぼうな言い方。



 彼は何時からこの世界に居て、どれだけのことを知っているのだろう。


 僕がこの世界に来る前のことも知っていた。僕が忘れているだけで、どこかに彼がいたのだろうか?


「……長い話になるし、もしかしたら、知らなくても良いこともあるかもしれない……あったとして、俺が選ぶわけにもいかないがな」


 それから暫く、最初の言い回しを考え始めた。

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