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蒼と葵  作者: よしくん
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第三十話

プライベートと仕事が大変なことになってましまい大変遅くなりました。

続きをどうぞ。

「花咲さん、もういいわよ。」


そう言われて花咲さんがこちらを向く。“私”は堂々と仁王立ちのカッコで花咲さんの前に立った。


蒼が緊張してくれたおかげで私が主導権を取れたみたい。その上抵抗される感じがしない。もしかして意識がないのか。このままずっと意識を無くしていればいいのにと思うけど、そうはいかないでしょうね。本人は自覚がないだろうけど、10年間も主導権を取り続けてきた蒼がいきなりいなくなることはないはず、今はたまたま意識がないだけだと思う。折角だし、しばらく自由にさせてもらうわよ。今はいつでも自由にできるわけでもないし出来れば、協力者も欲しいしね。


「どう?私の身体は間違いなく女性でしょ?触って確かめてみる?」


花咲さんは遠慮しつつも私に近づき頭のてっぺんからつま先まで一往復して、驚きつつ答えた。


「ほ、本当に女性の身体ね。」


「もちろんよ。正真正銘普通の女の子よ。触って確かめていいのよ。女の子同士なんだから気にせずどうぞ。」


一瞬手が動いたけどそれ以上は、花咲さんは動かなかった。それよりも私の言動を聞いて不思議そうにしていた。別に女の子同士なんだからいいのに、やはりまだ、蒼と思ってるのかな。当然よね。入れ替わったなんてわかるわけないか・・・


「触らなくて大丈夫。どう見ても女性よ。ところで双葉さん?何か話し方が変わってない?急に女の子みたいな喋り方になってるよ。」


「それは、そうよ。だって私は女の子ですもの。」


「それはそうだけど・・・」


やはりわかってない。当たり前か、私の意識がいつまで身体を動かすことが出来るかわからないから一応説明しておこうかな。


「これから言う事は秘密に出来る?」


「・・・秘密?」


「そう、秘密。今は誰にも言わないって約束してくれる。」


「“今は”なの?」


「しばらくの間黙っていてくれればいいわ。今、蒼は何も知らないから、情報を与えたくないの。だから言わないって約束して。」


少しの間、考えるようにしてから答えた。


「うん。わかった。誰にも言わないよ。」


それを聞いてから少し安心し、私は自分の事を話す事にした。


「実は私は蒼ではないのよ。」


「えっ・・・どういう・・・こと?」


「分かり辛いかもしれないけど、この体には2つの人格が存在するの。男の人格の蒼と私こと女の人格の葵がね。ちなみにそれぞれ漢字が違うだけでだから呼び方は一緒よ。それと男の蒼は私の存在をなんとなくしか知らない。だからこうして私とあなたが話している事は知らないの。まあ、たまに意識があるみたいで、私の意識が出てくるの邪魔するのよ。」


「そ、そうなんだ。でもどうして?わたしに話してくれるの?わたしはあなたと面識もなければ、話した事もないよ。」


「私も難しい事は分からないけど、蒼の見たり聞いたりしたことは、私の体験でもあり知識でもあるの。なんて言えばいいかな。蒼の見ている風景、音、匂い、感触、味覚の情報が全て私に伝わるの。だけど感情を表に出したり、身体を動かす事は出来なかっただけ・・・」


ここ10年出来なかった。今回の身体の変化でこうして10年ぶりに自由に話せるし動けるって事までは言わなくてもいいかとも思って言わなかった。


「わかった。だからと言って、私が信頼出来るってどうして思えるの?」


「そこはね。言い辛いだけど、私と蒼は感情を共有しているみたいなの。蒼が好きなものは私も好きだし私が好きなものは蒼も好きなのよ。まぁ、男と女の違いがあるから同じ好きでもちょっと違う部分もあるけどね。例えば、私が男の子を好きになれば、それは恋愛感情から来るものだけど、蒼はそれを親友的な感覚で感じているみたい。それは私にも言える事であなたは私にとって話したことはないけど、とても仲がいい友達だと思えるの。蒼の影響なのか、私の経験からなのか、なんとも言えないけどね。」


「そ、それって・・・双葉くんが私に好意を持っていたって事?」


「そう・・・なるかな。」


蒼は、間違いなく花咲さんの事が好きなんだけど、ここは濁しておいてもその前の説明でわかってしまっているかもしれないけど、流石に直接口にするのはやめておこう。本人は直接言うつもりも無いみたいだしね。


それよりまずは花咲さんと仲良くなりたい。今は一方通行の思いだけだったけど、これを機会に本当の友達になれるかもしれない。もう一人で居るのは嫌・・・


久しぶりに話ができて、病院では少しの間ママと話が出来ただけだし、こんなにも人と話すことが楽しいなんて、ずっとこうしていたい。


「私は、ずっと身体を動かす事が出来なかった。誰かと話したくても話せなかった。誰かと手を繋ぎたくても出来なかった・・・だから今はとても嬉しいの。もう一人になりたくないのよ。だから私と友達になってこれからたくさん話をしたい。お願い・・・」


今までの孤独に戻りたくない。思わず感情が思いっきり出てしまった。ちょっと引かれたかな・・・


難しい顔をして花咲さんがこちらを見ている。


「・・・そんな事があるなんて信じられないところもあるけど実際に男から女に変わっている現実があるのだからあり得るのかもしれないね。事情はわかった。友達になろう。これからよろしくね。」


そう言って、優しい笑顔をこちらに向けてくれた。


「しばらくは迷惑掛けちゃうかもしれないけど、こちらこそよろしくね。」


友達になってくれる。今の状況は私自身に自由がほとんどない。そんな私にも友達ができた。嬉しくなって花咲さんに笑顔で答えた。


「友達なんだからどんどん頼ってよ。」


「ありがとう。花咲さんあなたの事、弥生って呼んでもいい?蒼はあなたの事を花咲さんとしか呼ばないだろうし、そうすれば私か蒼か確認しなくても直ぐに区別つくでしょ。」


「そうね。そうしてもらえるとわかりやすくていいかも。私もあなたの時は葵って呼ぶね。」



私は弥生と友達に慣れたことが嬉しくて、制服を着るのを忘れて音楽室から出て行こうとして弥生に慌てて呼び止めらて要らぬ恥をかくところを守られた。


顔を真っ赤にしならがお礼を言い、これは記憶の奥に封印するしかないと心に誓った。


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